ネトゲに求める物


誰かのせいで大惨事になったライブを閉じてみんなに話しかける。


「どう?みんな一さんのヤバさを分かってくれたかな」


「それよりも最後にフレンドが呼び出したのはレンの仕業だよね」


「そうよ、私はもっと大事なことに気づいたわレン」


無視!無視なの!


大丈夫かな、ホントに伝わってるこれ。


「まず、萩にいの言う通り一さんを呼び出したのはボクだけどライブを面白くする以外にも理由があるから後で説明するね。それで楓ねえは何に気づいたの?」


「それよ!動画見て思ったんだけど私たちって自己紹介をしてないんじゃない」


うん?


「そんなこと今更しなくても…


「そうじゃなくてこういう場所ではゲーム内の名前で互いを呼び合うのが普通なんじゃないかって話し」


「「あっ」」


そういえばずっと楓ねえとか萩にいとか普段通り読んでたけどあんまり良くないよね。まぁ本名のレンでやってるボクが言っても説得力ないんだけど。


「そうだった。いつもと変わらない感じで呼んじゃってた。2人はどんな名前にしたの?」


「僕は牡丹ぼたんにしたんだ」


牡丹?なんか女の子みたいな名前だ。ていうか最近も聞いたことがあるような。


「なんでまたその名前にしたの?あっ、ていうかその名前さっき配信で見たこんだけどもしかして…」


「うーん、なんかつい空気に耐えられなくて。それで名前は花札からつけたんだよね」


「花札とはまたあんたらしい所から持ってきたわね」


「でもなんで牡丹になったの?」


「僕の名前って植物のはぎでしょ、花札で萩は猪と一緒になって描かれてるんだよ。そして猪は牡丹っていう別名があるの。ほら牡丹肉とか言うでしょ」


ほえー、萩にいと話してると賢くなってく気がするなぁ。


「すごい頭良さそうな名前だ!」


「それ褒めてる?」


「褒めてるよ。それで楓ねえはどんな名前?」


「うっ」


あれっなんか楓ねえがモジモジしてるっていうか気まずぞう。


「もっ紅葉もみじ


「うん!分かりやすくていいなま…


ブンッ、ボクの横顔を楓ねえの腕が通る。


「ちょっ、殴んないでよ。褒めてるじゃんか」


「うっさい!パッと思いついたのがそれだったの。ていうか洒落た名前じゃなくてもいいでしょ」


「ふふふっ、やっぱり2人って見てて面白い」


「ただ見てるだけじゃなくて助けてよー、萩にい!」


ボクは萩にいの回りをぐるぐる走り続けて楓ねえが追いかける。それをただ萩にいは見守りながら笑っていた。



「はあっ、はあっ。でレンはどんな名前にしたの?」


「そんな息荒くするぐらいならスタミナ切れるまで追いかけまわさないでよ」


「でも僕も気になるな。どういう感じでつけたのか」


どういうも何も本名なんだよなぁ


「ボク、ゲームでもレンでやってるんだよね…」


「はあー?大丈夫なの!オンラインゲームを本名で遊ぶのは良くないって私でも分かるわよ!」


「レンがいいならそれでもいいと思うけど、理由を聞いてみてもいいかな」


そういえばなんでだろう。初めてゲームをやった小学生の時に何も知らないままレンにしてからずっと続けてる。


きっかけはそうだった、でも変えるタイミングはたくさんあったはずだけど、変えなかった。親にもらった名前だから?ゲームをリアルにしたかったから?それとも自分の名を残したかったのかな?


「あっ、うっ、えーとっ…」


違う、違うな。もっと大事なきっかけがあったはず、記憶を遡り思い出そうとする。


(レン。レンくん。レンさん。レンちゃん)


ゲームをやった時初めてあった人も、仲良くなった人も、敵として争う人も、レンって呼んでくれる。当たり前なんだけどね。ボクがそう設定したんだから。


ただ、それでも嬉しかったんだ。自分の中の何かが埋まっていくような感じがして



「…好きなんだ。レンって呼ばれるの。本当にただそれだけ」


一生懸命考えて出したレンの答えに秘められた想いを楓と萩はただ静かに聴いていた。そしてさっきまで追いかけ回していたのが嘘のように見えるほどの優しい微笑みで語りかける。


「私も好きよ。レンの名前も。そう呼ぶのも」


「そうだね。レンはレンだからね」


「でも、僕達はどうするの?さすがに本名ってわけにもいかないよね」


「あー、紅葉ねえと牡丹にい?それとも紅葉、牡丹?うーん…にいちゃんとねえちゃんでいい?」


なんか楓ねえと萩にい以外だとしっくりこないなぁ。これだと咄嗟に呼ばないように気を付けないと


「構わないわ」


「うん。レンが好きにしていいよ」


「ありがとう…って違うよ!何の為にあの動画見たと思ってるの、一さんの対策しないと」


危ない、危ない。目的を忘れるところだった


「あれ対策できるの?プロの人も強かったのによくわからないまま倒されてたのよ」


「うっ、それはそうなんだけど。でも」


「最初の四手目と最後の二手目。結果論だけど多分あれが敗因」


萩にいがそう分析する。それはあまりゲームをしないとは思えないほどに鋭い読みだった。


「そうかしら?最初の急停止とかの方が凄かったように見えたんだけど」


「敗因は言い過ぎだったかも、勝機を逃したぐらいかな。でもあの2つは完全に読みを通されてたしそれがなかったら神ちゃんが勝ってたから間違いじゃないと思うけど」


あれっ、いつの間にか神ちゃんって呼んでるしちょっとファンになってない?



