Limited[World] リミテッドワールド
白湯
プロローグ
みんなはもし自分があと少ししか生きられないとしたら限りある今を全力で謳歌したり病気に負けまいと抗ったりするのかな。
ボクはただ忘れたかった。
辛さも痛みも苦しみも不安も期待も、だから今日もボクは
「
自動音声が鳴り響き景色が世界が変わる。立体感ある建物が横に広がりやがて鮮やかな色と線だけになる。それはまさにゲームの中の二次元に入り込む幻想的な光景だけど
「毎回思うけどサーバーを切り替えるのには大袈裟な演出だよね」
いわゆるロード画面が終わって待望していた今日発売のゲームが始まる。
『Unlimited Story Online ・・・通称アンリスと呼ばれているこのゲームは今日本で一番人気のゲーム会社である桜グループが手がけた新作のオンラインゲームだ』
『このゲームに限界はない。多種多様な種属。人間とかけ離れた異形でも自由自在な操作感。ここで作れるキャラは第二の自分と言えるだろう』
『レベルを上げ強くなり
『そして新しい
どんなキャラにしようかな、今から楽しみだなぁ。
「オフラインになりました。ローカルネットワークに接続します」
えっうそ。
「
戻ると同時に通話アプリが開かれて怒声が響いた。
「うっ、
「違うわよ。今日は登校日でしょうが。
「えーっと今日はちょっと調子が良くなくてー
「私に仮病は通じないわよ。そこまでしてゲームがやりたいの?」
「うん…だってボクたち勉強なんてする意味ないと思うし、それに楽しみだったんだ姉ちゃんのゲーム」
「はぁ、言いたいことは色々あるけどあなたの気持ちも分かるわ。でも学校には来なさい。それが終わったら私たちもそのゲーム、確かリミテスだったかしら。一緒に遊んでであげるから」
「ほんと!じゃあ約束だからね。絶対だよ!今すぐ戻るから待ってて。あっそれと、リミテスじゃなくてアンリスだよ」
すぐにマーズから接続を切ってログアウトした。
「どうだった楓、蓮は説得できたの?」
電話を切った楓にそう話しかける
「まあね、そのかわり私たちもアンリスすることになっちゃったけどね」
「そんな嘘つかなくてても。本当は蓮と遊びたかったんでしょ」
「別に」
「また素直じゃないんだから。……あれっゲームの名前、さっきまでリミテスって言ってなかった?」
「そんなこと言ってないわ、気のせいじゃないの」
「ふふっ、そういうことにしといてあげる」
二人が話しをしながら待っていると蓮がガバッとベットから飛び起きた。
「うわっ、二人とも目の前で待ってたの!趣味が悪いよ。教室で待ってたらいいじゃん」
「うるさい、蓮が全然来ないから悪いんでしょ」
そう言いながら起き上がった蓮に近づいてデコピンを叩き込んだ。
「痛いっ!でも頑張って来ることにしたじゃん」
「あんたねぇ、誰のおかげだと
「まぁまぁ、蓮も学校に来てくれるわけだし大目に見ようよ」
このままだとまた楓がヒートアップしそうなので強引に流れを切って助け舟を出す
「それに先生に聞いたけど授業も終わらせてるみたいだし、偉いよ」
厳しい
「あのー萩にい、それ楓ねえだよ」
「あれ?」
「あんたは目の調子が悪いなら先に言いなさいよ!」
本日二度目の怒声が病室に響いた。
病院内の教室に向かおうと三人で廊下を歩く。
「あーもう、あんた達は二人して私の喉を裂けさせる気なの?」
「わざわざ叫んで怒らなくてもいいんじゃないかな」
「そうだよ。また声が出なくなって知らないからね」
「あんたのお姉ちゃんがとびきり甘いから私が代わりに怒ってるの」
「そういう問題じゃないと思うけど。まあでも蓮のお姉さんはすごいよね。今回のゲームも作ってるらしいしさ」
「お父さんとお母さんと一緒に桜グループで働いてるからね。一応次期社長だし、だからボクがいなくても困らないと思うんだけど
「パチンッ」
「痛いっ!
