祭り林を抜け出して
全ての準備を終わらせて、作戦も不本意だけど決まった。だからボクたちは随分時間がかかったけどようやく待ち合わせ場所に向かうことにしたんだけど。
「何これ?」
先に歩いていたレンが驚いて立ち止まる。
「どうしたのよ?」
「何かあった?」
急に立ち止まったレンに遅れた2人が追いつく。そしてレンが見ているものが目に入った。それはさまざまなプレイヤーがお祭りのように入り乱れていてワイワイ騒いでいる光景だった。
しかも単に一さんの決闘を見学する野次馬が集まったというわけでもなさそう。プレイヤーの中にはおそらく生産職であろう人たちがどこから持ってきたのか出店を経営して自分の作品を売り捌いているみたいだ。
「どうやら一さんの決闘を聞きつけてたくさんの人が押しかけたみたいだね。そしてそれを利用しようとする人もいるらしい」
「それってワンコさんの決闘イベントとして盛り上げることで神輿を担ぎあげた人がいるってこと?」
「個人じゃないかも、生産職の動きが早すぎるしまとまってる。誰かがやり始めて真似が広まったにしては簡易的とはいえ建物もあるからそれぞれの連携が取れてるんでしょ。ギルドとかの組織もしくはこんだけの規模なら生産職側全員の総意って感じなんじゃない?まぁ、どちらにしろ発起人はいるだろうけど」
「それなら別にほっといていいんじゃないの。私達に関係ないし、それにただ市場を作っただけならゲームを盛り上げるだけなんだしいいことでしょ」
「それはそうなんだけど、このお祭り騒ぎの中で決闘しようとしたら目立つことになるよ」
「うわー、それは嫌ね。絶対本名言わないでよね」
「どうにか人払いとかできないのかな」
「じゃあ、一さんにメール送って暴れてもらうとかどうかな。ボク達は混乱に乗じて目立たなくなるし、うまくいけば他のプレイヤーを一さんにぶつけることも可能。この数で集団戦やったらたとえ一さんでもただじゃ済まないし、ボク達が手を出さなくてもいくらでも隙ができる。まさに一石三鳥!」
「僕達が今まで頑張って来たのを一瞬で無に帰す、凄い外道な作戦だけど本当にやるつもり?」
「そもそもメールひとつで操って動かすみたいなことができる人とは思えないんだけど」
「それもそうかも。えー、いい作戦と思ったのに」
一回メールで決闘の約束して誘導できたからいけると思ったけど、その約束を破ると思えないか。今まで待ってくれた一さんがボクを狙って追いかけるようになるだけ、それじゃ意味がないしそうなった場合は不意打ちが怖いな。
一さんの次の遊びはボクとの勝負、そこはテコでも動かないだろうし、そう仮定すると作戦を本気で成功させるには他のプレイヤーを動かさないといけない。
今やってる祭りを台無しにして大規模な戦場に変えるのは現実的じゃないよな。
やっぱり普通に戦うしかなさそう。
「でも肝心の一さんはどこにいるのかしら」
「そういえば。でも多分1番奥にいるんじゃないかな」
「そこら辺の人に聞いてみようか」
ボク達は出店に近づいて店員さんに話しかけ始めた。
「あのーすみません。ワンコさんってどこにいるんですか」
「もしかして挑戦者の方ですか。今、ワンコさんが連勝していてそっちのお客さんがめっきり減ってしまったのでありがたいです。ワンコさんなら1番奥にいらっしゃいますよ。余りにも暇になのでワンコさんがたまにこっちに遊びに来たりしていないこともありますけど。ついさっきだとストラックアウトとかやってましたね」
「ストラックアウトとかなんか縁日みたいわね」
「そんなもの作ってなんか意味があるのかな」
「主に生産職のレベル上げで作ってますね。生産職は物を作ることでも経験値を得れます。もちろん魔物を倒してもいいんですが、生産スキルを手に入れるにはその方が都合がいいんです。だから手当たり次第作ってる感じですね」