「でもその認識で合ってると思うよ。他にも凄技はいっぱいあったけど、条件が整えばボクでもできる可能性がある奴かな。あの2つ、特に逆立ちの状態で攻撃を防ぐのは一さんしか無理かな」


「ていうかなんであんなことできるわけ?地面に伏せてからすぐに逆立ちに入ろうとしてたし、その間神ちゃんの姿は見えないはずなのに」


楓ねえもそう呼ぶのね、


「それは一さん自体に特殊能力があるっていうか、おかしいっていうか。なんか人の考えてることが分かるとか、どう動くか分かるとか」


「何それ超能力じゃないの」


「うーん、もうちょっと詳しい情報とかないかな」


詳しいって言われてもそういうもんだと思って諦めてたし、でもなんか気になって聴いたことあるような


「確か、本人が言ってたことなんだけど。その人の顔、目、首つきや肉づき、骨にいたるまでのバランスと姿勢、重心、腰、その偏りと歪みがその人の性格や価値観、過去を教えてくれる。そして人の動き、表情、声、目線、体の揺れ、匂い、全てが相手の行動、求める物、今を教えてくれる」


「意味がよく分からないわね」


「体癖論かコールドリーディング。いやっその両方かな」


萩にいが頭を捻りながらそう呟いた。


「何か心当たりがあるの?」


「コールドリーディングは知ってるわ。なんか詐欺師とかが人を騙す時に使う話術でしょ」


「なんか偏見混じってる気がするけど、それも部分的には正解なのかな。厳密には一つの技術を指す物じゃないんだけど、共通するのは限られた情報から多くの情報を引き出すという点」


「今回のは観察眼の方が近いかもね。捜査とかで使われたりするやつとか人の感情を予想するとか」


「本当にそんなことできるの?」


「程度の差はあるけど簡単なものならみんなできるよ。例えばあの人欠伸して眠そうだな。とかあの人今日不機嫌そうってみんな気づくでしょ。突き詰めていったら空気を読むことの延長線だから」


へー、そんなもんなのかなぁ。ある程度分かりやすくしてくれてるんだろうけど


「じゃあ体癖論はなんなのよ」


そっちはボクもあんまり聞いたことないな。


「うーん説明が難しいな。人を特徴ごとにタイプ分けするものなんだけど、分かりやすい例えは…


萩にいすごい悩んでるな。どんだけ難しい理論なんだろ


「あっ、そうだ!例えばアニメのキャラとかで金髪のツインテールでつり目の女の子とかいたらどんな性格だと思う?」


えっ、金髪ツインテで吊り目?なんか楓ねえみたいだな。ツインテじゃないけど


「うん?レンが私の方見てた気がするんだけど気のせいかしら」


その呟きは人知れず虚空に消えていった。


「気が強かったり、ツンデレとか」


「そう、体癖論はこんな感じかな」


「そんな雑なの!」


「いやっ、全然違うよ」


「キャラクターだと結構予想できるでしょ、体が大きくて丸っぽくてタレ目だったら温和な性格っぽいな。とか眼鏡は頭いいキャラだなとかね」


キャラクターだったら特徴的だし分かりやすいから読めるけど


「現実だとそう上手くいかないんじゃないの?」


「まあね。でもそういうある種の偏見で人を分けるものだから。この際合ってるとかどうかはそれほど問題じゃなくて。重要なのはこういう特徴あるやつはこういう人って具体的に結論を出すこと、そしたらそれを元に予想を立てられるから」


「その合否をデータとか長年の経験で高めていくと理論になっていくわけだけど一さんのはおそらく独自のものだから参考にならないかもね」


なんか難しい話しだったから頭パンクしそう。


「なんかレンから知恵熱がでそうね。でもその2つが戦闘にどう役立つのよ」


「使い方次第だと思うよ。まず体癖論でどういう人か予想する。そしてコールドリーディングで何を考えているのか見抜く。この2つからこういう人がこう考えてる時こう動くっていうのを予測する」


「これを高速でやってるんじゃないかな。それに相手のことをよく知れば知るほど精度も上がるしね」


なんか説明聞いてるだけでもこんがらがってくるのに一さんこれ戦闘中にやってるのかな。


「でも知れば知るほど精度が上がるってのはホントだよ。戦うたびに読みが良くなるし、プロの人も事前に動画とか見られてたっぽいからあんなに読まれたんだろうね」


「でも一つ思ったんだけど、人体のそんな細かい情報ゲームにはないわよね。それでも分かるもんなのかしら」


「あっ」


萩にいがしまったという顔をするがボクは本人からその答えを聞いたことがある。


「逆らしいよ。こっちだと分かりづらいからゲームで遊ぶんだってでも意外となんとかなっちゃうらしい」


「そうなの?現実の方が精度が高いからゲームを遊ぶのか。うーん、複雑な事情がありそうだね」


「どちらにしてもまずはレベル上げでしょ。色々情報集めて対等な条件じゃ厳しいって分かったんだからレベル差ついてたら話にならないわよ」


「大丈夫だよ。さっきの招待所に北の道で決闘して待てって書いたから。決闘は所持品は賭けられるけど経験値はもらえないからもうレベルは上がらないよ」


「うわっ策士、性格悪っ」


「ありがとー。でも時間がないんだから消耗避けながら魔物狩り続けないと」


「あっでも私さっきので魔法使ったからMP魔力半分しかないわよ」


「「使いすぎだよ!」」

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