そろそろ靴を買います

街はなんだがざわめいている。それはゲームに入った当初のお祭り騒ぎのようなものではなく困惑しているからだと分かる。


ざわめきに耳を傾けるとこんな話し声が聞こえてくる。


「おいおい、聞いたか?だいぶ前に通り魔みたいなのが来ただろ」


「ああ、東門と北門で大勢死んだってやつか。でもそんなことならとっくの前に知ってるぞ」


「それがさ。その犯人が北門の先で今まで集めた所持品の全てを賭けて決闘してるらしいんだよ」


「でもその人ってPKだろ、決闘じゃなくても死んだら全ドロップするから受ける意味なくね」


「決闘とは言っても全部賭けなくてもいいらしい。装備品と所持金だけだから実質PKに殺された時と同じだな」


「でも肝心の相手があのワンコさんなんじゃ勝てなくね」


「そうだけど同じ場所に留まってるワンコさんってレアじゃね。それにもし勝てたら一攫千金だぞ」


「お前…ギャンブルで破産するタイプだな」


結構ワンコさんの名前が広まってるな。でも招待状に書いてある通りに動いてくれたみたいだ。レベルはこれでなんとかなるから後は装備をどうにかしないと。


「えーっと、お祭りみたいだね」


「はぁ、誰のせいだと思ってんのよ」


「そうだけど仕方ないじゃん。止めないと一さんが危ないんだよ」


「ずっと考えてんだけど、その人そんな生活してきて今までどうやってゲームしてきたんだろう。ゲームするたび餓死で死にかけることになるのに」


「ボクみたいに点滴してるらしいよ。ゲームしてる間はずっと、それでも限界が来た時は強制的にログアウトさせられるし」


VR機器には安全機能があるから異常を検知すると勝手にログアウトする。恐怖症の人がパニックになって安全機能に引っかかるとかもあった。


まぁ感情が昂ったとしても身体に影響なければゲームが原因で強制ログアウトするようなことはそうそうない。


どちらかといえば気をつけるのは体の方、ゲーム中に病気の症状が出て続行不能になったことが実際に何度もある。だから一さんは点滴してるんだろうけど


「でも点滴してるなら最悪、朝まで持つんじゃないの」


「点滴してるからご飯食べなくていいなんて考え方良くないと思うんだけど」


「レンがそれを言うの?ご飯食べれないって嘘ついて点滴やってもらった後1日中ゲームしてた時あったわよね」


うっ、だってご飯食べるためにゲームやめるの面倒くさかったんだもん。


「それでも、前科一犯だよ」


「二犯は確実に超えてたと思う」


「にいちゃんまで」


「どちらにしてもあんたの前科は消えないの。大人しくご飯を食べなさい」


味方だと思っていた萩にいに裏切られて勝負は完敗という形で幕を下ろした。


「あーあ、こっちでも説教されるとは思わなかったよ」


「レンいつまでもいじけてないで、ほら鍛冶屋さんに着いたよ」


ガチャっと扉を開けて中に入る。


「おう、いらっしゃい。にしても今日は客が多いなんてもんじゃねえなおい」


「そうなんですか?」


まぁプレイヤーが大量に入ってきたからだろうな。


「しかもあんなに色々な種属が集まったのは初めてのことでよ。近々祭りはあるけどこんなに来るもんなのか。って驚いてたな」


ていうかこのゲーム、NPC側視点だとどこからきたのかも分からない多種多様な種属がこの街に集まったのか。よく受け入れてくれるもんだな。


「その祭りっていうのはどういうものなのよ?」


「祭りか?なんか王都で他の種属も呼んで祭りを開くって話しがあるんだけどよ。いつ開催してどのくらいの規模なのかも分かんねえんだ。王都に調べに行こうにも北の道は魔物で塞がっちまってるからそもそも出れねえし」


