第4話 義妹と仲良く学校行くとか?

 寝ていると、身体に柔らかい感触と、どしりと下腹部にかかる重みを感じた。

 目を開けば、そこには義妹、北嶋瑠樺がいた。


「き、北嶋ッ!? な、なんで?!」


「もうっ、北嶋じゃないでしょ? 瑠樺って呼んでって言ったじゃん♡ ね? 優斗♡」


 そうだった。これからは互いの事を下の名前で呼び合う事にしたのだった。


「る、瑠樺……」

「えへへ♡ なんか恥ずかしいね? ちゅっ♡」


 瑠樺が僕の唇にキスをした。

 あまりにも突然過ぎて混乱してしまう。


「仲良しのシルシだよ〜♡ でももっと仲良しになれる事シよ?」


 いつの間にか、服を脱いだ瑠樺が僕の上で馬乗りになると腰を振りだす。

 これが……仲良し?

 あの北嶋瑠樺が僕とシている……。

 エッチしてしまっている。


「あぁ……瑠樺ぁ……もう……イクっ」

「うん、いいよぉ♡ イッちゃお♡ お兄ちゃんっ♡」


 おにぃちゃん来たぁぁぁぁっ!




「起きろってんだよ! バカ優斗!」



「ぐぼほっ!!」


 突然の腹パンによって目が覚める。

 見ると瑠樺が不機嫌そうに僕を見下ろしていた。

 夢だったみたいだ。


「もう7時半過ぎてんだけど! いつまで寝てんだよ! 行くんでしょ?」

「えっ? イクっていうか……既にイッたっていうか……」

「学校だよ、学校!」

「学校には行きたくない」

「バカ言ってないで支度しろ!」


 そう言って瑠樺は部屋を出ていった。

 僕はパンツを履き替えてから、支度をした。


 用意されていた朝食を食べ、玄関に向かうと瑠樺が待っていてくれた。


「じゃあ、一緒に学校行こ優斗くん」


 え……? 誰この人。 いや、瑠樺なのだが、明らかに僕への態度がさっきと違う。

 両親の前では仲良くする。とは言ってた気もするけど、こうも違うと接し方が分からない。


「ママ〜! 優斗くんと行ってくるね〜!」


「はーい、優斗さん、瑠樺の事お願いね〜」


 涼子さんの声がリビングから聞こえた。

 僕は瑠樺に手を掴まれて家を後にした。


 女の子と手を繋ぐなんて、いつ以来だろう。いや、初めてかもしれない。しかも相手はあの北嶋瑠樺だ。

 涼子さんはそんな僕たちを見てニコニコしていた。


 隣りを見ると思ったより近くに瑠樺の顔があって、ドキッとする。

 彼女の方もチラッと僕を見て微笑んだ。


 クソっ……顔だけは可愛いな。顔だけはな!

 しかし、可愛い女の子と手を繋いで学校行くなんて幸せが過ぎる。

 憧れのシチュ。僕にはもう、絶対に訪れない事だと思っていた。

 相手が北嶋瑠樺なのは気に食わないが、それでも何故かニヤけてしまう。

 だが、そんな幸せは家の角を曲がって直ぐに消滅した。


「何ニヤけてるの? 笑顔がキモイんだよ!」

「え……?」


 瑠樺は握っていた手を捨てる様に離すと、態度が豹変した。


「私、先行くから離れてくれる? 少なくとも500メートルは私に近寄らない事。 学校でもその距離キープだから!」

「同じ教室でそれは無理だろうが!」

「うっさい! 昨日、散々言う事聞いてやったわよね? だから学校じゃ関わらない。 そういう約束でしょ?」

「あっ……はい」


 つまりこうだ。

 瑠樺が僕の言う事を聞く代わりに、家では仲の良いところを両親に見せ、学校では絶対に関わらない事。それが交換条件であった。


 何でも言う事を聞くとは言ったものの、学校では完全に無効だし、家には両親が居るので、ほとんど意味がない。


 北嶋瑠樺を足蹴にして奴隷の様に扱ってやりたかったが、上手くいかない。


「あっ、そうだ。 コレお弁当」

「え? 僕に?」


 瑠樺がスクールバッグから可愛らしい巾着に入った弁当を僕に手渡す。


「だってアンタいつも、お昼ご飯パンばっかり食べてるでしょ? ついでに作っただけだから食べなさいよ」

「あ、ありがとう……」

「じゃ、私行くから……」


 そう言って瑠樺は足早に駅の方へと行ってしまった。


「どうして僕がいつもパンばかり食べてるの知ってるんだ……?」


 瑠樺の姿が見えなくなったのを確認してから、僕も学校へ向かった。



 瑠樺よりも遅れて教室に着く。

 朝のホームルーム前の騒がしい雰囲気が僕は嫌いだ。

 なるべく誰にも気づかれないように、ササッと席につき、先生が来るまでひたすら気配を消す。

 そんな中、瑠樺達の会話が耳に入ってくる。


「瑠樺、引っ越したんよね? 遊び行くっしょ!」


 瑠樺の前の席に座る金髪の長い髪をポニーテールにした女子が言った。

 名前は藤咲エマだ。

 まるでキャバ嬢がJKのコスプレしてるみたいな容姿のギャルだ。

 いつも騒がしくて、クラスの中心的な存在だ。坂東、瑠樺、藤咲。この三人が実質カーストの中心で、クラスはおろか、学校の癌みたいなヤツらだ。

 坂東はまだ来ていないみたいで、その所為か教室の雰囲気も幾らか平和な感じがする。


「あー……ウチに発情期のデカい犬飼ってるから無理」


 瑠樺が藤咲に適当な理由をつけて、寄せ付けないつもりだろうけど……発情期の犬って僕の事か?


