第7話 義妹と恥を晒し合うとか。

「優斗……起きて」


 目が覚めると、至近距離に瑠樺の顔があった。どうやら、僕の布団の中に潜り込んで来たのだろう。

 一人で寝るのが寂しいのか、こうしてしょっちゅう潜り込んで来る可愛い妹だ。


 四月に親の再婚で兄妹となった僕達だったが、同じ屋根の下で年頃の男女が暮らしていたら、こうなってしまっても仕方ない事である。


 二人きりの時はこうして甘えて来る義妹の瑠樺。そんな瑠樺の事を兄妹以上の感情を……。


 持ってるわけがない。


 なるほど……これは夢だ。


 そもそも、僕の義妹がこんなに可愛いわけがない。

 確かに見た目は学校でも一二を争う美少女で、グラビアアイドル並みのスタイル。

 まだ高一なのにFカップ。

 だが、中身は最悪。


 入学早々に、告られる事多数。

 だが、撃沈した男子生徒は登校拒否や、自主退学に追い込まれたらしい。


 瑠樺に出会わなければ、僕は暗黒の高校生活を送らずに済んだ。

 疫病神でしかない。

 僕の夢の中にまで出てくるとは、図々しい。


 そんな妹を、可愛いと思うわけがない。

 そんな事を考えていると、 不意に瑠樺の両手が僕の頬を固定して、顔を近付けて来る。

 えっ? ちょっ……まさか!?


 瑠樺のぷるぶるっとした唇が近づいて来る。


 え? 夢の中の出来事だけど、キスしちゃうの?


「やめろぉぉぉっ!」


「ひっ! ―――いきなり怒鳴らないでよ! 心臓止まるかと……はァ、びっくりした」


 気合いで夢から覚めると、部屋に瑠樺が居て、僕の部屋のゴミ箱を抱えていた。


「いや……人の部屋で何してんの?」


「明日ゴミの日だから、集めてたんだけど、アンタまだ寝てたから静かにゴミ持ってこうとしたら怒鳴るからビックリした」


 どうやら、ゴミを捨てようとしてくれたらしい。

 僕の部屋を漁ったり、寝顔を眺めていたわけではなく、良かった。

 改めて時計を見ると、まだ八時前だった、

 なんでそんな早起きなの?

 ギャルってそうなの?


「そうか……でも勝手に入って来るなよな?」

「あぁ? アンタがゴミ溜めてるでしょう? 大体、部屋の掃除とかしてんの? 臭いんですけど」

「うるさいな……してるよ!」

「してたらこんなに散らからないでしょ! つーかさ、ゴミ箱ん中ティッシュ多くね?」


 ぐっ……。

 確かに、最近性欲が爆発気味なので、ティッシュの消費量は多い。だが、瑠樺にはそんな事情など話したくない。


「か、花粉症なんだよ……」


 苦しい言い訳をしてしまう。

 瑠樺は納得したのか、黙ってゴミ箱の中を大きなゴミ袋に入れた。

 どうやら信じたみたいだ。良かった。

 健全な男子高校生に、ティッシュの使い道を聞くなっての!


「シコった言い訳はいいから、早くその汚い手と顔洗いなさいよ。 朝ご飯出来てるから」


 バレてました。


 僕は恥ずかしさを紛らわすように、ベッドから跳ね起き、洗面台へ向かった。

 手早く顔を洗い、さっぱりすると、ダイニングへ向かった。



 ダイニングテーブルには、美味しそうなベーコンエッグと、トースト、コーヒー、そして、何故かサラダが置いてあった。

 先に起きた瑠樺が用意してくれたのだろう。


「いただきます」


「ちゃんとサラダも食べなさいよ。 どうせ今まで野菜なんてろくに摂ってなかったんでしょ?」

「そんな事ないぞ。 マカロニサラダはよく食べてたからな」

「マカロニは野菜じゃねーよ! 生野菜食えっての!」


 なんだコイツは! お母さんか?

