第11話 蜂と三男(3)

「何だよ、どういうことだよ、蜘蛛は……

ツリースパイダーはお前が殺したんだろ?

あいつの精神が俺と一緒ってどういうことだ?」


「お前はあいつがイーダに愛されていたと

思うか?」


「そんなわけないだろ!お父様が愛していた

のは俺達だけだ!お父様はそう言っていた。

そう言わないと言うことを聞かないから

言ってやってるだけだって、そんな事も

分からずあの馬鹿が本気にしていただけで……」


「私から見ればどちらも同じだ。同じことを

されていた。そしてどちらも同じことを

言っている。滑稽なほどに。」


「俺はあんな奴と同じじゃないぞっ!

あいつは本当は死神のレベルになかったのに

お情けで名前を付けてやったって、

何もかもお前に、キラービーにまるで及ばない

のに仕方のない奴だっていつも言っていた!

そんな奴と一緒なわけ……………」


そう言っていてハッとする。

フォロロは何かに気付いたが気付きたくなかった。


フォロロは頭を抱え「違う!そんなわけない!」

と首を振る。

ラビを見つめると、ラビは変わらず悲しい目を

していた。


「まさかあいつも同じことを言っていたのか…?」


ラビは目を伏せ「そうだ。」と呟いた。

そして続けて問う、


「イーダの言うことが正しい場合と正しくない

場合がある。イーダの言うことが正しい場合、

それは誰にとって都合がよい状況となる?

イーダの言うことが正しくない場合、

それは誰にとって都合が悪い状況となるか

それを考えられるようにならない限り

お前の心はいつまでも捕われたままだろう。

だが中にはいつまでも捕われたままでいたい

者もいる。真実が心に優しいとは限らない。

私から見たら偽りでも、お前にとってそれが

真実の愛だと言うのなら、それの為に生き、

それの為に死ぬのもまた本望なのだろう。」


そう告げたラビの目は冷たかった。


膝を着いたままのフォロロは身体から力が

抜けていくのを感じた。

自分の心の拠り所が一気に崩れ去るようだった。


「俺はお父様から愛されていたから一生懸命

頑張ってこられたんだ………

俺はお父様を本当に尊敬していた。

一番に愛されていたかった。喜んでほしかった。」


「そう思いたいのならそれでいいだろう。」


「でも兄さんは俺は一人じゃ何一つ満足に

できないって決め付けて、エタフェ兄さんの

ことを弱虫で臆病だから使えないって……

仕事がちゃんとできても全部兄さんのおかげ

なんだ。俺は兄さんに言われたことがちゃんと

できても、それは兄さんのおかげなんだ……

お父様もそう言っていた。兄さんのおかげだって。」


そしてフォロロは縋るような目で訴えてくる。


「……でも、でも俺は何時になったらちゃんと

一人でできるようになる?

ちゃんと俺ができてるって褒めて貰わないと

俺、何時までもちゃんとできるようにならない

んじゃないかって……恐かった。

本当にお父様は俺のこと愛しているのかなって

それは絶対に思ってはいけないことなんだけど、

でもさ、でも「愛している」って言葉が

俺に言う事を聞かせるための言葉だったら、

嘘だったら、騙してたんなら、あんまりじゃ

ないか!そんなこと、あってはならないよ!

そんな、人を騙すために「愛している」なんて

言えるのか!?お父様がそんな人だなんて……

そんな、そんな……だって、俺は、だって……

ずっと信じて……………………

なあ、キラービー、言えると思うか?」


「………………言えるだろう、

私だって言おうと思えば言える。

「愛している」なんて言葉。

その言葉自体に捕らわれるなんて、

とても恐ろしいことだ。」


フォロロの顔が絶望の色に変わる。


「言うなよそんなこと、お前がそんなこと

言うなよ。お前に何が分かるるんだ!

お前になんか!何も知らないなくせに!

分からないくせに!

お前に愛なんかないくせに!

お前に愛の何が分かるんだよ!言ってみろよ!」


「私に愛というものについて説明しろと

言うのか?それはまた、随分と残酷な

申し出だな。お前は愛というものを理解

している者がこんな風になると思えるのか?」


「うっ、それは………」


初めて会った時から愛どころか人間性も感情も

心も何もない精密な冷たい人形のようなやつ

だった。

それがとても不気味で気持ち悪くて嫌いだった。

お父様が褒めても褒めなくてもその存在そのもの

が、とてつもなく嫌いで受け付けなかった。

そんな相手に何を言っているんだろう、

何を教えてもらえるというのだろうか、

フォロロは段々と混乱していく。

その中で普段考えてはいけないと決めていた

思いも溢れ出してくる。


「何なんだよお前は!お父様を殺した憎い

相手なのに………

何で俺は迷うんだ、俺は本当はお父様のことも

兄さんのことも、本当には好きじゃないかも

なんて、なんで今さら思うんだよ、

違う、駄目なんだ、そんなこと思ったら

考えたら駄目なんだ、駄目なんだよ…………」


フォロロは拳を地面に打ち付けた。

自分の心が自分でも分からなくて気持ち悪かった。

気持ち悪い。

でもこのまとわりつく様な気持ち悪さは

今さらだった。

ずっと昔から自分にまとわりついていたものだ。

それは自分の実力が無い為に感じるものだと

結論付けてきていたが、それは結局、

自分に嘘を付き続けた代償だったのかもしれない。


「どうした?イーダの仇を取らないのか?」


フォロロの葛藤と混乱を知ってか知らずか

ラビは静かに聞いてきた。



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