可愛いは最強なの
「それで西の森に来たわけだけど、何か探すあてはあるのか」
「分かんないの」
「僕も知らないね」
「じゃあどうしよう。探知系が1人もいないから、とりあえず歩き回るしかないな」
大きな熊、翼の生えた天使、そして自身と同じくらいでかい尻尾を2本も持つ狐、チグハグなパーティに見えるけど種属がバラバラの集団はこのゲームではありふれた光景だった。
それでもバラエティーに富んだこのパーティは森を突き進み、茂みをかき分けて行く。見つからないようにする気がないような足取りで、いやむしろ目立つようにわざと音を出している。
それを挑発と受け取ったのかこの森の中で唯一の戦士が彼等の前に立ち塞がって戦いを挑む。
「一応、このやり方でも魔物が釣れたみたいだ」
「でも目的のやつじゃないよ」
「こっちも大きな熊さんなの」
「はいはい。目を輝かせる前に戦う準備をして」
「分かったの。それでアズちゃん、みるくは何をすれば良いの?」
「えっ!アズちゃんっておれのこと?」
「当たり前なの」
戦闘中に目を離しておしゃべりをしだす。それは森の戦士ウォーベアーにとって腹立たしいことであり、舐められていると感じた。怒りながら突進し攻撃を仕掛ける。
<甲拳>
突っ込んできた熊に対してウルトスはスキルを発動してぶん殴る。それは攻撃力を上げる効果ではなく、攻撃の瞬間に防御力をあげるもの。
防御力を上げても相手に与えるダメージには関係ないと思うが、それは違う。例えば鉄の塊を素手で殴ったら傷つくのはどちらだろうか。
つまりお互いが殴り合った時は肉体がより硬く、より力強い方が勝つのだ。そして今回は両者の拳がぶつかり合った結果、ウォーベアーが吹き飛ばされた。
「おー!ウルちゃん凄いの!」
「僕はウルちゃんなんだね。まあ別にいいけど。それよりもみるくちゃんは兎とか呼び出したり、魔法を使ってみたら?」
「えっと、兎さん!来て欲しいの」
<
その声に反応して地面に魔法陣が描かれて3匹の兎が飛び出した。
「兎さん、ぬい達みたいで可愛いの」
現れたのはは丸っぽくてモフモフの兎さん達、思わず抱えてみると触り心地もよくて本当に持って帰りたいぐらいなの。
「みるくちゃん!可愛いがるのは後にして戦闘を指示して!」
「うー、残念なの。兎さん達、あの熊さんを倒すの」
召喚した者に対する指示は原則として言葉じゃなくてもいい。頭の中での命令を汲み取ってくれる。なので指示の勘違いが起こることはない。
くるみは今熊さんを倒せと命令したがこの場にはウルトスという熊とウォーベアーの2つの内どちらかを絞れない曖昧な命令。普通だったら戦う相手を間違える可能性があるけど、兎達はくるみはどの事を指して言っているのか勝手に判断してくれる。
兎は命令に応えるためにぴょんぴょんと跳ねて移動し、熊にぶつかりにいった。最初に突撃するのは白兎、ぶつかる瞬間衝撃を起こして熊をダウンさせる。
次に襲いかかるは桃兎、触れた場所を火傷させ、痛みを与えて動きを鈍らせる。仕上げは緑兎、攻撃の後、速やかに全身を毒が巡る。時間を立つごとにそれは敵の命を蝕んでいく。
「おー、みるくちゃん。やるじゃん」
<聖痕>
アズウィルが剣を2本取り出すとその剣が白く光り輝く。そしてスキルによって強化された2本の剣を別々に振るって、ウォーベアーの両腕に斬りつける。それは腕を落とすまではいかないがそれでも深く斬り込んだ。
しかし腕がもげたとしてもウォーベアーの戦意はなくならない。斬られた腕を振り回して近くアズウィルに仮を返そうと攻撃する。
だがその攻撃は思わぬ形で食い止められる。それはウォーベアーの顔に何本もの針が正確に飛んできて突き刺さったからである。針を顔に喰らって流石のウォーベアーも腕を振り上げたまま一瞬固まってしまう。
その隙をついてアズウィルはスタミナを消費しながら翼で大きく飛び上がる。そして剣を2本の剣で挟むようにウォーベアーの首を刈り取った。
翼を羽ばたきながら、スタッと着地した後ドロップしたアイテムを無視して確かめることがあるかのように後ろを振り向く。
「今の針投げたのみるくちゃん?」
「そうなの」
「僕も見てたよ。アズを助けに行こうとした時には既にみるくちゃんが針を魔法で召喚してたから」
「みるくはダーツとか雪合戦なら得意だから投げるのは上手なの」
「凄いよ。みるくちゃんも十分強いなら、目的なんてすぐに達成できるはず」
