ワンライフノーコンテニュー
瓶が割れた?萩にいか!
3つの瓶が割れて確実に月の雫が一さんにかかった。効果が重複するかは分からないけど最低限3秒は見えないはず。
「あれ、暗っ」
一さんも手に触れただけで目が見えなくなったのに驚いたのかそんなことをポツリと呟く。しかし動きに迷いはなくよどみない動きで指を操作して武器を取り出す。
それを阻止しようにも間合いが届かない、今は少しの時間が惜しいのに。
走り出すと同時に左の斧をブン投げる。わざと大きな音を立てて地面を蹴り悟らせないようにしながら。
「わざとらしいね」
一さんは見えない状態が嘘のようにあっさりと斧を弾く。だけどただでは終わらず繋げるように音に紛れ込ませながら鎖鎌を空いた左手で振るう。
鎖鎌は半月のような軌道で首を狩る。鎖を纏めて短くしたので巻き取られる心配はないと思ったけど2つの斧を挟み込むように切り込まれて鎖が千切れた。
「しゃべってくれなくて寂しいな」
(ぜったい見えてるでしょ!)
でもボクが無理だったとしても楓ねえならやってくれるはず。ボクが気を引いてるうちに別の方向から楓ねえが追いついて攻撃を仕掛けようとする。
「楓ちゃんの魔法は強いけど音が出るのが玉に瑕」
一さんはボクの鎖鎌を叩き切った後、そのまま交差しながら武器を構えて自分の体を抱きしめるように縮ませ液体化した腕を鞭にして振り回した。
素手の時に一回見せた攻撃。それは素手でさえ楓ねえが完璧に防御しきれなかった威力。武器を持った今、ボクが受けるのは不可能と判断して浮遊を使って上に回避する。
今まさに攻撃をしようとしていた楓ねえは斧を振り被っていて防御するのが間に合わないんじゃ!
<歌唱術:
「ガンッ!」
斧がぶつかる音が鳴り響く。しかしそれは楓ねえが上手く防いだ時の金属音だ。楓ねえは武器を消してすぐに体勢を整えてから再度出現させることで素早く防御した。
それでも一さんの攻撃の威力は凄まじく楓ねえはダメージを喰らい衝撃で後ろに吹き飛ばされる。
楓ねえはフォローができないような距離に離されてボクは空中にポツンと1人、まるでこれを狙っていたかのような予感がして寒気がした。
すぐに浮遊を解除して落下して逃げようとするが地面にたどり着くまでが物凄く長いように感じる。
その間一さんの体が恐ろしく変化していく光景を走馬灯のように目に焼き付けていく。
そんなコマ送りになった嫌な光景は一さんの上半身が縮んでいきそれに留まらずに全身に至るまでを強張らされているのが分かる姿だった。
(ヤバっ!)
そして体を畳むように屈んだ姿勢から放たれようとする攻撃は思わず声が出そうになる程、死を実感させた。
おそらく一撃必殺、身動きの取れない空中じゃ防御も回避も難しい。どうしよう
そんな時、助けてくれるのはいつも姿の見えない萩にいの矢。しかも今度は普通の矢じゃなくて緋色に輝いている火の矢。それは一さんの背中を貫いて燃やした。
「熱っ!」
いつもだったら躱すことができたかもしれない一撃を一さんは回避できなかった。それは盲目状態であるというだけじゃなくみんなで一さんを削り、追い込み、作り上げた一瞬のチャンスを掴んだ結果だ。
だけど問題があるとしたらそれでも一さんの攻撃が止まることはなくてボクが一瞬で即死するピンチってこと。
<
発動されたスキルによって体の燃えた部分以外が針のように伸びて飛び出してくる。その攻撃の範囲は180度前面に広がり覆い尽くし一瞬で逃げ場がないことが分かる。
それは一さんの目が見えても見えなくても関係ないほどの広範囲な必殺の一撃。しかも萩にいが燃やさなければもっと広く、360度全方位を攻撃することになって楓ねえも危なかった。
<
ボクは針の内の一本に自分から左足で思いっきり踏みつける。当然足はブッ刺さるがその瞬間、浮遊と魔法を起動してなんとか逃れようとする。
それでも針の飛び出るスピードが速くて、犠牲にした左足は何本も針が刺さりズタボロ。右足も避けきれず無事では済まなかった。下半身は穴だらけで左足は使い物にならず、右足は辛うじて動かすのがやっと。
それでも直前の萩にいの攻撃で威力が少し減っているのか生き残ることができた。あれが無かったら普通に即死だったはずだ。
だけどHPの9割以上がが消し飛んで、もう一撃だって耐えれないことには変わりない。ちょっと掠っただけでお陀仏だ。
このままボクが戦闘を続けるのは難しいだろう。でも一さんは攻撃の時に火の矢を受けたりダメージは少なくない。残った楓ねえと萩にいは無傷ではないとはいえ、このままいけば十分一さんを倒せるはずだ。
