三人寄れば敵は倒せる


楓ねえ達先に来てなければ良いんだけど。そう思いながら辺りを見回す。周りには噴水が一つだけ、しかし見通しが良いし結構な大きさの広場だな。


ボクの他にも何人か待ち合わせをしているような人達がいるのだがそこに知っている顔はなくホッと胸を撫で下ろして噴水の淵に腰掛けた。


その時、目の前に画面が表示されメッセージが出てきた。


『MARS内のフレンドが貴方に連絡を取ろうとしています。MARSとの接続リンクを許可しますか?』


うっ、多分楓ねえからだよね。でも先に来てたんなら待ってくれてもいいのに。そう思いながらMARSと接続してメッセージを開いた。


「遅いわよ。先にここで待ってるから早く来なさい!」


やっぱり、でもこのゲームって位置情報も送れるのか。添付された場所はアイコンで教えてくれるらしくその方向に向かっていると人気のない、いわゆる裏路地的な所についた。そこには積まれた箱や樽が放置されている場所で昔は倉庫などが合ったのかもと思わせる場所だ。


「なんだここ。道間違えたかな」


「合ってるわ。それにしても急いでってはやし立てたあんたがなんで一番遅いのよ」


「えーっとそれはほんとにごめん。キャラ作る時色々迷っちゃって、そういえば萩にいが見当たらないけど何かあったの?」


「僕はこっちだよー」


声が聞こえると同時に積荷の上から影が飛び出す。その萩にいだとわかる影は放物線を描くように落下し、着地の衝撃を膝を曲げるだけで殺してみせる。


まさに猫の様な姿、そしてもふもふの毛並みとクリっとした目、何より動くネコミミと尻尾が比喩表現ではないことを示していた。


「どうすごいでしょ!これ」


「うん!萩にいは人獣を選んだんだね」


人獣属か身軽さが特徴だから候補にあったんだけどそれも面白そうだなぁ。


「掴みはバッチリでよかったじゃない。萩はこの登場するために呼び出したんだから」


「いやっ、違うよ!楓が変なことして目立ったからこんなとこ来るハメになったんでしょうが」


「なによ、ただ撫でてただけで、あんたが変な声出すからでしょ。でもそこまで言うならもうしないわ。猫に初めて触ってみたら、思った以上に毛並みがふわふわなのにサラサラでおまけにほんのりあったかいのもよくて、つい…やっぱりもう一回撫でても良いかしら」


「文脈!前後の文脈が合ってないよ。国語力足りないんじゃないの!」



そう言って萩にいは逃げ回り楓ねえが追っかける。そんなわちゃわちゃしたやりとりを見るといつも一人でやってるゲームとはまるで違う感じがして思わず笑みがこぼれる。


楓ねえは確か猫アレルギーも持ってたっけ、それなら仕方ないのかな?それにしても楓ねえに振り回されるのはいつものことだけど萩にいが撫でられる側っていうのはいつもと逆みたいになってて面白いな。でも今は止めないと


「二人ともストップ!ボクたちは三人でゲームをしに来たんだよ。どうせならゲームで楽しもうよ」


ボクの言葉を聞いて二人の動きがピタッと止まる。


「ちょっと大人げなかったわよね、ごめんなさい」


「そうだね。あと最初にやるべきだったけどレンをパーティーに入れないと」


あっそういうシステムなんだ。招待メッセージを受け入れながら自分の事前情報のなさを改めて実感する。


「そういえば二人はどういうキャラメイクをしたの?役割決めないといけないしみんなで情報交換しようよ」


「そういうことなら先にレンのことを教えてよ。背中みたら羽生えてるし聞いて良いのかわかんないけどなんで裸足なのよ」


ボクは二人に種属を妖精にしたことや武器と能力を優先して靴を買わなかったこと。そしてステータスを力と防御を捨てた曲芸師だということを伝えた。改めて考えるとひどいなこれ。