そんなやり取りをした後、目当てのリスが見つけられないまま優に1時間を超えた。
「どういうこと、全然リスいないんだが」
「探し方が悪いのかな。他の魔物はいっぱい出てくるから」
「でもレベルが5になったの。これってすごくいいことのはずなの」
「それはそうだけど、流石に4から5になるのが遅すぎだけどね。ついさっきなったばかりだし」
どうすればいいのか分かんないの。こんなに時間がかかるなんて思わなかったの。何かいい方法は、うーん…
「ストップみるくちゃん」
考えながら歩いているとアズちゃんが立ち止まって、くるみにそう声をかけた。くるみは1人で考えごとをしてたからそれに気づかずぶつかってしまう。
「痛いなの」
「大丈夫?ごめんね。でも静かにして、みるくちゃんが会いたいリスを見つけたから」
「ていうかなんで僕たちは静かにしてるんだい」
「あれだけ探して見つからなかったんだから、もしかしてあのリスは敵を察知して逃げてた可能性がある」
「だから隠れたまま近づくってこと?でも隠密系じゃないから気づかれそうだけど」
「まあね。でもみるくちゃんの投擲が届く距離までなら、なんとかなるかも」
「がんばるの」
一歩、一歩、音を立てないように気をつけながら歩いていく。
「やっぱり、あの子は可愛いの」
「今は我慢して静かに」
声を出さないように口を塞ぎながら歩くの。口を覆いながら針を持って準備ができるまで大人しくするの。
「多分ここからなら届くと思うけど、どうだい?」
ウルちゃんが言った通り、ギリギリ気づかれずに届く距離まで近づくことができた。
「やってみるの」
このゲームだとダーツと違って振りかぶって投げてもある程度正確に狙ってできるの。でもあのリスちゃんはさっきの熊さんより小さいし持ってる木の実が邪魔でダーツのように投げた方が安全に当てられそうなの。
一回やってみたらダメージが下がったし、何よりいっぺんに投げれないからあんまりお役に立てなかったの。
それでもこの投げ方は1番静かだ。見つからないように屈みながらの投擲、いつもはしない姿勢だからかくるみはより集中力を高める。
くるみの手から針が離れて飛んでいく。それは静かに空を切って進み気づく者は誰もいないはずだった。しかし近くの茂みが風で揺れて音が鳴りそれにリスが驚いて、少し動いてズレてしまった。その結果針はリスの体を掠めて外れた。
そしてリスが逃げてしまうのではないかと思いきや3人の予想と違いこちらに向かって走って来て、その勢いのまま突っ込んで飛び掛かってきた。
「これなんかおかしくない?」
「しかもこれ攻撃したらダメそう!」
2人はそのリスの攻撃でも逃げるでもない軌道を描く跳躍と、持っている木の実を盾のように構える姿勢で狙いが自爆だと予感する。
それに気づかずにくるみはリスが飛び掛かってくる前に立ち両腕を広げていた。
「捕まえるの!」
<
胸に飛び込んでくるリスの前にくるみの尻尾が意思を持って動き出し、口のように四つに分かれて開いた。
そのまま待ち構えて遂には尻尾を閉じてリスを食べた。
その尾は確実にリスの肉体を吸収して魂として使役して封印する。
「やったー!リスちゃん捕まえてぬいにできたの」
「あれは、捕まえたっていうのか?」
「うーん、本人がいいんだったらいいんじゃないかな」
ぴょんぴょん跳ねながら喜ぶくるみを尻目に首を傾げる2人。でもその無邪気に笑う姿を見ると納得せざるを得なかった。
「じゃあ2人共ありがとうなの。みるくはもう帰るの!」
「ちょっと待ってみるくちゃんほとんど素材持っててないでしょ、だから帰るんならちゃんと三等分するよ」
「みるくは今持ってるのだけでいいの」
「いや、流石にそういう訳にはいかないでしょ」
「でも…じゃあその代わり2人にフレンドになってほしいの」
「それは別にいいけど、どうしたの?」
「えーっと、みるくはお世話になった人の名前と連絡先は聞いておいてって言われてるの。後でお礼がしたいからだって」
((大変そうだな、親御さん))
2人のゲーム内のフレンドになった後、街まで送ってくれた。
「ここまで送ってくれてありがとうなの。じゃあねー!」
手を振って別れを告げるくるみに対して控えめながら同じように手を振って返す2人、それはくるみ冒険の終わりと新しい友達ができたことを…
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