でも…
「ボクがトドメを指すかぁ」
萩にいと話した作戦を思い出す。それは一さんをボクが倒すというだけの作戦とは言えないもの。でもやっぱり約束は果たしたいし、何よりボクも一さんに勝ちたい。
片足でまともに動けず、瀕死状態で余力もほとんどない。そんなボクでもちゃんとサポートしてくれるかな。
「信じるよ」
浮遊を解除して自由落下、このまま一さんとの決着をつける。武器一本、足一本でやれること全部やってどっちが倒れるか、途中のサポートも後のことも2人に任せる。
「ホントしぶといのね。アンタも」
私の目が光を取り戻した頃、楓ちゃんがそう話しかける。
「私はレンちゃんにそう言いたいけどね」
「まあね」
そう言い返すと、楓ちゃんも答えてくれる。私がした攻撃は避けられるようなものではなかった。目が見えない状態でもある程度の場所と浮いていることさえ分かれば仕留められるはずの一撃。
でも矢の妨害があって、レンちゃんの魔法で逃げられた。多分そんなとこだろうと思ったし、楓ちゃんの反応で確信した。おそらくは上へ飛んでった、姿が見えないから森の奥か空の可能性が高い。
空を探したら見つかるかも知れないけど夜空で分かりづらいし、探す暇もない。まあ、そんなことしなくても空にいると、楓ちゃんが教えてくれる。
楓ちゃんは目線で情報を漏らさないようにはちゃんと気をつけている。レンちゃんがどこに行ったのか目で追わないで、私をしっかりと捉えて離さない。
それは私がレンちゃんの話題を出した時もそうだった。でも首が僅かに上を向こうと動こうとし、顎も僅かに上がって傾いた。どちらも1センチや1度もない変化、私自身そう感じるだけでなぜ分かるのか分からない。
初対面だからまだ理解するには程遠いけどそれでもこのくらいのことは分かってしまう。未だゲームでこれなら現実で生きるなんて…
違う!感傷的になってる暇はない今はゲームだ。
問題になっているのは矢の方、ほとんどの情報がない。絶対に当たるタイミングしか撃ってこず、同時に別の方向から撃ってきたりもするから場所を掴めない。
姿どころか声も出さない徹底ぶりだから、狙う癖やパターンから読むしかないけどサポートに徹してるからそれも難しい、一回それを利用して攻撃を当てれたけど、倒せなかったみたい。
ウダウダ考えても私がやるべきことは一つこのゲームを全力で生きる、目の前にいる人達を乗り越えるだけ
<歌唱術:
突進を仕掛けようとするが、踏み込み前で止められる。それにダメージ狙いの感じじゃない。体勢を崩す目的ね。
攻撃を弾かれた時に衝撃波のようなものが起きてさっきより大きく弾かれる。武器の形から見て最初にレンちゃんを吹き飛ばした奴。
そのデカさの武器だと至近距離の取り回しはこちらが上、削り倒そう。相手の防御を縫うように切り込んでいく、体の使い方、身のこなしは上手く天性の才能を持っていたとしてもゲームは素人。
武術も技術もないなら一対一なら問題なく倒せるはず。なのに、防御が硬い、致命傷になるところはしっかりとガードしてるし、肩や腕、胴を切っても動けなくなるような攻撃はずらしてる。
空から何かが落ちてくるのを察知して、やり方を変更する。楓ちゃんは動きが素直で根がいい子だ。浅い攻撃ははなから捨てて深く踏み込んできた時に衝撃波で弾いて体勢を崩そうとしてくる。
時間稼ぎをしながらあわよくば隙を作って萩くんと協力して倒す。いい手だし、実力もある。でも一個のことだけ考えてたらフェイントに引っかかりやすいよ、致命傷になるものを警戒して他は薄いんじゃダメ。
斧を構え、深く踏み込むフリをして楓ちゃんの斧の柄を大きく蹴り飛ばす。
「うっ!」
大きく距離をとって体を縮める時間をつくる。縮めるたび体は少しずつ悲鳴を上げてHPが減っていく。だけどまだ大丈夫、攻撃を何回か喰らっちゃったけどまだ伸縮も液体化も使える範囲内。
両手を鞭のように振るって今度は楓ちゃんを集中して攻撃する。タイミングをずらして二撃、一撃目は武器狙い、吹き飛ばし体勢を崩す。そして二撃目で脇腹を大きく抉る。
首か両足を切り飛ばしたかったが体勢を崩しても防御の手を緩めることのない健気さ、それでも邪魔させないように戦力を削ることはできた。
「さあ一騎討ちだよ!レンちゃん」
「望むところ!」
こちらのノリに合わせて正々堂々レンちゃんは宣言してくれる。この忌まわしい目でもそれが本心だと実感できる。やっぱり君はいつも真っ直ぐで、好き!
