第23話 遊び人は敵味方関係なく襲ってくる。

「ばばばばばんどうッ!……くんッ!?」


【くん】で良かったか?それとも【さん】か?寧ろ【様】だろうか?

 敬称なんて心の中では呼び捨てにしてやってるが、現実に目の当たりにすると呼び捨てなんて、即死魔法をかけられる気がするので絶対に言えないが、今の置かれている状況で必死確定な気もしないでもない。


 藤咲エマは板東アキラの女である。

 彼氏彼女の関係かは別として、藤咲が板東に近しい存在なのは確かで。


 なので、そこには板東が現れるのは当然であり、その当然の当たり前を僕は失念していた。


 藤咲の部屋は板東らのたまり場なわけで、つまりそれは魔王城みたいな場所なわけである。そんな場所に武器屋で買った装備をアイテムボックスに保管したまま、魔王と戦闘になったみたいな状況下で。


「武器は装備しないとダメだぜ」と武器屋のキャラのセリフが頭をよぎった。


 その上、仲間の遊び人が遊びに行って戦闘不参加の状態でエンカウントした恐怖を僕は今体験しているのだった。


 要するに、絶体絶命なのである。


「おいキモオタぁ、だッから、なんでテメェがエマんち居るんだ?! あぁッ?」


 板東はまるで歯がギザギザの感じのキャラが喋りそうな口調で僕に詰め寄る。

 僕は、その板東の圧に気圧されて、一歩後ろに下がってしまうが、逃げ場はない。

 魔王からは逃げられない。


「い、いや僕はただ藤咲さんに連れられて来ただけで……」

「エマに誘われたァ? エマが男を部屋に招き入れたッてか? テメェそれどういう意味か分かッてんのかァ?! アァッ?」

「ぜ、全然ッ、変な意味とかじゃなくて……」


 本当に変な意味とかではない。多分。

 だがしかし、今の状況はあまりにも弁明のしようがない。


 だって藤咲はシャワー浴びてしまっているのだ。板東からしたら、男連れ込んでシャワーを浴びる。もう、セックスの流れである。まぁ、勿論そんな事はないのだけれど、何を言っても言い訳にしか聞こえず、僕は藤咲がシャワーから戻るのを祈るばかりで――。


 すると、ガチャンと浴室の扉の開く音がした。僕が死なずに済むには藤咲の言葉が必要だ。後は任せたぞ!そう思っていたら、


「キモオタくぅん、悪いんだけどウチのブラとおパンツ取ってくんね? キモオタくんの好みでいいからさ〜♡」


 脱衣所から藤咲が声をかけてきた。

 今、このタイミングでは誤解しか招かない要らん発言に僕は血の気が引いた。

 敵に攻撃強化魔法かけやがったよ!

 遊び人は本当に余計な事しかしない。


 恐る恐る振り返れば、元から怖い顔を更に怖くした板東が、世紀末覇者の様に拳の指をポキポキと鳴らし、一子相伝の●●神拳を放つ寸前の有り様である。これ死ぬヤツだ。最初から第二形態みたいな雰囲気だ。


「ご、誤解だ……誤解ですって!!」


「あァ? 言いたい事はそれだけかキモオタァァァッ!」

「ヒィィ――ッ!!」


 言いたい事は山ほどあるけど、出てくる言葉はザコキャラの悲鳴しかなく、

 僕は板東に首根っこを掴まれて、窓を開けるとバルコニーへと僕を放り投げられた。

 そのままバシルーラされたい。


「エマに手ぇ出しッてんじゃッねぇぞゴラァ!!」


「だから誤解だって! 僕は何もしてないって!」

「うるッせぇ! そっから飛び降りて帰れこのクソがッ!」

「誤解な上に五階だァァァ!」


 思わず叫んだが、今度は蹴りを入れてこようとした板東。


「ちょいちょいちょい! キモオタくんいじめんなよアキラぁ〜」


 そんな板東を後ろから羽交い締めする細い腕。

 それはやっと来た遊び人。藤咲エマだ。

 素肌にTシャツだけを着ていて、下はなにも履いていないラフ過ぎる格好だ。


「離せコラ! コイツぶち殺し……っ!」

「だぁーめっ!!」


 藤咲が羽交い締めから一転、板東の腹部に腕を回すと、ヒュンッて板東が飛び上がり、僕の視界から消えた。


 そしてゴツンと鈍い音と、僕の視界には藤咲が板東をジャーマンスープレックスで投げ落とした光景と、ブリッジ状態で露になる藤咲の下半身は、いわゆるノーパンなわけであり、そこには金色の草原がキラキラと輝き、幻想的な裂け目が……以下略。