 ギャルってのはハンバーガーとフライドポテトしか食べない集まりだと思っていたのだけど……。


「あー、それと午前中は部屋の掃除ね。 シーツは洗濯して、布団も干すから、隠してるエロ本見られたくなければ片付けなさい」


「エロ本はねーよ! 余計なお世話だからほっとけ!」

「隣りが汚部屋とか嫌だから言ってんの! てめぇのシコシコ部屋掃除するから! はい決定!」

「シコシコ部屋とか言うな!」

「いいから食ってろ!」


 瑠樺は、僕を睨み付けると、食器を片付けて部屋の掃除を始めてしまう。


 しまった! 部屋にはエロ本は無いけど、エロゲーとか、エロラノベがある。見つかってしまうと、大変な事になるぞ! 僕は慌ててご飯を掻き込むと、瑠樺の後を追った。



 僕はかつてないほどの速さで階段を駆け上がった。それは多分、忍者レベルの速さだった。知らんけど。


「瑠樺ッ!」


 部屋の扉を勢い良く開けると、瑠樺は僕に構う事なく、ベッドの布団を持ち上げていた。


「何よ、そんなに慌てて」


 瑠樺は学校のジャージ姿に顔には紙マスクをしていた。どうやら一度自分の部屋に行き、着替えたみたいだ。


「な、なんだ着替えたのか……マスクまでして」

「だって服汚れるし。 臭いし」

「悪かったな!」


 良かった……。エロゲーとかは見つかってないみたいだ。

 瑠樺が布団に気を取られている間にこっそり隠そうと、あたかも掃除を手伝うフリをしてブツを探す。


 が、見つからない。


 あれ? 確かこの辺りにぶん投げてあったはず……。

 僕は机の隣りのスチールラックを漁ってみるが、それらしいモノは見つからない。


「隠したいモノはこれじゃないの?」


 瑠樺のその手には正に探していたエロゲーとエロラノベが握られていた。

 しまった! 油断した! 僕は急いで瑠樺に駆け寄り、その手から奪い取ろうとしたが、あっさりと避けられる。


「えーと何これ、『エロから始める異世界性活』『陰キャだけどハーレム出来た』意味分かんないですけど笑」

「やめろぉぉぉッ!!」


「ちょ……大声出すな! それにさ、これは何よ? 『ドSメイド嫁と淫らな日常』メイドなのか嫁なのか分からないしウケる笑笑」

 瑠樺は紙マスクを少しずらし、肩を震わせながら笑う。

 こ、殺してやりてぇ……。

 怒りは頂点に達した瞬間、何故か不思議な感覚になり、逆に落ち着いてしまった。


「―――ふぅ、勝手に笑ってろ」

「ん? 何落ち着いちゃってんの? オタクで変態のクセに」


「お前が僕の部屋を掃除してくれてるお礼に、お前の部屋掃除してやるよ」

「は?」



 僕はそう言うと、瑠樺の部屋に押し入った。

 部屋に入ると、明らかに僕の部屋とは違う香りが漂っていたが、今はそんな事どうでもいい。

 整理整頓された部屋はベッドと机があるシンプルなものだ。


 クローゼットを開くと、半透明の衣装ケースがあった。

 その最上段を容赦なく開ける。

 中には綺麗に折りたたまれたカラフルなパンティ達が詰まっていた。


「ちょ、そこはダメぇぇぇッ!」


 慌てて追いかけて来た瑠樺が僕が何するか勘づくと青ざめ、僕の腕を掴むが、もう遅い。


「うるさいッ! 第二回パンティ祭りだ!」


「やめてぇぇぇぇッ!」


 悲痛な叫びをあげる瑠樺を無視して、色とりどりの下着が宙を舞う。


「わっしょいわっしょい!」


 手触りで分かる。高級なシルクの下着や、シンプルな物まで様々なパンティ達が花弁の様にヒラヒラと舞う光景はまさに圧巻。


 嫌がる瑠樺の抵抗も虚しく、下着が舞っている。

 だがその時、下着に混じる何やら硬い物を掴んでしまい、一緒に放り投げてしまった。


 ゴトッ。と音を立てて床に落ちたソレは、一瞬なにか分からなかったが、どっかで見た事があった。


 それは小型の電マだった。

 コードは付いていない、電池式の物だ。

 ピンク色で可愛らしい雰囲気ではあるが、紛れもない電マ。

 電動マッサージ機の略称だが、先端が振動してマッサージをするアレだ。

 いわゆる大人のおもちゃである。


 静まり返った部屋に、落とした衝撃で作動した電マの先端が床を削る音だけが響く。

 それは、僕に何が起こったのかを理解させるには充分なものだった。


「瑠樺……お前コレ……」

「ち、違うの……これは……た、誕プレで

 ……もらっただけだから!」


 瑠樺が半泣きで言い訳してくる。

 そんなもん誕生日にプレゼントされるわけ無いだろうけど、見てはいけないものを見てしまい、罪悪感が芽生える。


「瑠樺……悪かった」


「……私も、調子に乗ってごめんなさい……」


 先程までの威勢の良さはなくなり、僕達は黙々と部屋の掃除をした。

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