第26話 球技大会①
今日はいよいよ球技大会。
各学年クラス対抗で行われる球技大会は、男子がサッカー、女子はバレーボールだ。
男女合わせての総合ポイントで優勝すると、売店のプリン無料券が配られる。
そのためか、各クラスが闘志を燃やしている。うちの一年B組は、比較的運動部員が少ないせいか、やや士気に欠けていた。
既に皆、体操着に着替えを済まし、教室に集まり朝のホームルーム前のざわつきを楽しんでいる。
今日は通常授業が無いので、いつもより気の緩んだ空気感があった。
そんな浮かれモードのクラスメイト達とは対照的に僕の隣りに座る瑠樺は緊張しているのか何かブツブツ呟いていた。
「……ボールハトモダチコワクナイ」
「る……北嶋さん、大丈夫……? 顔色悪いけど……」
「……ゆ、キモオタに、し、心配される事じゃないし。少し、ほんの少しだけ緊張しているだけ」
やっぱりかなり緊張しているみたいだった。練習は充分とは言えないが、最低限、バレーボールにはなるであろうくらいにはなったはずだ。
それより、藤咲がまだ来ていない事の方が心配である。
あれだけ頑張ると言っておいて当日に姿を表さないとか普通にやりそうだから本当に困った奴だが……。
先程LINEをしたら僕が言うまで球技大会を忘れていたらしく、体操着を取りに家に戻っていた。
『スポブラにしたよ♡』
藤咲からのメッセージが届く。しかも画像付きだった。画像には口元から下しか写ってないが、上下スポーツ下着なるものを着用した藤咲の姿が写されていた。
あの馬鹿!何でこんなもの撮ってんだよ。しかも僕に送りつけるってどういう神経だよ、マジで。
『変な画像送ってないで早く来い!』と返信すると、直ぐに返信が来る。
『気にすんなし♡ウチらの仲じゃんよ〜♡直ぐイクから待っとけ』
本当に、あの馬鹿は……。
藤咲のメッセージに呆れていると、教室の前の扉がガラガラと開き、担任のハンセンが入って来る。
「おーし、席着けー、ホームルームやるぞー……藤咲はどうした?」
すると担任が藤咲不在に気付いた。
そこ気付くの早すぎない?
どれだけ藤咲の事気にかけてるんだよ!変態教師か?
「お、遅れるみたいです。さっきLINE来ました」
「おう、そうか……日野、仲良いのか? 藤咲と?」
「いえ、そんな……」
なんでそこ食い付いて来るの?今それどうでもいいでしょうに。僕はハンセンの言葉を否定しつつも、少しだけ藤咲が気になってしまう。
本当に大丈夫なのか?あいつ。
すると、教室の扉がガラガラと開き、藤咲が息を切らせながらも、教室に入ってくる。
「おー、間に合った間に合った」
良かった、間に合ったみたいだ。ていうかはえーな!
藤咲は僕を見つけるなり、小さく手を振って来る。
僕はそれに軽く手を振り返すと藤咲は嬉しそうにしながら隣りの席へと着いた。
そしてホームルームが始まり、球技大会についての話が始まる。
実行委員のタナカと瑠樺が壇上にあがり、大会説明を始めた。
主にタナカが喋っていて、瑠樺が黒板にそれを要約したものをスラスラと書いていく。見た目ギャルのクセして文字は見本の様に綺麗な字をしていた。
サッカーは15分ハーフで延長なしのトーナメント。同点の場合はPK戦。
バレーボールは2セット先取で同じくトーナメント方式。得点は先に15点を取った時点でそのセット終了となる。
各学年4クラスなので時間の都合上かなりコンパクトな試合だ。3位決定戦もあるので、各クラス2試合は必ずある仕組みになっていて、全員が参加する様になっていた。
男子第1試合、僕らB組はD組との試合だ。
D組にはサッカー部員が3人ほど居るらしい。因みにB組には1人も居ないので、早くも敗北の可能性がある。
ポジション決めは本当に適当で、陽キャラな奴らが前線になり、陰キャラが後方で守備にまわる、お決まりみたいな布陣。
陽キャラは目立ちたがり屋しか居ないので、点を取って女子にアピールしたいのだろう。分かりやすい奴らだ。
中盤はそれなりに参加して、クラスの一体感だけを味わう普通部隊。中学時代は運動部だったけど、高校では部活しないタイプのありふれた一般人。
後方には名前すら定かではない文化部系のモブ生徒達。生徒AからDみたいな奴ら。
メガネ率は高い。
そして僕は最終的に余ったゴールキーパーを任された。というよりされた。
負けたら僕のせいになる、怒りの矛先ポジション。初めから分かっておりました。
試合開始の直前、応援に駆けつけた女子の中に瑠樺が居た。
瑠樺は実行委員の合間を縫って見に来てくれた様だ。
そんな瑠樺が小さく手を振っている。
僕もそれに応じて軽く手を振ると瑠樺は嬉しそうに笑った。
何それ、可愛いんですけど!
瑠樺の可愛さはとりあえず置いといて、試合は一進一退の攻防で、両チーム無得点のまま、まさかのPK戦になってしまった。
予想外に目立つゴールキーパーとなった僕に、防がないとフルボッコにされそうな、味方が敵みたいな異様な重圧が漂う。
「キモオタに任せて大丈夫なん?」
「決められたらマジ無いわ〜笑」
そんな女子の声が聞こえる。いつもの僕ならここでトチりそうな所だが、今日の僕は違う。なぜなら瑠樺に格好悪い所を見せたくないからだ。
僕は瑠樺ほどでは無いが、運動があまり得意ではない。
相手のキッカーだって全員がサッカー部じゃない素人ばかりだ。
隅に決める技術はないはず。
目線と逆方向に蹴る事も恐らくない。
つまり、目線と身体の向きでシュートコースは丸わかりだ。僕は目線と身体の向きに注視し、キッカーがボールを蹴る瞬間、そのコースを先読みして、手でも足でも当てれば良い。
で、その通りになって、B組は勝利した。
結果は3-0だった。
途中からクラスメイトが僕の事を「キモオタ守護神」と言い始めた。
応援されてるのか、馬鹿にされているのが良く分からないが、誰よりも目立って活躍してしまった。
「やるじゃん、さっすがー」
試合が終わり、藤咲が肩を組んでくる。
腕に藤咲の胸の感触が伝わってくる。
その体育着の下には今朝LINEで送りつけて来たスポブラを身に着けているのだと思うと、なんか下半身がムズムズする。
瑠樺は実行委員として、クラスメイトからピブを回収していた。
そして僕の所に来ると、皆に聞こえないように言った。
「私も頑張るから見ててね」
「お、おう……」
僕からは何とも頼りない一言しか言えなくて、それが情けない。
でも瑠樺は満足そうに微笑むと皆の元へと戻っていった。
ぶっ殺したいクラスメイトのギャルが義妹になった。 紫電改 @sidennkai
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