「相変わらず冗談きついわ、瑠樺。いいじゃん、遊びいくし」


 藤咲が笑って食い下がる。


「冗談じゃないんだけど?」


 そう言って瑠樺は鋭い目で藤咲を睨み付けた。

「瑠樺怖えし! そんな怒んなくても、いいじゃんよ〜」


 気になって瑠樺の方を見ると、瑠樺と目が合った。そして次の瞬間、瑠樺の唇が微かに動いた。


(こっち見んな)


 と言ってる気がした。

 とことん僕と家族になった事は隠したいらしい。

 隠すメリットが僕にはない。

 寧ろ、瑠樺と家族だと知れれば、イジメは無くなるかもしれない。


 が、それは瑠樺との約束で秘密にしておかなければならない。

 となれば、家では瑠樺に対して色々な命令をしてストレス発散したいのだけれど、両親がいる前では、あまり無茶な事は出来ない。


 涼子さんは、我が家に来てからは専業主婦だし、親父は最近やたらと帰りが早い。


 さて、どうするか……。



 特にこれといって思い付かずに、昼休みにはなった。


 瑠樺に作って貰った弁当を、食べようとするが……。



「おいキモオタ、なんだその弁当。 ママの手作りかぁ〜? うわっ! 不味そう〜!」


 前の席のクラスメイトが絡んで来た。

 ニヤニヤと笑いながら、僕の弁当を覗き見てくる。

 それにつられて何人かの女子も群がって来た。

 その中のグループでリーダー格っぽい茶髪の女子に弁当を取り上げられた。


「や、やめ……」

「ちょっ、触んなキモオタ!」


 弁当を取り返そうと、躍起になって立ち上がるが、僕を振り払おうとした拍子に弁当が床に落ちた。


「あ〜あ、床汚してんなよ、キモオタ。 ちゃんと食えよ〜笑」

「拾うフリしてスカート覗くんじゃね?」

「やだ〜、キモ〜い。 きゃはは!」


 教室が笑いに包まれる。

 嫌だ。本当に死にたくなる。早くこんな学校からいなくなりたい。

 弁当を拾い上げる気にもならず、ただうなだれた。


「お前ら、うるさい」


 その時、瑠樺がボソッとそう言った。

 教室は静まり返り、弁当を落とした女子が青ざめた。


「き、北嶋さん、ごめ……ごめんなさいッ! だから許して……」


 泣きそうになりながら弁当を落とした女子が瑠樺に謝るが、僕には謝らない。


 この学校で坂東達に目をつけられると大変な事になるのは、僕が一番よく知っている。

 普段は周りに関心を示さない瑠樺がそう言ったのが余計に不気味に感じたのだろう。

 結局、僕は床を拭き掃除させられてから、昼食も食べれずに終わった。


 放課後は押し付けられたトイレ掃除を一人でやってから帰宅すると、瑠樺が先に帰宅していた。


 リビングのソファーでスマホをポチポチとしながら寛いでいる。


「ただいま……」


 瑠樺はこっちをチラッと見ただけで、直ぐにスマホに目を落とした。

 何だ……? 機嫌悪いのか? もしくは無視か……。

 弁当の事を怒ってるのだろうか。


「瑠樺……その、ごめん」

「別に……優斗が謝る事じゃないし」


 やはり、怒っている気がする。

 リビングに流れる沈黙の時間に耐えられず、


「あ、あれ? 涼子さんは居ないのかな……?」

「夕飯の買い物行ってて居ないよ」

「そ、そうか……」


 また、沈黙。

 気まずい空気に耐えられず、リビングから出ようとすると、


「命令しないの?」


 瑠樺がボソッと呟いた。


「えっ?」


 思わず振り返る。


「家でなら、何でも言う事聞くって約束したし……」


 瑠樺が恥ずかしそうに頬を赤らめた。

 もしかしてコイツ、慰めてくれようとしているのか?

 これがツンデレってヤツか?


「じゃあ……」

「うん?」


 僕は少し悩んだ後、瑠樺の隣りに座った。

 そして……。


「パンツ見せてくれ」

「クソ野郎かお前は」


 腹パンがクリーンヒットし、ソファーで悶絶していると、瑠樺が僕を見下ろす。


「人が心配してやってるのに、なんなのよ! このクソ! 死ね!」


 クッションを投げつけ、更にその上から踏み付ける様な蹴りが飛んできた。

 この乱暴者め!



「だって命令しろって言っただろうが!」

「うっさい! そういうのじゃなくてさぁ! 他に無いのかよ! お腹空いたから何か食べたいとかさぁ!」

「だったらそう言えよ!」

「死ねっ! 死ねっ!」


 更に瑠樺の激しい蹴りが続き、僕はボロボロのヤ○チャみたいになった。


 でもその後、パンツ見せてくれた。

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