「アキラぶっ飛びすぎー笑」

「いってぇ……おいエマ! 何しやがる!」

「隙だらけだったからね! 投げた♡」

「だからってお前な……ジャーマンはねぇだろが! 下に迷惑かけんな!」


 二人が言い争い? を始めた。

 相変わらず後先考えない行動をする藤咲と、意外と下の階の事を考えている板東のやり取りを僕は眺めていた。


「おいコラ、テメェはいつまでバルコニーに立ってんだ! さっさと帰れ! そんで二度とエマに触るな!」


 板東がバルコニーにいる僕を睨みつける。

 いや、触ってはないですけども。


「ウチとキモオタくん、まだ何もしてねーし!」

 まだとか余計な憶測させる事言うな藤咲。


「じゃあなんでコイツいんだっての!」

「マジで何もしてねーし! 裸見られただけじゃん! 大体、ウチが誰連れ込もうとアキラに関係なくね?」


 だから余計な事言うな藤咲。裸は見ていないぞ。

「関係あるだろ! オレは……っ! クソが!」


「キモオタくんはバイト先が一緒でサ! 時間あったし、ちょいウチに寄ってもらっただけだし……」

「んだよそれ……だからってシャワー浴びてんじゃねぇよ。 勘違いすんだろが!」

「妬いてんのマジきも。 そんな勘違いしないよねキモオタくんは。 ね?」

「も、勿論です」


 いや、普通に勘違いしました。

 もはや、そういう流れかと思いました。

 瑠樺ごめんなさい。いや、瑠樺に謝る事ないけども……ですよね?


「まぁ、エマに何かしたら殺すけどな!」


 藤咲には何もしてません。藤咲にはだけど。もし、瑠樺にしている事がバレた時、僕はどうなるのだろうかと思った。

 板東が僕を睨む。


「あ、ありません。何もないです」

「おいコラ! テメェ嘘ついてんじゃねぇぞ!」

「は!? アキラに関係ないでしょ!」

「あるんだよッ!!」

「あーそうですかそうですか! 分かったから! もう帰れよアキラ!」

「あぁ、言われなくても帰るわ! クソがッ!」


 板東は藤咲に背中を押され、玄関から追い出される。そしてバタンと閉まる扉。僕はその扉を呆然と眺めていた。



 板東が居なくなった安堵と、追い出されるのが僕じゃなくて良かったな。という安堵がダブルで来て、何とも言えない気持ちになった。

 そして僕が室内に戻ると、藤咲は僕を待ってたかのように話しかけてきた。


「それで着て欲しい下着決まった?」


「それマジで言ってたんかお前は!!」


 僕はそう言って、頭にチョップをした。

 全く反省していない藤咲エマに対して怒りたい気持ちはあるけれど、それと同時に救われてもいた。

 結局のところ、僕は藤咲の下着を選んだ。

 干されていた下着を適当に手渡しただけだったのだが、


「ほほう……こんな透け透けをバイト中に履けと? キモオタくんも中々ですなぁ?」

「う、うるせ」


 選んでしまったのは、赤いレースのショーツとブラジャーだった。

 同色で花柄の刺繍が施されているが、部分的に肌が透けて見えるエッチな下着だった。


 一緒にバイトする女の子が着けている下着が、どんな物なのか知っているだけでも変な気になってしまいそうなのに、極めて扇情的な下着をセレクトするあたり、僕も中々に変態である。と言うかそんな下着持ってる藤咲が悪い。


「じゃあキモオタくんパンツ履かせてくれるっしょ?」

「はい?」


 コイツ今なんて言った?

 パンツ履かせてくれ?

