第15話 バイト先でエンカウントするギャルとか。
僕は驚愕し、固まっていた。
人生初めてのアルバイト初日。
それは緊張と新たな行動への期待感によるものでなく、対面した一人のスタッフに対してだった。
「あれれ? ひょっとしてキモオタくんじゃね? 店長から新人入るって聞いてたけど、日野って名前だったから気づかなかったし笑」
それは、いや、ソイツは同じクラスの藤咲エマだった。
僕の通う高校の二大ギャルの一角、藤咲エマである。
「ど、どど、どうして藤咲さんがここに……」
僕は自分の目を疑った。
普段から瑠樺と同じく、坂東とつるんでいる藤咲がなんでアルバイト先にいるのだろう。
兎に角、悪い噂が絶えない坂東一派の藤咲がマトモな金の稼ぎ方をする訳が無い。
きっとこれは何か犯罪を企てているのではないだろうか?
「なんでって、金欲しーからに決まってるし」
やはり何か巨額を得ようとしているのか?
売上を盗むとか、強盗の手引きか。
これはしっかり見張っておかないと……。
「とりま、レジの使い方から教えるっしょ。 レジ使えなきゃ話しになんねーしさ」
藤咲は接客マニュアルを棚から取り出すと、カウンターからレジを操作した。
「これをピっとやって、合計金額が出たら、客から金貰って入力すんのね……って、キモオタ聞いてんのかよ!」
藤咲は僕をカウンターの中に入れてレジ操作を実演していた。
あまりにもマトモに教えてくれる藤咲が、学校での藤咲とは別人の様に見え、脳が処理仕切れない。
それにバイト先だからか、普段のギャルメイクも控えめで、ピアスもきちんと外してあり、ギャルと言うよりハーフ美少女が隣りに居た。
近くで見ると肌の白さが際立って綺麗だった。
長いまつ毛に大きな碧眼の瞳。
口紅も塗ってない唇は薄い桜色で……。
ヤバい……藤咲ってこんなに綺麗だったんだと気付く。
凝視し過ぎてしまい、視線をズラすと藤咲の胸元に釘付けになる。
バイト先の制服の上からでも分かる凶悪な膨らみは、見ないようにする方が難しい程、存在感があった。
瑠樺も大きいが更にワンサイズは上のバストは、制服のバストの部分がパツパツに張っていて、ファスナーが締まりきっていない。
その上、商品を手に取りスキャンする度に揺れ動く塊は、もはや凶器だった。
「キモオタくんさ……ウチの胸じゃなくてレジの使い方見とけなんだけど」
「ふぇ? ……あっ……ごめん、その……あまりにもデカいなと……」
「正直かよ〜笑 でも先に仕事覚えよっか」
「すみません……」
もっと怒られるかと思ってたけど、以外にも藤咲は優しかった。
藤咲は僕の先に立つと、親切丁寧にレジ操作を教えてくれた。
その他の仕事ぶりも、手際良く動いているし、接客は明るくて、お客さんも笑顔で店を後にしていた。
僕の中で藤咲に対する印象は大分変わった。
「初バイトお疲れ様キモオタくん。 どうだった? 続けられそう? 人足らないから、続けてくれるとウチも助かるんだけど……?」
「うん、大丈夫。覚えること多いけど、藤咲さん教え方上手だから……頑張るよ」
「うん、じゃあ帰ろっか」
バイト先を後にして、夜の街を二人で歩いた。僕は自転車だったけど、藤咲は徒歩だったので、彼女に合わせて僕も歩く。
「藤咲さんは家近いの?」
「ん? ウチは駅の反対側だよ。 キモオタくんちは?」
「僕の家は……ハッ!?」
この時、ある重大な事に気付いた。
家バレはマズイ。
家には瑠樺が居る。
僕と瑠樺が家族だということは、瑠樺の親しい友人である藤咲にもバレてはならないトップシークレットだ。
バイト初日という事もあり、すっかり気が抜けていた。
コイツと上手く撒いて帰らなければならない。問題は藤咲の家より僕の家の方が近い点だ。どうする?
