胡桃の冒険
「どうしよう。レンちゃんはもう帰らぬ人なの」
「いや、明日になったら普通に帰ってくると思いますよ」
楓ちゃんがレンちゃんをMARSから追い出した後、説教と看病を兼ねて現実に戻っていった。
「くるみのやることがなくなっちゃったの。2人はこれからどうするの?」
「そうだね。せっかくの着物だから羽根突きでもするのはどうかな」
「たまには外で遊びたい」
「嫌ですよ。オレが外で遊び回るのは文字通り骨が折れるんだもの」
「そう?じゃあ、普通に体育館へ行こう。胡桃ちゃんも一緒にどう?」
うーんそれも面白そうなの。でもあの可愛いリスにあってみたい。けど案内してくれるレンちゃんがいないし、あっそうだ!
くるみひとりで遊べばいいじゃん。なんかレンちゃん心配だから案内するって言ってくれたけど、こう見えてくるみはレンちゃん大人だから大丈夫なはずなの。
「くるみは今日、アンリスやることにしたからいいの、2人共じゃあねー」
『
「「えっ?」」
驚く2人を尻目にサーバを切り替えてゲームにログインして、くるみの姿が消えてなくなる。
「ひとりで大丈夫なのかな、胡桃ちゃん」
「忘れてるかもしれないけど胡桃ちゃんは一応年上だからね。まあ心配になるのは分かるけど」
「僕達もついて行った方がいいんじゃ」
「いや、そもそもオレ達アンリスのゲーム持ってませんよ」
「そういえば、なら胡桃ちゃんを信じるしかないね」
ログインすると暗い世界の中のくるみだけがポツンとひとりで立っていた。一瞬どういうことか分からずに困惑していると、ぼんやりとした小さな光が現れる。
『これは貴方達の
「うわっ、なんか喋りかけてきたの」
光の玉はだんだんと広がっていきやがて世界を包み込む。そして色づき、音と共に、映像を見せる。
『世界は隔てられた、大いなる繭によって。悠久の故郷は閉ざされ忘却の彼方へと消える』
「うー、なんか言葉が難しいっていうか、めんどくさい時の萩ちゃんみたいで頭に入ってこないの」
『それは遥か昔、星の子が堕とし、神々の意思で紡がれた。繭はただ待っている。残された者達の進化を、だが長い時が過ぎて知を失い、力を欠けた』
映像は言葉に応じて次々と写真のように移り変わる。
「場面をころころ切り替えられると酔うっていうか目がチカチカするの」
『どの種属も力を求めず、知を求めず、争いを求めて狂い、やがて
『それでも3つの神、ルクスは見捨てず恩恵をもたらす。ある者は知を分け、ある者は力を与え、ある者は試練を与える』
『古く遠くに残していった先祖の
『さあ、今こそ帰郷の時だ』
映像の全てが終わったのかまた元の暗い世界に戻った。
「何だったの?」
とりあえずメニューウィンドウが出てきたのでMARSでレンちゃんからデータで貰ったメモを開く。
まず最初に身長や体格を決める欄があると思うけどそこは好きなようにしていいよ、オススメは体格スキャンなんだけどね。このVR機材は体格スキャン専門って言うぐらい高性能だからよりリアルに感じるんだよ。それに一瞬で終わるから直ぐに始められるんだけどどうしてもって言うなら好きに…
「レンちゃん、うざいの」
体格スキャンをやって欲しそうな文章が長々と書いてあるのを読み飛ばす。
そして説明の通りに体格に合った種属を絞ってもらうと、ゲームによるオススメが出てきた。
「それでレンちゃんのオススメは何なの?」
体格スキャンをやってくれた場合という始まりの文があるのでそこから読む。
胡桃ちゃんはボクより背が低いので同じような候補が出ると思います。ちなみにボクは妖精属を選んだけど、調べてみたら異種属を選ぶと街の外から始まる奴があって合流できなくなるので真似しない方がいいかも。
種属はかわいいものがいいだろうから人獣属とかオススメだよ。
「人獣属?」
探してみて押してみると
「うわっ、モフモフ!可愛いの」
候補として出てきたのは二足歩行している動物達、いっぱい種類があって家にあったぬい達が動いてるみたいな可愛さなの。
「でもぬい達は可愛いけど、くるみはぬい達と全く同じになりたいわけじゃないの。でもふわふわは欲しいの」
くるみはくるみのままでありたいけどせっかくぬい達に近づけるならもふもふは欲しいの。距離感はペアルックぐらいがちょうどいいの。
そんなわがままな願いに応える種属なんてものは、ありました。
「獣人属?これも可愛いの!」
見つけたのは人獣属と似たような獣人属、可愛さの違いは人獣属がしゃべって歩く動物のマスコットキャラだとしたら、獣人属は実際に真似ができるようなコスプレって感じなの。
「あっ、でも何の動物にするか迷うの」
うーん、どれも可愛くて迷っちゃうの。やっぱりモフモフ感が強い方がいいよね。でも自分のモフモフを感じるにはどうしたらいいんだろう。背中がモフモフとかだと触れないはずなの。