 いやいや、ありえないから。僕に藤咲のパンツを履かせるなんて、ありえなさ過ぎて頭パーンなるわ。

 からかっているのか?

 そんな事が頭をよぎったが、 しかし、その考えは覆された。

 藤咲はベッドに座ると片足を上げて僕に向かってこう言ったのだ。


「ほらぁ〜早くぅ♡ なんつって」


 それはまるで、僕を誘惑しているみたいで。でも逆に試されているかのようで。

 或いはただふざけているだけのようで。


 僕を混乱させる。


 目の前に居るのは、あの藤咲エマだ。

 金髪碧眼のハーフ美少女で、頭の中以外はハイスペックJKである。


 中間テストでは僕よりも良い点をとったのが納得いかないが、それは全く関係ない。

 板東アキラとも対等な立ち位置で、噂では板東よりも強い説まで囁かされている。



 そんな学校のカーストトップに君臨しているリア充の藤咲エマは僕を……きっと見下しているのだ。

 そうに決まっている。


 どうせ藤咲は小心者の僕には出来ないと思っているに違いない。

 その挑発……乗ってやる!


「よし、履かせてやる」


 僕はベッドに座ると藤咲の足を掴み持ち上げた。そして、


「え!? ちょ……ちょっと……マ?」


 流石の藤咲もまさか僕が本当にやると思ってなかったのか、長い両脚を咄嗟に引っ込めてしまう。


「どうした藤咲。 それじゃ履かせられないぞ?」

「……っ!」


 藤咲は紅潮した顔を僕に向けるが、僕は気にしない。

 仕方ないだろう。本当に履かせて欲しいと言ったのは藤咲で、煽ってきたのも藤咲だ。これは仕方がない。


 ベッドの上で後ずさる藤咲を壁まで追い詰め、僕は藤咲の足を掴む。

 風呂上がりの肌はしっとりとしたツヤ感のある触り心地で。

 内股になって閉じている膝から太腿は瑠樺と比べると肉付きの良い、ムチッとした感じが色気を醸し出す。



「や、やぁ……」


 藤咲は顔を背けて恥じらう。

 その声はいつもの無駄によく通る声とは違くて。弱々しくて。

 その声と、藤咲の紅潮した顔に僕は……。


 僕はま白い藤咲の膝から太腿へと手を滑らせていく。指先から感じる藤咲の熱は先に進むほど熱を帯びていて。


 太腿の間にねじ込まれていく手指が藤咲の熱に包まれていく。

 柔肌に包まれて深く、深く沈んでいく―――。


「き……キモオタくぅん……ダメぇ……」


 僕の指先が藤咲の一番深くて熱く滾ったトコロに触れようとしたその時、


「―――なんつって♡ にひひッ!」


 パッと股を開くと同時に藤咲は僕の伸びきった腕を掴むとグイッと引っ張る。


「ふぇっ!?」


 引っ張られた右腕の脇と首に藤咲の両脚が巻き付いてくる。

 巻き付かれた首と腕が完全にホールドされた。これは―――、


 三角絞め!


「よっし! キマッたっしょ!」


 藤咲が僕に三角絞めを掛けてタハーっと笑った。コイツ……始めからコレを狙ってやがったのか?

 その為にパンツ履かせろとかエロい誘いを……?


「―――ッ!」


 完全に極まっていた。

 僕の腕と首は完全にロックされ、全く動けない。

 自分の肩と藤咲の太腿に挟まれて呼吸すらままならなくなっている。

 この状態が続けば、僕は落ちる。

 藤咲の脚は僕の首に絡み付き、その柔肌の感触がダイレクトに伝わってきて、そして、その……。

 僕の腕が……その……。

 藤咲の……その……大事なトコロに……。

 当たっていた。


 藤咲エマは下着を着けていない。

 だから藤咲は僕に【ノーパン】で【三角絞め】をキメている。


 僕の腕の裏側は今、藤咲の大事な部分と密着している。してしまっている!

 なんだこの状態!?


