第15話 長男・オック(3)

「………………いつからイーダをあの人と

思うようになった?」


ラビは尋ねる。


「いつから?いつからだったかなあ………?

あの人が死んでいるのを見つけた時、側に

フォロロがいたからな。悲しいとか殺された

という怒りより、まずフォロロを黙らせることを

優先してしまってね、フォロロに言い聞かせている間にどんどんあの人へ抱いていた恐怖が消えて

いくのを感じたよ。

「お父様ならきっとこう言う、こう思うはずだ」

などと言っている内に、ああ自分もこうやって

思い通りに言い聞かせられていたんだなって

驚くほどすっと冷めていったんだ。」


『自分は驚くほど冷めたのに、フォロロに対しては

そのままその手法を利用し続けたのか、

本当に中々の性格だな。こいつの性格が

歪められてこうなったのか、元々なのかは

分からないが………』


「もうあんな恐怖に怯えて、あの人に好かれる

為に何でも言う事を聞く日々なんて冗談じゃない。だから正直、感謝しているくらいさ

君があの人を殺ってくれてね。

ほら、今見事に利害が一致したじゃないか!

我々は同じものを求め、同じものを目指せるかも

しれない!」


オックは何とも晴れやかにそう言ってきた。

都合によって言う事や考えをころころ変えられる

術はイーダ以上かもしれない。


「お前は私を殺しに来たんじゃないのか。」


「違うよ!説明しただろう?

我々は君の実力を大いに認めているし

力になってほしいと思っている。

総統達が殺されて3年。

支給額は多かったとは思うがそろそろ

懐も寂しくなってくる頃じゃないか?

君ほどの手練が何処にも属さず力を持て余して

いるなんて勿体ないことだよ。

イーダの、いや、あの人の時と違って

君や色んな人の意見をちゃんと聞いて

居心地の良い場所を作るよ。

さあ、我々と一緒に新しい時代を作ろう!!」


オックの口は歪みながら笑っていた。

イーダもいつも同じような口をしていた。

本心を隠している者の特徴とも言える。


「では最初からフォロロを殺すために

連れてきたのか?」


「あいつは復讐の鬼だった。

こうでもしてやらないと気が済まないんだ。

どうせ君を殺れないと思っていたから

自分の実力を思い知れてよかっただろうと

思っているよ。

でもほら、これで君も組織に戻りやすくなったろう?もう組織に君と敵対する者はいない。

我々はいつも君の為に動いているんだよ、

君が組織に戻ってきてくれたら、あの人を

暗殺した理由だって筋道が立つ。

恐怖支配を撤廃し、新しい国を作るためだと

説明すれば誰も逆らわないさ!

君さえこちらにいれば、誰も逆らえない。」


なぜこうまで自分にとって都合の良いことに

相手が従ってくれると思えるのだろうか。


変動していく事情の中で、極めて上手くいく

手法だとでも確信したのだろうか。


ラビは何度考えてみても、この男を理解できないし

する価値もないと思った。


「3年間よく隠し通せてきたな。

だがそろそろそちらの事情も隠しきれず

苦しくなってきたということかな?」


ラビはまた冷たく言い放つ。


「………相変わらずお前は、人間味が無いくせに

人間の裏側を見抜くのが得意だよな。」


歪んで笑っていた口は、歪みながら苦々しそうに

そう呟いた。


『イーダの猿真似か………、真似事は本人が

経験した失敗と試行錯誤が分かっていない分

浅い思考になりがちだな。

成功例だけ見て簡単にやれると勘違いする

だろうが、そうではない。

失敗する前にそうならない為の微調整を

また早めの損切りを、経験から判断して

行わなくてはならない。

だが奴ではそれが出来ないだろう。』


『その為、猿真似で上手くいかなくなると

別の方法を探ることができないのですぐに

他人の所為にして必ず責任を逃れる。

それにこいつは元々嘘と責任を他人に押し付ける

のが得意だ。』


『それも回を重ねると不信を買い、反発を生む。

他人に言う事を聞かせる手段が乏しいと、

見えるように誰かを目の前で苛烈に叩きのめす

だろう。言う事を聞かないとこうなるぞと

見せしめをする。そこに幼稚さが加わると

とても残虐になるだろう…………』


つまらぬ相手だが、この先どういう道を歩むか

嫌でも見えてくるようだった。

 

『さて、どう始末するか。』


やる事は決まっていてもやり方を考える。

このまま味方になる振りをして、折を見て

始末するのが最も簡単であり、確実であった。


だがラビはそういった「欺き」が生理的に嫌と

言う訳ではないが苦手であった。

戦いの中では裏をかけても、心理戦では

裏をかけないのであった。

そこら辺が諜報部員達との決定的な違いでもあった。

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