「まさか欲しいものために靴を売るなんてね。マナーを教えてあげたほうがよかったかしら」


「ふふっ、レンらしくて良いじゃない。非力で体も丈夫じゃないなんて特にそっくりだし」


「もうすごい誹謗中傷!そこまで言うなら二人はどんなふうにしたんだよ」


「僕は狩人だよ。器用さを高めにしたけど矢を召喚できる魔法を使ってみたくて魔力と知力にも振ったんだ」


意外にまともだ。まぁ萩にいはちゃんとやってくれるって信じてたし、残る問題は…


「なんでそんな疑うような目を向けてるのレン。ちゃんと真面目に選んだわよ。職業は面白そうな歌唱術師にしてそれに合わせて魔法職の適性があるエルフにまでしたのよ」


種属はエルフだったんだね。なんか衝撃的なことが立て続けて起こったから気づかなかったよ。


「振ったステータスは?」


「…力と体力」


「アホなの!バカなの!脳筋なの!それじゃあただの戦士だよ。魔法使いの意味ないじゃん」


「うっさいわね。私にも考えがあるのよ」


「まあまあ、二人ともここでケンカしても何にもならないでしょ。とりあえず町の外に出ようよ。レンと別れてる間に僕たちでちょっと調べたんだよ」


そう言いながら、ボクたちは街の出入り口になっている3つの門がある広場に向かって歩き出した。


うーんいつもそういうのは調べないようにしてるんだけど、まぁいいか楽しく三人で遊ぶことの方が重要だし、まだ始まったばかりだからそこまでの情報はないでしょ


歩きながら考えていると楓ねえが話しを再開する。


「今行ける場所は東か西みたいよ。北にも他の街に行ける道はあるんだけどボスで塞がれてるらしくて」


「ああ、そうだね。最初に北を選んだ人が瞬殺されて掲示板で騒いでたよ。理不尽だって。後は東が虫系の魔物がいる森で西が動物系がいる森ていう所まで調べたよ」


「私が調べた中だと東の森でワンコが出るらしいわよ。レアなことなのかしら、すごい量の情報が出回っててよくわからなかったわ」


うん?東は虫がいる方でしょ、なのにワンコが出たのか…イヤな予感がするんだけど、そのワンコってもしかして個人を指したものじゃないよね。


もしそうなら面倒な人がこのゲームにいることになるんだけど。合ったらボクでも容赦しないし、こんな序盤じゃ絶対勝てないよな。


「よし。西の森にしようよ。東はちょっと不安だし」


「レンがそういうならそうしましょ」


「僕も構わないよ」


ひとしきり相談した後ボクたちは西の門をくぐる。森に入るとすぐさま実感した。この世界のクオリティに。


歩けば土を踏む音と触感が伝わる。周りの木々を見回すと風で葉が揺れ、音を立てる。時には舞い、その落ちた葉すら森の匂いを漂わせている。


走れば肌の間を風が掠めながら通り過ぎていく。そんなゲームだということを忘れてしまう本物の感覚をボクたちは言葉を交わらせないまま、一緒に噛み締めていた。


しかしこの世界がどんなにリアルであろうともここは現実ではなくゲームなのだ。お散歩気分でいるとどうなるかを親切な狼と熊の魔物が死をもって教えてくれるようだ。


狼は茂みを音も立てずに進み、体勢を低くして構える。そして先頭にいる無防備な獲物に向かって駆けるではなく跳ぶ。


最短最速の攻撃をしてくる狼は最低限の予備動作により一回の音しか聞こえないため初心者狩りの難敵とされていた。


狙われたレンは今まさに喉笛に噛みつこうとしている狼に驚きもせず、ただ右に避ける。そしてすれ違いざま狼の無防備な腹を下から切り裂いた。


「ごめんっ、レン。周りを警戒してなかった」


「私もぼーっとしちゃってたわ」


その光景を見た二人は冷静になってレンに謝った。


「大丈夫。不意打ちには慣れてるから。ここはボクに任せてよ。いらないだろうけどお手本を見せてあげる」


