覚悟を袋に詰めて
武器屋の店主に教会の場所を教えて貰ったあと門の反対側にある街の最奥まで来ていた。
「教会が所持品とかお金を預かってくれるってどういうことなのかしら」
「銀行の代わりみたいなものじゃないのかな。信用がないとできないし」
「でも見たところ儲かってそうだよ。宗教にお金ってなんか胡散臭そうな組み合わせなんだけど」
教会の目の前について思ったのはびっくりするぐらい大きい建物だということ。その外見は装飾が派手というわけでもなく清潔感と神聖さを感じさせるものだ。
しかし、ガラスを主とする建築様式とところどころで輝くステンドグラスがこの教会の資金力を象徴しているようだった。
「本当ね。扉も大きいし、どっちかというとお金持ってる商会の方が近いかも」
楓ねえが5メートルはある扉を押して開く。忘れがちだけどボク達の中で1番力強いんだよなぁ。あっ現実でもそうだわ。
「やっぱり広いんだね。外から見て大きいのはわかってたけど」
「ルクスの大袋へようこそいらっしゃいました」
「うわっびっくりした」
「気づかなかったわ」
「大袋か…」
そこに現れて挨拶をしたのは黒い修道服を身に纏った。1人の少女だった。その姿は小柄だけどなぜか迫力を感じ、不思議な雰囲気を醸し出しておりそこだけまるで空気が違うようだった。
「でもルクスって何?」
「ルクスは確か神の名前だね。3人の神様がいてそれをまとめてそう呼んでるらしいよ。それぞれに役割があるんだけど固有の名前はないらしいね」
「そうですね。3つの神はそれぞれスキルを司る力の神、魔法を司る知の神、魔物を司る
「他にも種属によって恩恵を与える神様が違ったりして、人間属は知の神、亜人属は力の神、異種属は戦の神ていう感じに分かれてるんだよ」
「よくご存知ですね。その通りです」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「レンと合流する前にご飯食べてたからその時ホームページ見て調べてたんだよね」
「そういえばサンドイッチ片手になんか見てたわね」
「うん読むのは得意だから、でも最初に流れる映像と同じらしいけどね」
「あー、ボクがスキップした奴ね」
「私もそうしたわ」
「あはは、まあ僕達急いでたから仕方ないよ」
「ところで今日は何のご用があって来たのですか」
「そうだった。所持品を預かってもらえる本当ですか」
「はい、できますよ。名前の登録さえ済ませればいつでも預かれますし、仲間との共有もできますから固定のパーティを組むなら便利ですよ」
「ちょうどいいわね。私達のボックスに入ってるの全部預けていいんじゃないかしら。後でレンが引き出せる方がいいしね」
「そうだね。素材持ったままだとレンに返せなくなるもんね」
「じゃあ、そうしてもらえるとありがたいかな」
「承りました。登録の手続きをお願いします」
ボク達3人は名前登録と共有の倉庫を作って貰った。そこに今使いそうにない素材と所持金を全て突っ込んでついに一さんと待ち合わせをしている場所に向かった。
「それで、結局その一さんを倒す作戦ってあるの?」
「そういっても、ボクは一さんに勝率高くないからほとんど2人だよりなんだけど」
「でも私達ゲームそこまでやらないから通じるか分かんないわよ」
「そこは大丈夫だよ。2人共やってないとは思えないほどうまいから、ほんとムカつくぐらいね」
「まだ引きずってたのね。そんなことないと思うんだけど」
「うるさいよ!上手い人はいつもそう言うんだよ。なんでボクの周りは天才しかいないんだよ。へこむなぁー」
一さんやヨウさんも化け物だし、しかも思わぬ伏兵がいるってことを今日一緒にやって分かったしね
「ていうかなんであんたはさっきから黙ってるわけ?」
「ちょっと一さんの攻略法を考えてて」