「あのーそれよりも、僕たち武器の修理を頼みにきたんですけど、これって直せるんですかね」


そう言いながら萩にいは自分の弓を店主に見せる。


その言葉で気づいたけど、ボクの持ってる武器も妖精属の国で作られたものだから普通だったら直せないわ。


「俺らのスキルと魔法の腕を舐めるんじゃねえって話よ。なんなら素材を使って改良すれば武器を成長させることだってできるぜ」


おおーすごい。じゃあこのまま魔葉刃を使い続けることも可能ってわけね、あれお気に入りだから変えたくないんだよね。


「素材ならいっぱいとってきたけど、どれがいいんだろ」


「それならとりあえず全部出しな。どんなのが作れるか考えてやっからそれにオメェらも素材の買い取りして欲しいんだろ」


「はい。現金がないんで、でもどうして」


「他の客もそうだったからだよ。見たことない武器の修理を頼んできたり、大量の素材を持ち込んできたり、仲間内で盛り上がってたんだ面白いことになってきたってよ」


対応が早いっていうかおおらかっていうか。


「じゃあとりあえず全部出しますね。2人もお願い」


「はいはい」


どんどん机の上に置かれる魔物の素材は一面に広がり遂には小さい山のように積み上がった。


「こりゃまた随分と、えーっと、ウォーベアーにクロウルウルフ、スアローバードにナッツクラッカーしかも実まであるじゃねえか。東の森にいる魔物だな。でもこんなに持ってきた客は初めてだな」


「それでどんなのが作れそうですか?」


「ああ、その前に武器を見せてもらわねえと」


「本当だ」


ボクと楓ねえは店主に武器を渡した。


「そういえば3人とも武器の改良でいいのか?そっちの兄ちゃん達のは別だが、姉ちゃんの杖はお世辞にも良い物とはいえねえぞ。いっそのこと新しく作るって手もあるが」


「いえ、それでお願いします。使ってるうちに愛着が湧いたので」


「あいよ。それで使う素材だが、3つ共魔力を通しやすいもので作られてるから。ナッツクラッカーの実をベースにするぞ、珍しくたくさんあるからな。後は短剣がスアローバードの羽、弓はクロウルウルフの牙、杖にウォーベアーの爪をそれぞれ使うけどいいか?」


「「「はい」」」


そういえばみんな魔力を使う戦い方してるな。


「後、防具はどうする?絶対余るから防具一式作れるぞ」


「ボクは防具ないから作ってもらうけどみんなはどうするの?替えの服とか持ってた方がいいのかな」


「それなら僕達もお願いしようか」


「ええ、それがいいわね」


「了解。それじゃあ最後に職業を教えてくれ、参考にするから」


「ボクは曲芸師だからなるべく軽い方がいいかな」


「私は歌唱術師で武器を使って戦うわ」


「僕は狩人です。性能はお任せしますね」


3人それぞれ希望を言う。


「おう!それじゃあ仲間に声かけて、夜までに終わらせちまうからそれまで使う替えの武器持っていってくれ」


「あっ、ボク欲しい武器あるのでいいです」


「なんだ?作り置きのやつで欲しいのあったのか」


「何を使うつもりなの?」


「剣とかじゃないわよね、今から作ってもらうんだから」


ふっふっふ、ボクがここにくるまでに考えた浮遊のための戦術が活かせる時きた。


「それはねぇ、鎖鎌!」


「じゃあ、お前さんに合いそうな鎖鎌と買い取り用のお金持ってくるからちょっと待ってろ」


店主が店の奥の部屋に入っていく。少し待つと白色が目立つ鎖鎌を持ってきて机に置いた。


「銀魔鉱っていう金属で作られた鎖鎌だ。硬さは柔らかいんだが、魔力を良く通すからあの短剣みたいな使い方ができると思うぜ、質は落ちるけどな」


魔葉刃と同じ効果のものがあるのか。しかもこの言い方だと魔力を通すやつが他にもありそうだし。


「それでお願いします」


「ありがとさん、それでその武器の料金が1万5000で素材が全部で25万ぐらいだから差し引くと、まぁ色つけて24万でいいか3人で分けられるしどうせ装備強化の値段も残ってるしな」


「ありがとうございます。いい買い物できたね。念願の靴も手に入ったし」


「いやでも、防具は今から作ってもらうからまだ履けないんじゃないかしら」


「あっ…」


「うーん、夜までお預けかな」


「そんなぁー」

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