それに試してみたいスキルもいっぱいあるしね。


レンの後ろではHPを0にされた狼の亡骸が黒く染まり塵になって崩れる。そしてボンっと少し弾けて塵を舞わせながらアイテムをドロップした。


しかしレンにはそれを見る暇や拾うことは目の前で立ち塞がる熊がさせてくれないだろう。


熊は咆哮を上げながら両足でレンのことを踏み潰そうとしてくる。


「まずは<浮遊>!」


<浮遊>を起動して真上にジャンプして回避する。少し跳んだつもりだったが熊の頭を超えるぐらい浮かんでしまった。


そのまま横に移動して熊に近づこうと思いきやおかしい。どれだけイメージしたり動いても全く移動ができない。


そんな頭上をプカプカしてるだけのボクに対して熊は立ち上がって腕を振るい攻撃を仕掛ける。


ボクはすぐに<浮遊>を解除して落下することで場を凌ぐ。


「よっと、浮遊の使い方調べればよかった」


まぁ予想はついたけど。


熊はレンが着地した後すぐさま攻撃を仕掛けようと飛び掛かる様に突進をした。


ボクはもう一回<浮遊>を使い跳ぶ。今度は斜めにそして頭の少し横を通過して今回はMPを追加消費して威力を上げて肩を切った。


「うわ、硬っ」


さっきの狼と違い、攻撃してもHPが1割程度しか減らない。


攻撃した直後に<浮遊>を切り、着地の前にに<浮遊>を使って衝撃を消した。


うーん<浮遊>はあんまり強くないかも。飛べるわけじゃなくて慣性が小さくなり浮かぶって感じかな。だから勢いがないとただ浮くだけ。それと落下無効ぐらいにしか使えないなぁ。


いやっ、全然強くね。加速しやすくなって落下ダメージも無くせるっていうだけで普通に便利でしょ。


「まぁ、浮遊は十分試せたし後はこいつを倒すだけかな」


ボクは熊に向かって歩き出した、ただゆっくりと。熊は慌てて攻撃することもなく立ち上がり、少しあたりを見まわした。


そして間合いに入ると右腕を振り上げて地面を抉るかのような軌道を描く全力の薙ぎ払いで仕留めにきた。


ボクはその攻撃を躱わすことなくとっておきで迎え撃つ。


「<舞風まいかぜ>」


構えた短剣を滑らせて攻撃を受け止め、弾くパリィを実行する。


しかし熊の右腕は止まることも弾かれることなく正確にレンを捉えて振り抜かれた。


「「レン!」」


思わず静かに見守ることを決めていた萩と楓も咄嗟にに声が出る。


「<舞風>の能力は攻撃にパリィを合わせると数秒の間、実態を残したままあらゆる攻撃を透過する」


その技は相手の全身全霊の一撃を受け止め打ち合い、そして舞うように放棄する。


相手は敵を斬り伏せ撃ち倒そうと力を掛ける。

しかしそこで敵の質量が抵抗支えが急に消えたらどうなるだろうか。


力は抜けて暴走し空を切る。つまり相手が全力なほど大きく大勢を崩す。


実際に熊はバランスを崩して尻餅をついてダウンをとれた。


「トドメは。<浮遊>プラス<スラストダガー>」


スキルを二つ起動して追加でMPを3割消費して後は全力で跳ぶ!


攻撃は正確に喉を貫き、スキルと魔力MPによる補正、さらに浮遊による加速によって容易に熊のHPを消し飛ばした。


「レン!良い戦いっぷりだったわよ」


「うん、ものすごくかっこよかったね」


「えへへ、ブイッ!」


魔物は塵になって弾けて辺りを包み込む。それはまるで雪のようで

舞い散る中をレンは一人漂いピースしながら二人に無邪気に笑いかける。


その見る人を魅了する儚さとあどけない姿そして周りを振り回す悪戯っ子のような笑顔はまさに妖精のようだった。


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