第2話 義妹の胸はFカップとか。

 五月―――。


 北嶋瑠樺の「何でも言う事聞く」発言から十日が経ち、大型連休中に北嶋親子は我が家へと引越して来た。

 僕と父親の住む家は一軒家で、小さい頃に母を亡くしてから二人きりで部屋は余っていた。


 北嶋の家はアパート住まいだった為か、荷物も少なくて、僕の父がトラックを借りて荷物を運んで一仕事を終える。


「優斗! 瑠樺ちゃんに部屋案内してやってくれ!」


 階下から父の声が聞こえて、一階に降りると北嶋がジャージ姿で荷物を玄関先に並べていた。


 制服以外の北嶋を見るのは初めてで、化粧もしてないのか、薄いのか知らんけど印象が少し違って見えた。


 瞳の色はカラーコンタクトをしてないのか茶色気味で、普段のエロ汚い雰囲気がなく、なんと言うか……美少女そのものだった。認めたくないが、そう思った。


「―――あ、案内してよ……」


「あ……うん……」


 なんだか気まずい雰囲気のまま、僕は二階の空き部屋へ北嶋を案内した。


「ここだ」


 僕は階段を上がってすぐ左手にある扉を指差すと、北嶋が扉を開いた。


「トイレじゃねーか!」

「お前なんかトイレで充分なんだよ! 因みに僕も使うから綺麗にしとけよ! このビッチが!」

「―――ビッチじゃないし! 冗談やってないで、早くお部屋! 私の部屋案内しろや!」


 北嶋が声を荒げて僕を睨み付ける。

 これ以上ふざけていると、学校で何されるか分かったもんじゃないので、仕方なく僕の部屋の隣りを案内した。


「わっ、広い……」


 北嶋は目を輝かせて部屋を見渡す。

 八畳程度の洋室にここまで喜ぶとは少し驚きだが、今までアパート暮らしで自分の部屋は無かったらしく、嬉しいのかもしれない。


「ベッド組み立ててくれたんだ? 助かる〜」


 先に届いていた新品のベッドは組み立てて部屋の角に設置しておいた。


「ああ……部品が余りまくったけど大丈夫だ」

「余らせんなよ! 怖いんだけど!」


 冗談で言ったのだけど、慌てる北嶋の顔が見れて満足した。冗談だと伝えたら、足を蹴られた。



「キモオタの部屋はどこなの?」

「隣りだけど見せねぇぞ!」

「いやいや、興味ねーし。 覗き穴とか無いわよね?」

「ないけど……なるほど、その手があったか」

「目ェ潰してやろうか?」


 そんなやり取りの後、北嶋の荷物を部屋に運ぶのを手伝った。


「重いのは僕が持つよ。 階段危ないし」

「え? あ、ありがと……」


 何だか少し、北嶋がしおらしい気がするけど、僕は見ないフリをした。


 雰囲気がいつもと違う所為か、なんだか調子が狂う。荷物を全て部屋に運び込み、残りは北嶋の部屋の荷物を整理するだけになった。


「あとは自分でやるから出てっていいよ」

「あぁ……、じゃあ……」


 部屋を出ようとして、ある物に気付いた。

 それは下着類と書かれたダンボール箱を見つけてしまった。これはきっと、見られたくない物。

 そう思えば思うほど、北嶋の嫌がる顔を見たくなった僕は、


「やっぱり荷解き手伝うよ」

「いや、いいって。 恥ずいし、下着とか……あっ!」


「そんな事気にするなよ、水臭いな。 これから一緒に住む家族じゃないか」

「ちょっ! 待って! いやッ!」


 僕は北嶋に止められながらも、勝手に下着の詰められたダンボールを開封した。

 開封した瞬間、何故か良い香りがした様な気がした。


「おい! 最低かよお前! マジありえねーし!」


 中から出てきたのは黒のレース生地のセクシーなショーツ。

 他にも可愛いデザインの物から大人っぽい物まで、多いのか少ないのか分からないけど、十数点。


