手は何かを掴む為にある
あーあ、まさか楓ねえが丸一日付きっきりになるとは思わなかったよ。そのおかげでゲームができなかったしさ。まあ楓ねえの監視がなくてもサーバの接続がブロックされたからどっちにしろ部屋で大人しくするしかなかったけどね。
なんでうちの姉ちゃんは楓ねえにサーバ権限を渡したのかなぁ。ボクが無理してゲームをやろうとした時に止める為だって言ってたけど、そんなにボクの信用ないの?
信用を失うようなことは…した覚えしかないけどそれでも、実の弟ぐらいには優しくして欲しいよ。姉ちゃんがしてくれたことといえば桜グループが作ったゲームの新作を毎回送ってくれたり、デモ版まで送ってくれたりするけど。
他にも欲しいゲームが絶版した超希少なゲームだった時もなんとかして手に入れてくれた。そのぐらいだよ…うん!今日から姉ちゃんの文句言うのやめよ。
昨日は楓ねえと会話とかしてたらいつの間にか寝落ちしたんだよね。記憶があるのは楓ねえが子守唄でも歌う?って聞いてきた辺りで途切れてる。
本当に歌ったのかな?でも確かその後に昼ご飯が出てきた記憶も断った記憶もないから朝から夜までずっと寝てたんだろうな。やっぱボクが気づいてなかっただけで疲れてたってことなんだけど。
朝から寝てたせいで変な時間に起きちゃったよ。病人だからって何時間も寝れる訳じゃないんだから、目が覚めた時にどうしても暇になっちゃう。
だからその時間にずっとゲームを遊んで暇つぶしをしてたんだけどたまーに、ほんとたまに夢中になり過ぎて今回みたいに怒られちゃう。
今から寝るのは無理そうだし、この時間どうやって過ごせばいいんだろう。あっ、でももう朝の2時なんだよね。一応、1日経ったからゲーム禁止は解除されたし別にゲームしてもいいよね。
でもゲームするにしても問題はサーバのブロックが解除されてるかどうかだ。再びベットに寝転がり目を閉じてゲームにログインしようとしてみる。
どうやら日を跨げば解除されるように楓ねえが設定してくれたらしく、無事に起動することができた。
ゲームに帰ってくると現れた場所は一さんと戦った後に強制ログアウトされたところでも街の宿屋でもなく、教会のベットだった。
「あれっ、なんでここに居るんだっけ」
そうだ、胡桃ちゃんに色々オススメするためにゲーム内で調べてたんだった。そもそも強制ログアウトしちゃった所から街に戻って胡桃ちゃんと合流しやすいようにした後。
街の掲示板で情報集めしながらついでに鍛冶屋さんに武器と防具の強化を頼んでたんだよね。あの時も朝早く起きて胡桃ちゃんと合流する頃には受け取れるようにしたんだけど結局1日遅れちゃった。
じゃあ早いとこ取りに行かないと、今のボクの装備は最初にきてた妖精の装束だから防御力がめちゃくちゃ低い。ちなみに一さん倒して手に入れた装備の中にあった初心の靴を履いてるから裸足は免れた。
情報収集が終わった後にとりあえず一旦、邪魔になりそうな装備類をルクスの大袋に預けてログアウトしようと宿屋の場所を聞いたら何故か教会のベット貸してくれた。
「イベントかと思ったけど何も起こらなかったし、何なんだろう」
昨日自分が何をしたのかを思い出しながらベットから降りて寝室からドアをなるべく静かに開けて部屋を出る。
「挨拶ぐらいはしたかったけど起こすのも悪いよね」
音を出さないように廊下を歩く、そして正面の門から出ようと聖堂を通って行こうとすると中心に人影があることに気づいた。その人は今合わせると会って3回目なのに良くしてくれる。不思議なシスターさんだ。
「すみません。ボクが起こしちゃいましたか?」
「いえ、私がただ起きてだけです。それよりもベットを貸した後、すぐに居なくなってたからビックリしましたよ」
「あはは、ごめんなさい」
このゲームはログアウトする時は安全な場所で寝る必要がある。その時ゲーム内の体は消えてなくなり、ログインしたらまた現れる。
これだと街以外でログアウトできないように思えるが他の方法も一応ある。しかし街の外でログアウトすると体が残ってしまうのだ。
つまり魔物やPKが襲ってくる可能性がある場所で意識のない体が放置される。こんなのスラム街を丸腰で寝るようなもの。できればやりたいものではない。
でもそうならない例外がある。ボクも体験した強制ログアウトだ。あれは回線の不具合や機材の故障、使用者の不調を感知して行われるためペナルティはなく、消えたその場で再開となる。
初ログアウトが強制ってボク運ないなぁ
「レンさんには感謝しておりますから、お礼申し上げる前に居なくなられると困ってしまいます」
「はい?」
お礼されるようなことした覚えがないんだけど
「堕ちてしまった者。通りすがりの人々に殺戮を繰り返す人狩りを倒して救ってくれたのは貴方ですよね」
人狩りって一さんのことか、そんな言葉が出るなんて運営の手が早いのか。元から用意された条件に一さんが引っかかったのか。このゲームのAIが高性能でプレイヤーの行動を踏まえた世間話もできるっていうだけなのか。
多分最後だと思う、NPCの間で悪行がそれだけ広まってるって大丈夫なの?あの人
「いえ、ボクだけでやったことじゃないですから。どっちかていうと助けて貰ったのボクの方だし」
ほんと、楓ねえと萩にいが頼りになり過ぎて落ち込むぐらいだよ。
「それでも差し伸べようとした手は自ずと何かを握って帰ってきます。それが貴方にとっての幸でも不幸でも、巡って繋なぐ縁が貴方の為になるようにここで祈っておきますね」
「えーっと、ありがとうございます」
やっぱり、ああいう人の話しを聞くと小難しいけど頭が良くなった気がする。