「そんな悲しい考え方しなくていいの。あれっ、でも私が前に調べたら桜グループって医療会社だったんだけど」
「うん、そうだよ。それに農業もやってたと思う。バイオなんちゃらみたいな」
「バイオテクノロジーだね。元々農薬とか医療器械とか作ってる大企業だったんだけど、数十年前にMARSと協力してフルダイブVR機器を開発してからはそっちの方が注目されてるのかな。でも桜がVRゲームをつくり始めたのは十年ぐらい前だから結構最近だよ」
「えっ、VRゲームってもっと前からあるんじゃないの」
「桜が作ったゲームはまだなかったってこと。開発された当初は昔の経済体制との衝突とかで大変だったみたいだし、そこからも世界進出とか法整備とか国との融和とかでゲームなんて作る暇なかったから、他の企業に自由にやらせてたみたいだね」
「「へぇーそうなんだ」」
「って、蓮はそのこと知っておきなさいよ」
「あはは、、でもこれは知ってるよ。桜グループに姉ちゃんたちのゲーム部門ができて市場を塗り替えるぐらい影響が出たんだって」
「それはそうだろうね。なんてったって桜は
話しながら歩いていると丁度教室の前まで来たのでガラガラっとドアを開ける。
「ダメなの!ぬいたちはくるみのなの。先生でもあげないの」
「誤解だにゃ。先生はただ猫にゃんたちを触らせて欲しいだけだにゃー」
そこには大きなぬいぐるみに腰掛ける少女と顔を猫のぬいぐるみで隠しながら猫語で喋っている先生がいた。
「先生までぬいぐるみで遊んで何をしてるんですか」
「楓、失礼だよ。女性はいくつになっても乙女心があるんだから」
「あんたのフォローの方が失礼だわ」
「ていうか教室に胡桃ちゃん以外誰もいないんだけど。これならボクが来なくても良かったんじゃ」
「あらあら、三人が来たらものすごく賑やかになりましたね。先生はとても嬉しいです。胡桃ちゃんもそう思うかにゃ?」
まだ続けるんだね…毎回思うけど先生は肝が据わってるのかおっとりしてるだけなのかわかんないよ。
「くるみはその貸してあげたぬいを返してほしいの」
「あっいけない、そうだったわね。貸してくれてありがとうね胡桃ちゃん」
「はいこれで今日来れる人は集まったようですし切り替えましょう。皆さんとりあえず席に着いてください」
先生がそう言うとみんなそれぞれの席に座った。
「まずは蓮君、来てくれてありがとう。今日は皆さん調子が悪くて3人しか来れませんでしたから。でも蓮君を呼びに行った人達が帰ってくるのがあまりにも遅くて暇だったから胡桃ちゃんと遊んでたんですよ。だから言い訳ぐらいは認めてくださいね」
話をしながら歩いてたからなぁ。いつもより遅くなったんだろう。
「先生一ついいですか。今日の授業早めに終わらせることってできます?蓮と一緒に遊ぶ約束があるので」
楓ねえ。それはいくらなんでも直球すぎるんじゃ…
「別に構いませんよ」
「いいの!」
「はい。今日は集まりが悪いですし、それに皆さん今月分の課題と授業は終わらせてあるみたいですから」
そりゃあもう、今日の発売日からゲームし続けるために先週の調子がいい日に授業と確認の課題十数個全部終わらせて準備万全にしてたんだから
「ボク以外にもいるんですか?」
「そうですよ。先週3人から課題が届いて、大変でしたよ先生は。問題が2、3問とはいえ合計で50枚ぐらいありましたから。先生的にはあんまり前期に単位取り切って学校にこなくなる大学生みたいなことはしてほしくないんですけど」
「余計なことは言わなくていいのに」
「あれ先生の例え面白くなかったですか?確かに伝わりづらいとは思ったんですけど」
「そういう意味じゃないと思いますよ先生。僕には伝わりましたし」
「先生とりあえず授業始めましょうよ。ボク早く帰りたいです」
「うーん、意欲があるのかないのか…えーとじゃあ今日の授業は半分にしますのでお昼よりも早く終わると思いますよ」
:
:
:
やっとだ。長く感じる短い授業が終わったー!
「よし、みんなすぐにご飯食べてその後ゲームしようよ」
「まだ11時なんだけど」
「あっ胡桃ちゃんもアンリス一緒に遊ぶ?」
「くるみはぬいたちのいる所しか行かないの」
「じゃあ可愛いものがあったら写真で送ってあげるからそれ見て決めてよ」
「…考えとく」
「二人ともなるべく早く来てよね。ボク先食べて待ってるから」
蓮がものすごい速さで走って消えていく。
「後で合流するのなら一緒に食堂で食べても良かったと思うけど」
「そうだよね。でも多分自室で食べるつもりっぽいよ。僕たちはどうする?」
「食堂でサンドイッチでも食べましょ。胡桃も一緒に食べる?」
「フルーツサンドなら」
「オッケー頼んどいたわ。私たちはミックスサンドにしたわよ」
楓が電話のアプリで注文を済ませる。
「待たせると蓮に悪いし僕たちも走ろうか?」
「いいけど、それならぬいぐるみ運んでよね私は胡桃抱っこするから。よいしょっと」
そう言うと楓は胡桃を抱っこして持ち上げる。抱っこは抱っこでもお姫様抱っこだ。
「わわっ」
「ええー、普通逆じゃないのだって
「また余計なこと言って怒られたいの?それにあんたに胡桃を任せてられないわ」
「ひどっ!」
「うふふ、楓ちゃんはいつもかっこいいの」
「そうでしょ」
そう言って楓は笑った。それはいつものとびきり良い笑顔なんだろうと、いつも通り視界が歪んで見えない萩はそう想像するしかなかった。
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