あの人は手札ひとつ見せたら100見切るっていうAIなんか粗大ゴミになるぐらい顔負けの予測をかましてくるからじわじわ相手の戦い方を見て攻略していくカウンター的なのは相手の土俵すぎて絶対無理だし、だからいつもボクがやってるような超短期決戦しか勝ち目がないわけなんだけど。
それなのに相手は咄嗟の判断を読み切って後出ししてくるイカサマジャンケンみたいな理不尽を強要してくるから、ほんともうふざけんな!って感じなんだよなぁ。
「なんかいい案あったの?」
なんか改めて考えるだけで疲れて来たけど萩にいなら画期的な対策を作ってくれるかもという希望を持って聞いてみる。
「まずは前提条件が早く決着をつけること。そうじゃないと相手にパターンを読まれて初対面っていう利点がなくなる。そして勝つ可能性があるとしたら初見殺しだ」
初見殺し?あの人相手にそんなことできるのかな。ていうかそんなことできるスキルも準備もあるとは思えないんだけど
「あの人相手にできるのかな?ていうか初見殺しって言葉知ってたんだね」
「うん、ラノベで読んだ。それでまずは話しを進めるために先に聞きたいんだけど、あの一さんの強みってなんだと思う?」
「うーん、いっぱいあるけどやっぱり読みの強さじゃないかな」
「私はあの奇天烈な動きを戦術として組み込めるのがすごいと思うわ」
「そうだね。僕はそれらを総合すると常に最善を出し続けることがあの人の強さの根源だと思ったんだ」
「それだけでそんな強いの?」
「簡単に聞こえるけど凄いことだよ。実際それができるチェスAIなんかだと人間は勝てなくなっちゃったから。つまり同じ条件や手の内が分かった状態で勝つのは難しいだろうね」
「だからその初見殺しっていう奴なら勝てるわけ?どんなことするのよ」
「簡単な話だよ。一さんがどれだけ他人の思考を読めたとしてもスキルの効果まで分かるわけがない」
「でもボク達のスキルの中に敵を一撃で倒せるようなものなんて」
「そんなもの必要ないんだ、今あるスキルでも条件が整えば勝てる可能性はある。ていうかそのための作戦を立てたんだ」
「どんなの!どんなの!」
一さんを倒せるような凄い作戦ってなんなんだろう。
「作戦はたったひとつ、どんな場合や状況でもレンがトドメを刺すことに集中すること」
「「はぁー!」」
「いやどういうこと!もっと具体的な作戦じゃないの?ていうかそれだけだったら戦略の幅を狭めるだけじゃん。どうせなら知り尽くされてるボクじゃなくて2人をメインに戦った方がいいと思うんだけど」
「緻密な計画を立ててもレンの行動から読まれる可能性がある。そして僕達はあくまでサポートに徹する。倒せる時は本気で倒しにいくけど、攻撃の基盤はレンだこれは勝つためには絶対譲れない」
「そういうことなら私は別にいいわよ」
「楓ねえまで何言ってんの!ボクに任せるより絶対にもっといい方法があるって!」
「大丈夫よ。レン自分を信じなさい」
えっ何。楓ねえが説得すんの。ていうか萩にいの作戦じゃなくてボクを信じろってどういう意味なの?これまでの一さんとに散々負け越して来たボクの勝率の何を信じればいいんだよ
「ゔー、もう分かったよ。作戦には従うよ!やればいいんでしょ!でも、もう知らない!」
レンが少し早歩きで僕達から離れていく、レンはいつも表情豊かで見ていて飽きない。漫画とかならプンプンとか表現されてそうな分かりやすい怒り方だ。いつもだけどレンを見ていると思わず笑みが溢れそうだ。
「あーあ、レン拗ねちゃったわよ」
「ちょっと言いすぎたかもね。もっといい説得の仕方あったと思うんだけど」
「仕方ないんじゃない。レンの自分嫌いも頑固だし」
「それは前からどうにかしないと思ってるんだけど潜在的なモノはどうしてもね。それと楓にもひとつだけ伝えたい作戦があるんだ」
「だから紅葉だって、まあいいわ。なに?」
「それはねえ……
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