ワンコインワンゲーム


浮遊を使って上空に加速その勢いを利用して背中に隠していた左腕に巻きつけてある鎖鎌の威力を上げて振るう。


鎖鎌は失月蝶とに戦いで片方ぶっ壊れたけど、今は新武器、風ノ葉もあるから十分役に立つ。


あの動画を見る限り、一さんに遠距離手段がないはずだ。わざわざ両手の斧を投擲して攻撃してたからね。


つまり浮遊で空中に浮きさえすれば一方的にできる!


鎌は下から掬い上げるような軌道を描き一さんの喉元を狙う。派手に飛び上がって意識を逸らし、さらにこの暗い夜なら一瞬でも反応は遅れるはず。最低限人間なら…



地面から迫り上がってくる鎖鎌を一さんは左の斧で弾きそのまま終わらずに絡ませて容易に巻き取る。


「嘘!初見のはずでしょうが」


「離れて戦うなんて寂しいよ、レンちゃん」


そういって一さんは鎖を思いっきり引っ張った。


「まずいっ!」


浮遊発動中は少しの力で大きな加速を生む。それは体重を軽くするのと同義で相手の力に影響を受けやすく動かされやすいということ


「あんたなにバカやってんのよ!」


<歌唱術:震う鼓動フルリズム>


楓ねえが魔法をかけて加速してカバーしようとしてくれる。その魔法はレベルが上がった分、前より速く見えるが残念なことにそれよりもボクが一さんとぶつかるのが先だ。


「タイマンが不安だとかいってられないよね」


浮遊を切って重さをつけ勢いそのまま振るう右手の風ノ葉と足を含めた三連撃、頭に振り下ろし、肩を切り上げ狙い、着地と同時に左の蹴りで足を払う。一手目は首を曲げて回避、二手、弾いて逸らされ、蹴りは跳んで避けられた。


しかし鎖鎌を取られたボクと左手の斧で巻き取った一さん、両者お互いに左手が使えないような状況。いつもよりは勝機があるかもしれないと攻めにかかる。


右手で剣を振って首を斬ろうとするが、一さんは左手を動かし鎖を操作することで剣に交差させ攻撃を止められる。逆に利用された!そう思った瞬間に反射的に足を胴体に向かって突き出して蹴る。斧の平で防御されたがそのまま蹴り飛ばして少し離れる。


ないない、勝機ゼロです。錯覚でした!楓ねえを待ったほうが良さそう。しかしその願いは届かず一さんが追撃を仕掛けてくる。


「だよねー」


首を目掛けた左から右へ来る振り払いに対してしゃがんで避ける。頭の上を斧が通り、そしてそのまま折り返してくる。それを斧の下を通るように転がって回避して、すぐさま立ち上がり走る。


そのままぐるぐる一さんを軸に回り続けて、体に鎖を巻き付かせようとしたが、すぐに察知されて左足の下段蹴りが襲ってきた。


それは少し跳ぶだけで回避することができたがどうしても勢いは遅くなる。その隙を狙って突っ込んで来て鍔迫り合いを仕掛けられて完全に足が止まった。


「女の子を縛りあげようとするなんてやらしいなぁ」


「一さんまでセクハラしてくるようになったらめんどいんだけど、それに変なことはしないよ。ちょっと殺すだけだから」


斧と短剣の鍔迫り合い、どっちが勝つかは目に見えてるしそもそも力押しじゃ敵わない。少しでも力を緩めたら斬られるので力を抜くことができず急激にスタミナの代わりに魔力が減っていく。


まともに付き合ってたら終わりだと左足で蹴り上げようとするが、その前に膝で抑えられて攻撃を止められる。一瞬の間、ギシギシと武器の耐久値が減る音だけが響き、至近距離にある顔と目が互いにつ近く感じて見つめ合う。不思議な雰囲気と間ができてなんだか、嫌な予感がする。


なんか目が爛々と輝いてるんだけど気のせいだよね。


「手とり足とり教えてあげるよ」


太ももを膝で抑えている状態からそのまま流れるような足つきで股に挟んで絡みつこうとしてくる。


「ちょっと!ワンコだからって発情しないでよ、この浮気性が!」


<突風ブラスト>


ほんとナニ考えてんの?風を爆発させて無理矢理外す。よしっ、このまま腕の鎖を解いて伸ばしつつ距離を取った後に、仕切り直そ…ガキャン!鎖が引っ張られて軋んで止まる音が響いた。