「うぐぐっ……! んふぅッ―――っ!」


「はは……き、キモオタくん鼻息荒くね? んッ……」


 藤咲がそんな事言いながらも、艶めかしく息を吐くいている。

 密着している部分は藤咲の汗と、汗じゃない何かで湿った感触に覆われている。

 その上、僕の鼻から下は藤咲の太腿に覆われているのだ。鼻息荒くなるのは仕方ない。


「キモオタくんっ、ほ、ほらぁ、早くギブしないとッ……んんっ! 本気で落とすよ?」


 藤咲は更にぎゅうっと締め付けてくる。

 藤咲の柔らかい感触が、僕の顔と首、そして腕に絡みつく。

 その締め付けは、本当に極まっていて、もう、落ちる寸前だった。


 せめて最後の抵抗をと僕はもがき、 そして、藤咲の太腿の内側を舐めた。

「ひゃうッ!?」

 流石に藤咲もこれには驚いた。

 だが、それでも僕は舐めるのをやめなかった。


「ちょ……ちょっとぉ! き、キモオタくぅん! な、舐め……んッ!」


 そして、僕は更にその太腿に歯を立てた。


「い、痛ッ! 痛い痛い痛いッて! ギブギブ―――ッ!」


 藤咲が絡ませていた脚を解くと、服従のポーズみたいな状態で固まっていた。因みにノーパンで。


 なんか知らんけど……勝った。


 藤咲は顔を真っ赤にさせて、涙目で僕を睨んでいる。



「か、カラダは好きに出来てもココロまで好きに出来ると思うなだし!」

「は? 何言って……?」

「嫌だと言っても無理矢理にその歪で猛々しいモノを使ってウチの事をメチャクチャにするんだろ! クッ……楽しんだ後に殺せばいい! よりによって安全日だと言うのに……ッ♡」

「どこの女騎士だお前は!? しかも何、期待しちゃってる感出してんだよ!」


「え……? だってもうエッチする流れじゃねーの?」

 さっきまでの殺し合いみたいな雰囲気にそんな流れあったか?


「いや……しないだろ普通に」

「マジかー……ぴえん」


「ぴえんじゃねえよ。何お前、僕とエッチしたかったの?」

「うーん? 別に? 何となく? するんかなぁって思っただけ……かな? 知らんけど」

 そう言ってテヘペロみたいな照れ顔を見せる藤咲。

 コイツの事マジで分からない。

 悪いヤツじゃない。それは分かる。だけど瑠樺と同じで貞操観念がおかしい。……よね?


「ウチのこと、生理的に無理な感じだったかな?」

「いや、そうじゃなくてさ……やっぱりそういうのは、好きな人とするもんだと思うよ」


 誰でもいいわけじゃないんだ。

 僕は藤咲エマのことが嫌いではない。

 けど、だからと言ってそういう行為がしたいわけではない。

 いや、まぁ……興味がないと言えば嘘になるけど、でも……なんというか、それでは虚しいと思ってしまう。

 許されるからと言って、心がなくても良いというわけではないと思うのだけど。


「じゃあさキモオタくんは瑠樺が好きなんだね」

「え? な、なんでそうなるの?」


「だって瑠樺とエッチしてるよね?」


 何故知ってる!?

 まさか、瑠樺が口を滑らせたのか……?


 藤咲は瑠樺の親友だし、瑠樺が喋っていてもおかしくはない。

 でも、そういうデリケートな部分は知られたくないよね?

 知られたくない恥ずかしいプレイまで網羅されていたらと思うと気が気でない。


「え、えぇと……その……でも好きとかじゃなくて……」


「え……? 図星かよ? マジで? キモオタくんと瑠樺が!? うわぁ……」

「え? 知ってたんじゃないの!?」

「いや、知らんかったけど、もしかして? ぐらいには思ってたよ。 なんか妙に近いし……女の勘ってヤツ?」


 勘かよ! 怖ッ! 女の勘マジ怖い。

 瑠樺にバレた事を話したら怒るかな?

 怖いな……。


「あ、時間ヤバっ! バイト行かないとだよキモオタくん! こんな事してる場合じゃないよ! もうっ!」

「いや、ほとんど藤咲のせいだろ……」


 僕と藤咲は慌てて支度をしてバイトに向かったのだった。

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