清々しい気持ちで夜の街を歩く、夜空を見上げると星空がとても綺麗で現実と変わらないような、もしくはそれ以上な気もする。ボクは鍛冶屋が閉まっている可能性を星空を見ながら歩くことで考えないようにした。
お店が集まっている場所は住宅地と違って所々の店に光が灯っていて明るい。そしていつもの鍛冶屋もボクの心配は裏腹に営業しているようだ。何となく控えめにドアを叩いて開く。
「すみません。今ってお店やってますか?」
「妖精?あー、お前さんか。昨日にはもう仕上がってたけど、来るのが遅かったな」
「ちょっと諸事情がありまして、でもこんな時間まで営業してたらいつ寝るんですか?」
「最近は夜に頼んでくるやつも多いからな。休みたい時は他の鍛冶師と協力してるな。バラバラにあるけど一つの組織みたいなもんだからこのぐらいは何ともねえよ」
「へー、競争相手っていう訳じゃないんですね」
「それは別としてあるがな。まっ、こんな話しじゃなくて見せたいのは装備なんだよ。久しぶりに面白いのができたぜ」
机の上に武器と防具がそれぞれ置かれていく。
・
・
・月見の羽衣装備一式
「月の雫使ったからすげー綺麗になりましたね」
「そうだな。どれも青白く染まってやがるし輝いてる。主張が強くてそっちメインになってる奴もあるな」
「効果は変わったのとかあるんですか?例えば状態異常にできたり」
「性能は上がったけど、状態異常にできる効果を強化で付与すんの難しいぞ。その効果もってるのは錬成武器のこっちの方だ」
店主が取り出したのは強化を依頼したのとは別の方。
・
「おお!頼んでた錬成武器だ。こっちもできてたんですね」
「錬金術師に頼んだら嬉しそうに承諾してくれたぞ。でもこれができたのは昨日の夜だったからちょうどよかったかもな」
「どんな感じの装備になったんですか」
ワクワクして目を輝かせながら前のめりにそう聞く。
「おうよ。まず月欠ノ葉は魔力効率とか諸々上がったのに加えて、敵を倒したら耐久度が回復するようになったぞ。でも過信したらぶっ壊れるからな」
「肝に銘じますね」
めっちゃ便利になったな。ボス戦には影響しないけどレベリングとかにも最適じゃん。
「鎖鎌の方は月の雫に加えて
「ホント、面影がなくなっちゃいました」
ていうかこれも青白いからただ月の雫の色に染まったってだけなんじゃ、それだったら何も残ってないことになるから考えるのやめとこ。
「防具はシンプルに頑丈さが倍ぐらいになってさらに軽くなったぞ。魔力制御もしやすくなってるだろうし何より状態異常の耐性が増えたな。盲目は効かないし、毒と麻痺もある程度防げるだろ」
「最後に錬成武器の、このデケェ針だけどよ。あいつらから聞いたところ、失月蝶の状態異常はなんとか再現できたってよ。でも凝縮して形にしたから原液みたいな即効性はないらしい。指先に掠るだけで効果を発揮するっていうわけにはいかなくて、最低でも数回斬りつけるか敵にブッ刺せば確実だ。効果は数秒、もしくは刺してる間なら相手の耐性がつくまで視界を奪える」
「それでも十分強いと思うっていうか、原液の触るだけで効果が出るっていうのが可笑しいですよ」
「それもそうだな。それで料金だが全部で15万だな。」
「前よりも随分高いですね」
「素材が難しかったのもあるけど錬成武器のせいだな。合計料金の中で錬成武器だけで5万かかってるからな」
一さんから奪ってなかったら足りないところだったよ。なんか人聞き悪い気がするけど事実だし頑張った報酬としては十分過ぎるか。
そんなことを考えながら店の外に出るとふと思い出した。
「そういえば武器を教会に預けた後、碌に確認してなかったな」
アイテム欄を開いてスクロールしていき、手持ちを眺めていく。装備は初心のシリーズとか混ざって探しづらかったから後に回して預けたんだけど、素材とかなら見慣れないものがあったらすぐに分かるでしょ。
「うん?何だコレ」
見つけたのはアイテム名が恋人の指先という物しかもテキストが
恋人の指先:絡み合う指先は斬り落とされるが定め。
テキスト読んでも意味分からん。
「姉ちゃん、恋人いないからって嫉妬に狂った訳じゃないよね」
アイテムボックスから取り出してみると一本の長い指が手のひらの上に置かれる。
「戻って店主に聞いてみよ…
<アナザーミッションが発生しました>
「えっ!クエストですらないの」
突如目の前に現れるメッセージウィンドウ、このゲームは小さな頼み事やギルドの依頼全てを含めてクエストと呼ばれている。しかしそんな疑問も答えず、メッセージは終わらなかった。
<一時的に貴方のカルマ値が最低値に設定されます>
「はあ?」
予想外なことに思いっきり店の前で叫んでしまい、それに怒ったのか店のドアがガチャリと開く。
「あっ、すみません。叫んでしまって…
鍛冶屋のおっちゃんが何も言わずにただ手に持った剣を振り上げて襲いかかってきた。
「意味わかんねぇ!」
反射で体が咄嗟に動いて、攻撃を横に避けながら通り過ぎると同時に右ストレートを顔面に叩き込んでしまった。それでも手加減はしたつもりだったが店主の顔には大きな穴が空きバラバラと到底人間とは思えない音を立てて崩れていく。
「ヤバい!おっちゃんを殺しちゃった」
Limited[World] リミテッドワールド 白湯 @sayu22
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Limited[World] リミテッドワールドの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます