飛んで火にいる夏の虫
千切百足という名前だった百足をアイテムボックスに放り込んでから30分が経ち、ボクたち3人は段々と危機的状況に突入しようとしていた。
異変に気づいたのは百足を倒したすぐ後、素材をみんなで集めていると蝶がヒラヒラとこっちに近づいてきたのだ。今まで蝶はこちらに気づかずどこかに止まっているか気づいて逃げ出すかのどちらかだったのに。
すぐに萩にいが矢を放って撃ち落とすがこの蝶の行動が変わったのから全てが始まった。
3人で探しても見つけるのに数分かかる蝶が1分ごとに自分から向かってくるようになり、さらにまるで蝶に惹きつけられたかのように魔物がひっきりなしに襲ってくるようになったのだ。
「レン!バッタが来るよ頭下げて!」
「わかった!」
萩にいの言葉に従って屈んで頭を下げると頭の上スレスレをバッタの羽が掠めて通り過ぎる。その羽は刃物のように鋭く触れた髪の毛数本を切っていった。
「楓!頭の上に蝶が来てる。目閉じて!」
楓ねえは言いたいことがありそうだったけど、素直に目を閉じる。萩にいの矢が当たるとと蝶は弾けて鱗粉を撒き散らす。鱗粉は下に落ちて辺りに漂う。あの場所だと楓ねえが目を開けられない。
それを見計らったのように蜘蛛が3匹、楓ねえの周りを囲んで同時に飛び掛かる。
「楓ねえ!回転斬り…今!」
蜘蛛が楓ねえの間合いに入るタイミングを狙って指示を出す。
「だからいま私は
そう怒りながら斧を回して飛び掛かる蜘蛛を流れるように横に斬った。振り回す風圧で鱗粉は散り、時間が経って効果もなくなる。
でも鱗粉を回避できたからって気は抜けない。このバッタは1匹じゃなくて群れで行動するから次から次へと飛んでくる。
「よっ、はっ、拳銃より遅くて前動作も長いんじゃ余裕、余裕」
飛び掛かってくるバッタを避けながら流れ作業でズバズバッとリズムよく斬りつけていく。顔にきた奴をしゃがんで下から胴を斬り、肩に当たる奴をその前に斬り落とす。腹に向かって正面、縦に振り上げ真っ二つ。
足元に2匹飛んでくる、斬るのは間に合わないと判断して少し跳んで回避、動きづらい空中を狙ったかのような2匹に上から鎌を突き立て差し斬る。
その間に蜘蛛が着地地点に糸を吐き出す。虫とは思えないような連携。
「ちょっと待っ、多すぎ!」
触れたことはないけどめんどくさいことになるのは確定。浮遊を起動して時間を稼ぎそして縦に振り回せるほど地面と離れてないので腰から大きく横に弧を描くサイドスローで鎖を振るい蜘蛛の横腹に鎌を突き刺した。
そのまま自分を引っ張り蜘蛛の背中に着地する。そしてそれと同時に切り刻もうとしたが、バッタがボクを追いかけてきたので跳んで蜘蛛から離れる。
するとボクを狙って攻撃を仕掛けたバッタ達はそれぞれぶつかり蜘蛛を切り裂いた。
おっと、これは使えるかも
「にいちゃんは蝶狩りと敵の位置をボク達に教えることに集中して」
「楓ねえはボクと協力してあいつらを同士討ちさせるよ」
「だから…もういいわ。そう呼ぶのが好きなら、人前じゃないなら構わないし」
なんか楓ねえが最後ぼそっと言ってたけど手伝ってくれるらしいから別にいいか。
「右と左からバッタ10数匹が来るよ!前から蜘蛛もきてるからあんまり近づきすぎないでね」
楓ねえと目を合わせてタイミングを完璧に計った。2人同時に走り出してバッタが飛んで来るギリギリ前まで近づく。そして背を向けて戻りバッタを引き付ける。
バッタは飛びつきそれぞれボクと楓ねえを攻撃しようとしてくる。そしてボクは楓ねえとぶつかる直前に方向転換して蜘蛛の方に走りだす。
バッタは空中で方向を変えれるわけもなく互いに激突する。ほとんど全てのバッタがぶつかって、残りは運が悪く刃に当たり斬られてバラバラになった。
「うまくいったね!」
「レンが考えたんなら、当たり前でしょ」
あはは、そんなことないと思うんだけどなぁ
このようにバッタ同士をぶつけたり、もしくはバッタを他の奴にぶつけて同士討ちさせること1時間。萩にいの的確な指示と蝶の大半を狩ってくれたことでなんとか耐えれた。
そして萩にいが最後にポツンと残った蝶を射抜くと、
レベルが12に上がるメッセージと共にこの戦いの終わりを告げたかのようにも思えた。
森の四方から何かが集まってくる。いやっ、それだけじゃないボク達がいる地面からも今まで散々みてきた蝶の鱗粉のようなものが空に舞い上がっていく。
そしてその舞が上がった鱗粉に群がるように森中から
それは近くで見るとするなら何百何千の蝶があの中で蠢いて今も羽ばたいているのだろう、個人的にあまりみたくない。その蠢きは青い月がまるで脈動するかのように伸びて、縮みやがて絞るように形が変わり凝縮されていく。
そして姿がまるで蛹のようになった所で、突然四つの翅が生えてきて目や触覚、模様に至るまでが形成される。綺麗でしかし、どこか見る人を不安にさせる青白い蝶はどこから発しているのか、そもそも声なのかすら分からない振動を辺り響かせる。
その叫びの後ある文字が表示された。
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「ネームドモンスター?」
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