 中には、あの日見た忌まわしい青いショーツもあった。僕はそのショーツを手に取り、なんかムカついたので、壁にぶん投げてみた。因みにツルツルしてて手触り良かった。


「何すんのよ! この変態!」


 北嶋が凄い剣幕で怒りだす。

 普段なら、そんな北嶋にビビってしまうだろうが、ココは僕の家。

 つまり、「何でも言う事を聞く」権利を発動させる事が出来る。


「うるさい黙れ。 今からパンティ祭りを始めるから邪魔すんな!」


「はぁ? パンティ祭りってなに!? てか、訳わかんないし! 馬鹿じゃないの!? キモオタ、マジキモいんだけど!」

「何でも言う事聞くんだろ?」


「う、うん……分かった、好きにすれば」


 僕の一言で北嶋が大人しくなった。

 北嶋は僕に逆らえない。だから、北嶋の下着を僕がどう扱おうが自由だ。


 さて、パンティ祭りとか言っちゃった手前、何かしなければならない。

 ぶっちゃけ勢いで出ただけだし……。

 被るか? いや、それは自分が恥ずかしくなるだけだ。


 と、言うわけで並べてみた。


 フローリングの上にカラフルなパンティ達が並べられていく。下着泥棒が捕まった時の押収物みたいな光景が部屋に広がる。

 それに、


「なんか凄い軍勢を率いてる軍議っぽく見えない?」

「見えねーよ!―――楽しい?」


「う、うん……割と」

「そう。良かったわね、パンティ祭り……」

 北嶋の目から光が消える。北嶋がどう思おうが知った事ではないが、嫌がると言うより、呆れてるみたいだ。


「この地味なパンツは何だ?」


 ツルツルとかスケスケとかのパンティに混じり、可愛らしさの欠けらも無い、綿生地のパンティが幾つかあった。


「あ……それは、生理用のサニタリーショーツだし」

「なるほど、生理の時用か……つまんないな」

「人の下着見てつまんないとか言うなよ変態……ねぇ、もういいでしょ! 出てってよ!」


 フフ……嫌がってるな。次はブラジャーを……!?


 ダンボール箱の中から黒いブラジャーを見つけて、僕は絶句した。


 何だこの、メロンでも運べそうなブラのカップ部分は!まるで丼ぶりじゃないか!


「これが北嶋のオッパイか……」

「おい……何ブラガン見して、勝手に私の胸を想像してんじゃねぇよ!」


 北嶋が胸を隠しながら僕を睨む。


「いや、これ本当にメロンでも入るな……なぁ? サイズいくつ?」

「―――Fだけど」


 Fカップだと?


 まだ高校一年だと言うのに……!

 僕は手に取ったブラジャーを見つめた。


 北嶋の服の下には、その大きさの膨らみがあるんだと思うと遺憾ながら興奮してしまった。

 その様子を感じとったのか、北嶋が胸を抑えて後退る。


「言っとくけど! いくら言う事聞くっても限度ってのがあるでしょ? スゴいエッチな事とかは……その……」


 ごにょごにょと口を濁す北嶋。

 慌てる北嶋を見てると何故か嬉しい。

 学校では圧倒的に上の存在で、上級生すら坂東と一緒にいる北嶋に一目置いている。


 その北嶋が家では僕の言いなりになるしかないと思うと楽しくて仕方がない。


「別にお前なんかに欲情したりしないし」

「してんじゃん! おっぱいガン見してたし!」

「だから別に北嶋の胸なんか興味ないっての! 自惚れんなよ!」

「あぁっ? んだよ! じゃあ触ってみろよ! むしろ触らせてやるよ! こいコラ!」

「え……?」


 そう言って北嶋が両手を上げた。

 それはまるで元気玉でも作るんか的なポーズだった。

 高校一年のゴールデンウィーク。

 僕は女の子に胸を触れと言われた。

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