ある日、熊さんに出会った
そこは街の中心に位置する噴水、今日も新規のプレイヤーが続々と現れては冒険の旅路を進んでいく。
同じようにここにも確固たる目的を持ってこのゲームに降り立つプレイヤーがひとり。
「リスを捕まえてくるみの、ぬいにするの!」
そういえばレンちゃんが自分の本名を人に教えちゃダメって書いてあったの。うーん、ゲームをするのは色々と気をつけることが多くてめんどくさいの。くるみは可愛いぬい達に会いたいだけなのに
「でもレンちゃんの案内がないからどこに行けばいいのか分かんないの」
歩いてみるけど、この街の出口がどこかも分からない。とりあえず周りの人達が向かってる方向について行ってみることにした。その時、人と待ち合わせでもしているのか流れの逆を進もうとしていた人にぶつかってしまう。
「きゃっ!」
「あっ、ごめんね。大丈夫?」
大きな人のお腹ににバインと弾かれて思わず尻餅をつく。大きな人は心配そうに手を差し伸べる。
「わぁー!大きな熊さんなの」
その手を支えに立ち上がると、その大きな人は今日、くるみがお気に入りとして抱き抱えていた熊のぬいぐるみにそっくりなの。それになんだがずんぐりしてて可愛いの。
「えっ?えー!」
起き上がって急によく分からないまま懐いてきたみるくに対して熊の人獣属のプレイヤー、ウルトスはただ困惑するしかなかった。
「えーっと、小さい子ってどう接すればいいんだろう。君は迷子なのかな、誰かと一緒に来てないの?」
「ううん。く、じゃなくてみるくはひとりだよ。本当は友達が案内してくれるはずだったんだけど、来れなくなったの」
「そうなのか。その友達はどうしても来れないんだもんね」
「本人は来たがってたの。レンちゃんが血を吐いちゃったから仕方ないの」
「血を!それは大丈夫なのかな。そっちの方が心配になるよ。しかもその状態でも本人ゲームをやりたがってるのもおかしいし、それならみるくちゃんもゲームしてる場合じゃないんじゃ」
「それでもみるくはこのリスちゃんに会いたいの」
そう言いながらレンちゃんから貰ったリスの写真を熊さんに見せてみる。
「確かにこのゲーム内の写真っぽいけど僕も始めたばっかりだから分からないな。でも友達なら知ってるかもしれないから一緒に来る?ていうか待ち合わせしてたから急がないと怒られちゃうし」
「いいの?じゃあいくの!」
くるみは目を輝かせながらそう返事する。警戒心の欠片も感じさせない素振りは初対面でもなんだが放って置けない雰囲気を醸し出している。
「自分で言うのもなんだけどついて来ちゃうんだ。やっぱりこの子ひとりにしたら危なっかしくて心配になるよ」
「何か言ったの?」
くるみは不思議そうに首を傾ける。
「何も言って無いよ、ほらあんまり走り回ると転ぶし、迷子になるから気をつけてね」
「そう?なら手を繋いで欲しいの」
「ちょっと恥ずかしいけど、まぁいいかな」
大きな熊と小さい狐の子供、2人が手を繋いで歩く様子は種属が違うけどまさに親子のようで見る人を和ませる空気感を漂わせていた。
その空気感とは真反対にピリピリと肌で感じるような怒気を放っている人が待ち合わせ場所で仁王立ちしていた。その姿はいつもと違い、翼が生えてるせいもあってより一層迫力があるように見える。
「うわー、やっぱり機嫌が悪いよ。どうしよう」
「あの人が待ち合わせの人なの?」
「うん。今からあの人怒られるんだ」
「もしかしてみるくのせいなの?」
「そんなことないよ。元から遅刻してたからどっちにしろ怒られてたよ」
色々、準備してゲームを始めるのが遅れちゃったから、早くキャラメイクを終わらせようと思ったんだけど、結構迷って時間かけちゃったんだよね。
「でもよかったらみるくも一緒にごめんなさいしてあげるの」
「その気持ちは嬉しいけど、大丈夫だよ。僕の後ろにいて」
時間に遅れてしまった場合の待ち合わせほど行きたくない場所はない。怒られるって分かっている人の前にどんな顔して出ればいいのかわからないし、その怖さはさながら処刑台に登る気持ち。
そして覚悟を決めて一歩踏み出す前になんと先に相手が気づいてこちらに向かって走ってくる。
「遅い!」
「はい。ごめんなさい」
「なんで待ち合わせに来るのに30分も遅れてくんの?それにいつも言ってるけど遅刻した時一回隠れるの辞めろ。せめて急いだ感じを出してくれないとこっちも許しづらいから」
「怒ってるけど、でも許してあげる前提だから優しい人なの」
その時、急に知らない人の声に驚いたのか、怒ってる雰囲気がなくなった。
「そっちの小さい子はどうしたの」
大きな熊の背中に隠れながら頭だけヒョコッと顔を覗かせているくるみに指をさして質問をする。
「この子はみるくちゃん、友達にゲームを教えてもらう予定だったけど、来れなくなっちゃってひとりなんだ。でもどうしても会いたいリスがいるんだって」
「これなの」
この人にもレンちゃんから貰った写真を見せてみる。
「ふーん、動物系の魔物で背景が森だから多分、西の森だと思うけど」
「ありがとう。早速行ってみるの」
「ちょいちょい!どこに行くつもりなの。おれまだ西の森としか言ってないんだけど。行き方ちゃんと分かってる?」
早合点して走り出そうとする、くるみを止める。
「分かんないの」
くるみはハッと気づいて、顔を俯ける。
「こんな感じだから連れて来たんだ」
みるくちゃんと少し離れた後コソコソ話して相談してみる。
「まあ、大体事情は分かった。西の森に連れて行きたいんだよね。パーティを組むのは全然構わないけどでもおれ後衛を守れるような構成させてないんだけど」
「僕は硬めに振ってあるから一応大丈夫だと思うよ」
「ならいけるか。じゃあみるくちゃん、おれたちが友達の代わりに西の森まで案内してあげるよ」
みるくちゃんを西の森まで護衛することに決まったのでパーティに誘いかける。
「ありがとうなの。お姉ちゃん」
あれ、みるくちゃん変な所で鋭いな、ずっとそんな感じだったら安心できるんだけど。ていうかバレたことなかったからどうやって誤魔化すんだろう。
「あのね、みるくちゃん。おれは男なんだけどー、なんでそう思ったのかな?」
「そうなの?ただなんとなくそう思ったんだけど、どっちでも可愛いから別にいいの」
「そう…それはちょっとありがと」
あれっ意外になんの否定もしなかったな。それでいいならいいのかな。
「とりあえず、まずはパーティを組もうよ。その前に自己紹介が先かも知れないけど」
「そうだね。おれの名前はアズウィル、天使属の剣士だけど、守れるような魔法も持ってないし盾もないから攻撃しかできないかな」
「僕の名前はウルトス、熊の人獣属で
「えーっとみるくはきつねさんなの。召喚師で兎さんを呼び出して戦ったり針を投げてお手伝いができるの。いっぱいがんばるからよろしくなの」
今日出会ったばかりの2人を巻き込んだ胡桃の冒険が今始まった。
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