重大なことに気づいたの!自分の尻尾に触れないの!それは嫌なのぬい達の尻尾はモフモフの中でもベストなモフモフなの。それなら大きな尻尾の種属だったら触れるかもしれないの。
ウィンドウを目一杯スクロールしながら探してみる
「あったの!このキツネさんなら尻尾が大きくて可愛いの。それに2本も生えてるからモフモフ倍増でお得なの」
それは妖狐と呼ばれる。人獣属の中でも特殊なものだった。
<獣人属:妖狐>狐の獣人属の中でも複数の尾を持って生まれた特異個体。成長と共に尾の数が増えていくが尾に魔力や力を集めるため総じて魔法の扱いに長けるが子供の時は特に体が弱い。特殊な力を持つこと、見た目が違うことで同じ狐の獣人属から差別された。
「次は職業の選択なの」
職業は調べてみてくるみちゃんが好きそうなのは
難しいのがスキルと魔法と装備なんだけど、召喚師は魔法、調教師はスキルをメインにして選んだらわかりやすいし。それさえ気をつけたら装備は可愛いものを好きに選んでいいと思うよ。
「えーとっ、職業を変えると選べるスキルや魔法も変わっちゃうの」
どうしよう、召喚師にしてぬい達と一緒に強くなるのも可愛いし、調教師になって好きなぬい達を捕まえて育てるのもいい感じなの。
迷いながら考えていると、あるスキルが目に入ったそれは妖狐が覚えることができるスキルだった。
<
「これすごーい!生き物を捕まえて尻尾の中に飼っちゃうなんて可愛いの。それに、己のなんとか?読めないけど、にしちゃえばぬい達の力を分けて貰えるの」
このスキルがあれば召喚師になった後も調教師みたいなことが同時にできるっていうことなの。
妖狐のスキルのおかげで職業が決まり、好きな召喚術をひとつ選ぶ。
「召喚術ってたくさんなの。とりあえず動物は決定なの」
召喚術は、魔物や精霊の他にも悪魔や天使も含まれておりその数は最初に覚えられる魔法でも結構な数が存在する。
「召喚したいぬいは今日のお気に入りみたいな大きなぬい1匹が守ってくれるのもいいし、小さいぬい達がわーってたくさん集まるのも可愛いの」
うーんと考えた結果、間を取って選んだのは特殊な兎を三体召喚する魔法になった。
「これで後はステータスだけなの」
魔法を使える職業を選んだら。ステータスは魔力を多めにしたらいいよ。魔法は必ずしも知力が必要じゃないっていう楓ねえの例があるからもし召喚師にしたなら少なくていいかもしれないけど参考にならないと思う。胡桃ちゃんは初めてだから体力に少し振った方がいいよ。でも極端に振らなければ無駄にならないから、自分で考えてみるのが一番大事だと思うよ。
「レンちゃん、結局何が大事なのか分からなかったの」
とりあえず、魔力を多めにして体力にも少しあげたあとは実際の自分の得意なことに合わせてみたの。
例えばくるみはたまにお裁縫をしたりしてぬい達を作ることもあるから器用さっていうのを上げたの。
装備は全部かわいいのを選んだの。特に気にいったのはアクセサリーなんだけどこれ選んだら武器を選べなくなっちゃたの。でもまあかわいいから別にいいの。
「後は名前をつければいいんだけど」
最後に、本名を使ったら本当はダメだよ。それに楓ねえや萩にいも名前で呼んだらダメなんだ、ボクはレンでいいんだけどね。
なんでレンちゃんだけ呼んでいいのが気になるけどもう別にいいの。
PC みるく
LV1
種属 獣人(妖狐)
職業 召喚師
HP <体力>20 (+10)
MP <魔力>40 (+30)
STM <スタミナ> 10 (+0)
STR <筋力> 10 (+0)
INT <知力> 30 (+20)
DEX <器用さ>30 (+20)
AGI <敏捷>20 (+10)
VIT <防御力>10 (+0)
LUC <運> 20 (+10)
残りポイント0
スキル
<
魔法
<
装備
武器 装備不可
頭 なし
胴 ボタンのコート +6
腰 装備不可
足 ボタンの靴 +3
アクセサリー 針山の御守り
合計防御力 9
<
ボタンのコート:牡丹ではなく服のボタンが沢山付いているコート。モコモコのふわふわであったかく冷気に耐性がある。そして装備すると器用さに補正がかかる。
ボタンの靴:牡丹ではなく靴に大きなボタン付いているのが特徴。ゴテゴテした物が付いているが意外にも動きやすく軽い素材でできており器用さと敏捷に補正をかける。
針山の御守り:首からかけることができるアクセサリー。これを装備すると魔力を消費して投擲用のまち針を生成する魔法を使えるようになるが武器が装備できなくなる。その代わり魔法に大きく補正がかり、器用さにも補正がかかる。
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