「ふーん、でもわざわざ祭りみたいな装飾が多いのは多分ノリでやってるだけなんじゃないかしら」
「ていうか一さんこのお祭りのどういう立場なんだろ。神様ポジなのかな」
「そうですね、たまに街の麓に降りてくる犬神様みたいものですね。ちょうどワンコさんですし、貢物と言ったらなんですけどあの人には屋台の物を無料であげたりしてますから間違いじゃないかもしれません。でも料理を食べたり遊んでる姿がレアで可愛いって評判なんですよ」
あの人ほんとに何してんの?まぁボクが長いこと待たせたことが原因だからなんとも言えないけど。
「色々教えてくれてありがとうございます。勉強になりました」
「頑張ってくださいね」
場所だけじゃなくて面白いことを教えてくれた店員さんに感謝を告げて奥に向かって歩き続ける。
行列とまではいかない人混みを抜けながら歩いて奥に進む。屋台は道を挟み込むように左右にあり森の木の前にズラッと並んでいる。
魔物が出たらどうするんだろうと思うがここはどうやら何も出ない安全地帯らしい。
そして屋台は奥の物ほど少しずつ簡易的クオリティが上がっていき
日本の祭りを意識している趣き深いものに変わっていっている。こういうのは完全に建築家の趣味だろうなぁ。
ある程度進んでいくと突然、屋台が途切れて普通の道になった。そこからさらに数分かけて進むとさっきの人だかりが嘘のように静かな決戦場があった。
「これは鳥居だよね」
「これだとほんとにあの人がなんかの神様みたいね」
「結構な大きさだし丁寧に作られてる。変なことにこだわる人がいるもんなんだね」
そしてボク達は持ち物と装備がちゃんとあるか確認して、一応作戦も振り返った後楓ねえと2人で鳥居をくぐった。
鳥居を通り過ぎて薄暗い道を歩く、辺りを見渡しても周りには誰もおらず月明かりだけがボクたちを照らしていた。
「一さんはどこに…
「人を長い時間も待たせるのは感心しませんね。レンさん」
森の影から現れて急に話しかけて来た。不意打ちする気がないのは普通に助かった。
「悪いとは思ってるんだよ。でもこっちにも色々準備があって、しかもこれ以上一さんのレベルを上げさせるわけにもいかないし」
「やっぱりあの誘い方はそういう狙いが
「ていうか猫被るのやめてほしいんだけど。ボク相手になんの意味もないでしょ」
ボクがそうお願いすると少しの間一さんが口を閉じる。そして纏う雰囲気が変わっていく。
「ごめんねレンちゃん。さっきまで色んな人と遊んでたから、でも許してほしいな。知ってるでしょ私が人見知りなの」
「一さんが人見知りならコミュ障なんて存在しないことになるし、そもそもそういう枠組みにおさまってないよ」
「レンちゃんの隣の人はもしかして楓ちゃんかな」
「ちょっとレン。勝手に私の個人情報を漏らさないでもらえるかしら」
「あのっ、えっとー。ごめんなさい」
うん、これは流石に言い訳のしようがないくらいボクが悪いな。でも流れっていうか多分どっかのタイミングでポロっと言っちゃったんだろうね。
「今日はボク1人で戦うんじゃないけどそれでもいいかな」
「レンちゃんらしくないね。2人だけじゃないでしょ」
もうバレた。流石に早いな
「嘘をつかなきゃバレないっていうものじゃないのは知ってるはずでしょ。それにレンちゃんから前に自慢のにいちゃんとねえちゃんがいるって聞いてたし、一緒に来てるんだね萩くんって男の子も」
「へー自慢のね!そういう風に思ってくれてたなんてお姉ちゃん嬉し…
「うっさいよ!調子に乗らないで集中して欲しいんだけどなー!」
もう余計なこと言い出す前に一さんの口を塞がないと!このままだと後で弄り殺される。
一さんに思いもよらない形で先手を強要されて攻撃を仕掛ける。今日、最後の戦いがレンの浮遊で口火を切った。
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