想いに応えるように本気で殺す。体を凝縮して
あっこれじゃダメだ。
行動した直後、そう実感した。完璧で最善な判断をし選択した。でもこれでは足りない届かないと心の底から理解する。
だがそれでも問題はない。伸縮がダメだったとしても液体化があるし、まだHPにも余裕がある。
2本の鞭がボクの左右を囲んで迫りくる。勝敗は一瞬これで全てが決まる。ボクがこの攻撃をパリィできるか否かが!その時、誰かが背中を押してくれたようなそんな温もりを感じた。
「しっかり決めなさいよ」
<歌唱術:
レンの背中に小さな時計のような魔法陣が描かれてチックタックと音を立てる。
世界ははその音と共にだんだんとゆっくりになっていき、斧が届く一瞬が長い時間のように感じ、実際に自分の体を含めた全てが遅くなる。
その中でボクはゆっくりと攻撃に刃を合わせて完璧に弾いてパリィする。
<舞風>
その後、一本を防いだ隙を狙うようにもう片方が攻撃を仕掛ける。しかし斧はレンの体をすり抜けて何事も無かったかのように通り過ぎる。
「やっぱりダメ」
「パリィさえできたならもう無敵!」
一さんのスキルによる攻撃をパリィできなかったことに対してのリベンジをなんとか果たしてボクがトドメを指すことができるチャンスを首の皮一枚で保つ。
ボクが生み出したチャンスと一さんの動揺、その意識の狭間を縫うように萩にいは矢を放つ。
「らしくないミスね」
後ろから飛んできた矢をあっさりと一さんは躱し地面に刺さった。しかしそれは一さんを狙ったものではなく作戦の指示を出すためのものだった。それを受け取ったのは楓ねえたった1人。
「分かったわ!」
<歌唱術:
斧が音を掻き鳴らしながら巨大化する。残りの前魔力が込められた斧を矢が刺さった地面に向かって全力で投擲する。抉られた脇腹が出血ダメージを与えスタミナを削り、疲れ果ててその場に倒れる。
「ちょっと傷が開いちゃったじゃないのよ」
その斧は地面に刺さると爆発するように地面を抉り吹き飛ばす。
これは…もう死んだ。
自分でも分からないままそう感じた。言うなれば死の感覚、ああ、私は今何をやっても死が運命づけられているんだろう。そんな感覚。
何が原因なのかは本当に分からない。攻撃をレンちゃんが防いでもまだ良かった。液体化して攻撃や回避しても伸縮させて迎撃もできた。しかし足場がなくなり全てが文字通り吹き飛んだ。
私の体は自由がきくといっても足場や支えがあって初めて成り立つ。空中では自分で勢いを作れる伸縮しかできないがそれは使った後でもう間に合わない。
しかしレンちゃんと私、地面に着地するのは先のはずなのになんで
そんな中、森の奥で独り言が木霊する
「レンが2手凌いで、楓が一手削り、僕が一手つくる、これでようやく終わりだね」
矢は放たれて目的の人まで正確に届かせる。それは一さんを通り過ぎてレンに向かう。
<
そしてレンの足下でピタッと止まる。
「ありがと。萩にい」
<天地無用>
スキルを使って矢の上に立つ。しかしボロボロの右足一本じゃ満足に踏み込むこともできない。だがそんなこと関係ない
<スラストダガー>
導かれるように流れるように一さんに向かって飛んでいく。
足場が音を立てて崩れていった。それは地面の話じゃなくて私自身のことだ。最善を選び続けて最悪を相手に押し付ける。それがゲームの中でやっている生き方。
それでも死はいずれくる。最善だったとしても一手、一手と選ぶたびに死が迫り来る感覚。そして今回は土台から全てがひっくり返った。追う者が一瞬にして追われる者になる感覚。
それは私が知らない何かが私を詰みにさせていた。相手の思惑、手のひらから抜け出せなかった。死を感じていたのはそういうことだ
喉元にレンちゃんの短剣突き立てようと突進してくる。
楽しかった。久しぶりに生きてる感じがした。後悔の残らない清々しい戦い。でも一つ悔いが残るとしたらこの結末を描いた萩くん、いや萩ちゃんはどんな人だったんだろう。
どういう姿なのかな、どういう声なんだろう、いい子だったらいいな。
「ああ…つれないわ…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます