第6話 義妹の慣れた腰使いとか。

 この体勢はマズイ。

 完全にアレな体勢になっている。



 密着している部分が、瑠樺の体温を感じとり、ジンジンと痺れていく感覚に陥っている。



 そして顔が近い。

 人形の様に整った瑠樺の顔。

 透き通る様な白い素肌に頬にはうっすらと赤みが差している。

 そしてプラチナブロンドの髪が僕の額を擽る。

 だけど冷たい輝きを放つ瞳が僕を見つめて離さない。

 まるでメドゥーサにでも出会った様に動けずにいた。


 息と息がぶつかる距離にある唇。

 ほんのりとした朱色の程よく厚みのある柔らそうな下唇はリップでも塗っているのかツヤがある。


 綺麗な顔だ。

 悔しいがそれは事実で、現に僕は瞬きも忘れる位に見入っている。


 すると、


「―――ねぇ、アンタって童貞?」



 いきなりだった。

 僕が何も言えずにいると、瑠樺は小馬鹿にする様に、 勝ち誇ったように嘲笑った。


「童貞で悪いか」

「別に……そうなんだろうなって思っただけ」


 瑠樺の鼻息が僕を小馬鹿にするように、フンッてなった。ムカつく。


「お前は……あるのかよ……その……」

「あるに決まってんじゃん。 とっくに貫通済みだし」


 僕は絶句した。

 しかし、そんな事は分かってはいたはずだ。瑠樺が坂東の彼女な時点で、性体験なんて幾らでもしてるだろう。


 もちろん、分かってはいるが、改めて本人の口から聞かされると何とも言えない。


 日は浅いが、一緒に生活して見てきた瑠樺の家での立ち振る舞いは、そんな雰囲気を感じさせない位に、よく出来た女の子といった印象だった。


 迂闊にも、少しばかり絆されかけていた心を砕かれた気分になった。


「僕が童貞なのはお前のせいだろ」


「え? なんで?」


「だってあんな事がなければ僕だって今頃は彼女の一人くらいはいたかもしれないじゃないか!」


 僕は勝手に瑠樺と出会ってない世界線の話を持ち出す。

 あの日、瑠樺のスカートの中を見なければ、イジメに合うこともなく、普通に楽しい高校生活が待っていた。かもしれない。


「んー……んん? いや、それは流石にないんじゃない?」

「そんな事分からないだろう! 伝説の木の下とかでバンバン告られまくって毎日ウハウハの高校生活が始まるはずだった。 かもしれない」

「そんな木ないし」

「まぁ、それはそうだけど。

 もしかしたらの話だ」


 すると瑠樺は、突然笑い出した。

 何がそんなに面白いのか分からないけど、笑っている。


「ハハハハハ、何それ。バッカみたい」

「なんだよ……」

「バカすぎるし、結果まだ童貞だし」

「バカにすんなよ。 お前なんか嫌いだ」

「そんな事言ってるわりに、硬くしちゃって説得力ないけど?」

「…………」


 いつの間にか瑠樺との密着部分が反応してしまっていた。


「いやいやいや、これは不可抗力だって……」

「へぇ〜……えいっ」

「はうあっ……ちょ……うぅっ!」


 瑠樺がニヤニヤしながら、腰を揺らす。腰を動かされた僕は情けない声をあげる。


 その腰使いはセックスの動きだ。


 明らかにそれは慣れた動きで、僕の布越しモノへと押し付け、刺激し、擦り上げてくる。


「や、やめろって!」


 僕は瑠樺を突き飛ばすと、思ってたより力が入ってしまったのと、瑠樺が軽かったのか、勢いよくローテーブルに瑠樺の後頭部が鈍い音を立てて激突した。


「いたッ?!」

「ご、ごめん……強く押しすぎた」

 瑠樺が頭を擦りながら起きあがると、ムッとした表情になり、僕に非難の眼差しを向けてくる。

「バカ! バーカ! どーてー!」

「わ、悪かったって」

「それに……痛かったし……」

 瑠樺が恨めしそうにジト目になる。

 しかし、ぶつけたのは頭なので痛いのは当然だろう。

「ごめんてば」


 僕は謝るが、瑠樺は僕を睨んだままだ。


「明日ヒマでしょ? 買い物行くから付き合って!」

「え? 明日は……」

「ヒマでしょ!」

「あっはい、ヒマです」

「じゃ、買い物決定で」


 そんな訳で、僕は日曜に瑠樺と出掛ける約束を取り付けられ、履いたばかりのボクサーパンツを少し汚した。


 ◆



 何にもして来なかった。


 完全にセックスの流れだと思ったんだけど……。


 押し倒しすどころか、突き飛ばされて拒絶されるとか。


 私が優斗にしてあげられる事なんて、それくらいしか無い。


 性欲の捌け口にでもしてくれればいい。

 それで優斗の気が済むなら。


 私じゃ、優斗をイジメから救ってあげる事は出来ない。


 だから、家の中でなら何されても構わない。メイド服着させられるとは予想外だったけど。


 なのに優斗ったら……。

 何よ、あのヘタレ! ヤラせろって言えば、ヤラせてあげるのに。

 完全に私から押し倒す流れだったじゃん!


 思い出すだけで恥ずかしい。


 まるで私が優斗とエッチしたいみたいに

 思えるじゃん。


 優斗がね……どうしてもって言うなら、ヤラセてもいいぐらいのスタンスでいきたい。


 そうする事で、優斗も楽になれるし。


 ……違う。


 楽になりたいのは私だ。


 許されたいだけだ。

 だから、何でもしてあげたい。

 私が優斗にしてあげれることはそれしかないから。


 でもメイド服は勘弁して欲しい。

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