20尺の虫にも5分の魂
自分の勢いで吹っ飛んで離れた場所に落ちたボクは2人の所へ歩いて帰った。
「浮遊をうまく使って戦えたじゃないの」
少し時間をかけて戻ってきた時、楓ねえがそう言った。
「あんなに吹き飛ぶことになったのに?」
「そっちじゃないわよ。バカね」
「それに鎖鎌も使えてたみたいだし、ゲームやってたらできるようになるの?」
「ゲームでよく出るような武器は大体使えるよ。といっても色々試してみてそれっぽくなっただけなんだけど。でも実際に武器を扱える人に習ったこともあるんだ」
「そうなんだ!ゲームでもそんな出会いがあるんだ。そうなると現実で武術やってる人がゲームでも試してみるていうことが多いのかな。やっぱりこっちで色んなことが学べるっていいよね、僕もMARSの方で勉強するの好きだし剣道や弓道もやってみたし案外ゲームでもその訓練になるのかな。また新しい習い事を…
萩にいの変なスイッチが入った。こうなると1人で永遠と考えて独り言を続けちゃうな。放って置いてもいつか止まるけど今は時間がないんだよね。どうしよう、あっ楓ねえが止めてくれるみたいだ。
「あんたはいくつ習い事を掛け持ちしたら気が済むの!」
楓ねえのチョップが萩にいの思考を強制的に止めるっていうか意識まで止めちゃいそうだけど大丈夫かな。
「痛いっ!」
「痛いじゃないわよ。ずっと1人で考え事してないでやることあるでしょ。今は時間が無いんだから」
「うー、そうだね。とりあえずまずはレンがいなかった間に拾っておいた素材を渡しておくね」
「うん?蟷螂は分かるけどこの蝶なに」
「しゅ、じゃなくて牡丹がさっき見つけて撃ち抜いたの」
今、萩って言いかけたな。やっぱ楓ねえも違和感があるんだね。
「そうだよ。でも近づく前に撃ったから特殊なことは起きなかったし、見た目上はただの蝶だったよ」
「萩にい…見た目ただの蝶なのに矢を放ったんだ」
それにしてもどんな感じの蝶だったんだろう?青くて綺麗な蝶か、でも鱗粉が目に当たると状態異常になるでしょ絶対。
今は鎖鎌持ってるからどうにかなるかもしれないけど本来近接職は相性悪いタイプだな。
蝶を見つけたら気をつけないと、そうあそこの木の枝に止まってるみたいな青く光り輝いてる奴…
すぐに鎖鎌を取り出して下から掬い上げるように振り抜く。蝶がいる場所は周りに木がたくさんあるから振り回すことはできない、木々の間を通して多少の枝を切りながら正確に蝶を捉えた。
蝶は手ごたえも無くあっさりと真っ二つになった。
「あれっ思ったより弱いな」
斬られた蝶は2つの羽に別れてヒラヒラ落ちる。その時、一緒に青白い粉がその場にばら撒かれる。
「おかしいな、僕も警戒してたんだけど見逃したかな」
その瞬間3人のレベルが8から9に上がる。
「レベルがまた上がったわね。この調子ならすぐに10までいけそうね」
「どうなんだろう、このゲームキリのいい数字の時、必要な経験値が跳ね上がるから難しくない?」
「そうだね。レベル4から5に上がるだけで1時間もかかったし、その後30分で8まであげれたのに」
そう最初のレベリングで時間がかかったのはほとんどそこだった。
「でも今、レベルが上がったのは偶然なのかな。8レベルになってから何体倒したのか覚えてないけど、もしかしたらこの蝶はもらえる経験値が多いのかも」
「それは幸せを運ぶ蝶だからってこと?」
「聞いたことあるよ。ゲームにはレアキャラがいるんでしょ。出会うのが難しくて見つけてもすぐ逃げちゃうんだよね。だから倒すだけで凄い恩恵があるっていう奴」
「でもあっさり2体見つけれたから違うかもしれないけど、最悪、経験値が普通ぐらいあれば十分でしょ。さっきみたいに一発で倒せるんだし」
「そうね。歩きながら探して、見つけたら牡丹が撃ち抜いてよ。私たちは迂闊に近づけないもの」
作戦と言えるものでもないけど行動指針を決めて数分経った。全員で蝶を探して見つけたら萩にいがすかさず矢を構え放つ。するとなんの問題もなく蝶は散り、そして次の蝶を探しに行く。そんな工程を10回ほど終えると楓ねえが不満そうに口を開いた。
「流石に私たちやること無さすぎて暇なんだけど、30分間これっていつまで続ける気なの?」
「ねえちゃん、どうやら暇にはならなそうだよ。」
その時、草むらからガサっという音とカサカサという地面が擦れる音、もしくは虫が這うような音が聞こえた。
「先に矢で撃とうか?」
「別にいいよ蝶にとっといて。それにボクたちにも何かやらせて欲しいしさ」
草むらか出てきたのさっきの蟷螂よりも大きな百足。そのまま近くにいる楓ねえに向かって飛び掛かる。
空中に飛び出して頭から突っ込むことで勢いと威力を上げた攻撃。そんな思考を虫がしているのかは分からないが結果はそうなった。
<歌唱術:
楓ねえは百足とぶつかる前に一歩大きく下がり武器を呼び出した。そして百足が地面に激突した瞬間、楓ねえは斧を振り抜いて百足の頭を右に斬り飛ばす。
地面との支えを失った百足だが、飛びついた勢いが消えるわけではない。胴体の切断面がそのまま地面に叩きつけられるその瞬間に、楓ねえの斧は折り返して今度は左に斬り飛ばす。次は右、さらには左とまるでダルマ落としのように地面に突っ込んでくる百足を五つに切り分け左右に飛ばした。
「えっぐっいな、楓ねえ」
あっ、思わず本名言っちゃったよ。
だが、虫を舐めてはいけない。百足は五つに斬られてもまだ蠢き、動いている。斬っても死なないしぶとい怪物。分かれてバラバラになった百足の体は意思を持って動き、楓ねえを囲みながら突進して飛び掛かる。
「キモっ!」
楓ねえは大きく飛んで後ろに下がる。
ボクは楓ねえに突っ込んできて一ヶ所に集まった百足の体たちに、鎖鎌を巻きつかせて縛った。
<
そして楓ねえと反対に加速して百足を追い抜き引っ張って止める。
魔力の消費と割に合わない時間だけど百足はほんの少し止まった。
「ありがとレン!まとめて仕留めるわ」
<歌唱術:
真っ直ぐで愚直な大きい斧。その魔法を発動する時間と振りかぶって渾身の力を出せる隙をボクはなんとか作れた。でもこのまま行くと鎖鎌までおしゃかになっちゃう。
急いで鎖鎌を操り攻撃する直前、鎖鎌を回収して百足の体達も解放された。だが斧は非情にも振るわれて百足を纏めて消し飛ばし爆ぜさせる。
その後、遅れたようにドロップアイテムが空中からポトっと落ちた
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