「……駅まで送るよ。 夜遅いし」
先に帰してしまえば良いのだ。我ながら名案だ。
「なんで話し逸らしたん? 急に送るとか不自然過ぎね?」
しかし、藤咲は僕の考えを読んでいるようで、直ぐに切り返されてしまう。
まずい! まずいぞこれは!
「あっ! 今日観たいテレビあったんだ! じゃ、帰るわ」
僕はそう言って逃げる事にした。
急いで自転車に跨り、走らせる。全速力で逃げてやる!
――が、
「おいコラァ! 逃げんなだし!」
走って追いかけて来たァァァ!
足はっや! こっちは自転車だというのに離れて行かない。
「くっそ! ついてくんなマジで!!」
「なんで逃げんだよーって! キモオタくんマジで謎なんだけど笑ー!」
僕がチャリを漕げば漕ぐだけ藤咲は近づいてくる。
マジで何コイツ……!? 怖いんだけど!? 夜の住宅街を自転車で逃げ惑う僕と、それを追走する藤咲。
リアル逃走中だ。
そして僕は情けなくも、藤咲に捕まってしまい、転倒していた。
「はぁっ……はぁ、ウチから逃げられねーよ? ウチこれでも県の記録持ってるし」
「クソ……自転車で負けるとは……っ!」
藤咲が逃がさないとばかりに、僕を後ろから羽交い締めにする。
苦しいが、背中に当たる胸の感触に意識が行ってしまう。
「ていうか、なんで逃げんの? 別に家がボロっちくても誰にも言ったりしねーし」
「いや……別にそういうわけでは……」
そう言いかけて僕は驚愕する。
今、僕と藤咲がいるのは正に僕の家の前だった。
「ここがキモオタくんの家?」
「なんで……っ!? どうして?! 違うッ!」
「いや、表札に日野って書いてあるし。 なんだ、全然ボロっちくないじゃん。 なんで隠すの〜? じゃ、お邪魔してこっかな♡」
「なんでだよッ! 寄ってく事ないだろ!」
「いいじゃんよ〜♡ ウチらもう仲良しじゃん?」
そう言って僕にその豊満が過ぎるバストをこれみよがしに押し付けてくる。
だけど僕はおっぱいに屈するわけにはいかない。
僕と瑠樺の関係が学校に知れ渡れば、瑠樺の立場が危うくなる。
それだけは――。
「優斗? 帰って来――!」
突然、玄関が開き、瑠樺が顔を出した。
そして直ぐにこの状況を見て固まった。
「え……? 瑠樺? え? え? なんで居るの? あれ? あれぇ?」
藤咲が瑠樺に気付く。僕と瑠樺はお互いに見つめ合って固まっていた。
頭が回らない。最悪の事態だ。
すると瑠樺は何を思ったか、
「ヒトチガイデス」
そう言って玄関の扉を閉じた。
カチャリと鍵の締まる音がした。
「瑠樺! おい待て! 鍵締めんな!」
「キモオタくん自分ん家なら鍵あるんでない?」
「そうか! そうだった!」
僕も動揺していたようだ。
鍵を開けて家の中に入ると、瑠樺が玄関先でうずくまってブツブツと何か言っている。
「ダメ……もう死ぬしかない……もしくは
……コロ……ス?」
「瑠樺が壊れたァァァ!」
藤咲が叫びだして、慌てて瑠樺を抱きしめた。青ざめて無表情になっている瑠樺の顔が藤咲の無駄にデカい胸に沈む。
顔半分が沈んでる。
窒息しそうだが、少し羨ましいとか思ってしまった。
「――それで? 説明して欲しいんだけど?」
時間を置いて、落ち着きを取り戻した瑠樺と僕、そして藤咲の三人はリビングにいた。
こうなってしまった以上はもはや言い逃れる事は出来ないと瑠樺も思ったのか、両親の再婚の事から全てを藤咲に話した。
「そっか……だからってさ、ウチには言って欲しかったよ瑠樺……ウチら親友っしょ?」
「ごめん……その、あ、アキラには……?」
「言わねーし。 ウチ尻は軽くても口は軽くないかんね! なんつって♡」
それ笑えないのだけど、少しホッとした。
完全には信用は出来ないかもしれないけど、藤咲は意外と優しい女の子なのかもしれない。
「とりあえずご飯食べさせてくれたら黙っておくよ」
対価が必要だった。
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