「忘れてた、そっちからも引っ張れるよね」


「そんな逃げることもないのに」


風塵の中を切り開いて一さんが突っ込んでくる。それは下半身を液体化した高速の突進。ボクはそのタイミングに合わせて右に払うことでカウンターを狙う。


間合いは完璧にタイミングもドンピシャ、その先手必勝に思える一撃を訳の分からない急停止で攻撃を掠めながら避ける。だが、それはもう動画で見た。


液体化プラス突進をしてきた段階でそう来るのは読めてた。ボクは一さんの斧に巻き取られた鎖を全力で引っ張る。巻き取られたということは逆に鎖を絡めているということ。


その状況で魔力を消費して力を込めて引っ張れば、流石の一さんでも体勢を崩せるはず。


「予習はバッチリみたいね」


その瞬間一さんは左腕を液体化する。すると絡まった鎖はあっさりと腕をすり抜けていき、それを引っ張ったボクに向かって巻き付いた斧も一緒に飛んできた。


「そう、上手くはいかないか」


咄嗟に纏まって飛んで来る鎖鎌と斧を横に避ける。それ自体は余裕だが、その隙を一さんは逃さない。避けた先を追うように突進し続けてその勢いをそのまま切りかかってくる。


足が地面を離れた瞬間を狙われた。次に地に着く頃には首と胴が離れているだろう。しかしまだ詰みじゃない、ボクは浮遊を起動して後ろに飛ぶ。


簡単なことだ、さっき避けた斧と鎖鎌はボクと繋がっている。防がずに躱すとそのまま後ろに飛んでいく。普通だったら鎖が限界まで伸びきって止まるが、浮遊を使って軽くなったら勢いが止まらず逆にボクが引っ張られることになる。


なんとか必殺の一撃を避けれた。とホッとすると


「これで終わりだと思ってる?」


凍りつくような一言を聞いて、ボクはまるで自分が時ごと固まってしまったかのように冷静に分析できた。一さんの下半身が突進の時のように液体化している。しかし前と違いある程度、足の形を残していてさらにまるでバネみたいに縮んでいる。


これからどうなるかは予測できる。そして嫌な予想は現実として放たれる。それは足を極限まで縮めることで力と勢いを生むボクと同じ跳躍だった。その跳躍でボクまでの距離を一瞬で無くし、速さによる威力をそのままのせた膝蹴りを繰り出した。


防げない!直感的に分かる。避ける手は無いし、突進をどうやって弾いたらいい。


「レン!右に防御して」


楓ねえの言葉を聞いてすぐさま右に武器を構える。


<歌唱術:戦慄する五つの戦斧トマフォーク>


<歌唱術:響き弾く者スティック>


構えた武器の所に斧の背が当たって衝撃波が発生して吹き飛ぶ。


「ぐわっ!」


木の枝に何本かぶつかって折りながら森の奥に飛んで消えていく。


「レンに変なことしないでくれる?」


「つい…


森の奥から矢が飛んでくる。それは静かに力強く正確に頭を貫いて来る軌道で、それに気づいて体を後ろに大きく倒し、背を限界以上に曲げて無理矢理に回避する。


「海老反りにも程があるでしょ!」


しかし狙ってくる矢は一本ではなかった、ほんの少しのタイムラグで腰に向かって飛んできた矢が突き刺さった。空中だと動かせない場所が絶対にある、そこを狙われた。問題は飛んでくる矢の二本目が余りにも早かったこと、何かのスキルを使って仕留めれなかった保険を元から用意してたのね。


良い手ね。しかも、次の攻撃も対処しないといけない。


「私のことも忘れてないでしょうね!」


両手を思いっきりバンザイすることで勢いをつけ少し縦に回転して空中で逆立ちのような姿勢になる。そして元から縮めていた両腕を伸ばして地面を掴んだ。


そして斧を振り下ろしてくる攻撃に対して掴んだ地面を支点とするバク転による蹴り、つまりはサマーソルトキックをぶつけた。


相手は両手斧でしかも魔法によるバフまでかかった一撃でこちらは防具があるとはいえただの足による蹴り。


ギリギリ上手く弾いたとはいえこちらの足のダメージは動きに支障はないが少なくないし、相手にはもちろん傷一つ与えられていない。


今の斧の連携技に加えてさっきの弓矢、警戒するべきは誰なのかを実感できた。楓ちゃんと萩くんね。この2人はどんな子なのかな。気になるような人に出会えたのは久しぶりだよ。あっ、でも今日の朝にも1人いたから久々じゃないや。


「嘘みたいな動きね。普通なら今ので仕留められたはずなのに」


「奇遇だね。今、私も同じようなことを思った所だよ」


腰に刺さった矢を抜いて傷痕を摩りながら姿も見えない、萩にいと呼ばれている子のことも想像しながらそう答える。

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