第13話 長男・オック(1)

フォロロは穏やかな顔をしていた。

ラビはそれを静かに見ながら2発目が来るか

待ってみたが、撃ってはこなかった。


狙撃の場所はすぐに検討がついた。

銃を撃ってきた方向は、2人がいた丘を下った先に

道がありその向こうは山になっている。 

山の裾には関所のような使われていない監視小屋

があり、そこからで間違いないだろうと思われた。

距離と高さともに申し分なかった。


『距離にして1000mはないくらいだが………』


こちらの銃では届かない。

林を抜けると障害物は無くなる。


『さて、どうしたものか。』


林から道に出る最後の木の陰でラビは監視小屋を

伺っていた。

互いに動かず1時間ほどの時間が流れた。


『フォロロを生かすことはできなかったか。』


ラビは仕方ないような残念なような複雑な

心境であった。


『生きるだけなら難しくはないが、

晴れた心で生きたいと願うと、それは途端に

茨の道のようになってしまう。

ならば自分が今、闇の中にいると自覚しない

方がマシなのか……分からないな……。』


ラビは青く晴れた空を見上げた。


『どうせ私もすぐにそこへいく。

偲んでやる必要もないだろう。

だが、そこに征くには……………

最後の仕事となるだろう。』


ラビは深く深呼吸した。

その1時間はラビにとってまるで長くなく

あっという間とも言えた。


やがて先に監視小屋に動きがあった。

小屋から黒い影が出てきてこちらに向かってくる。

ラビの方も仕方ないと首を振り、その方向に向かい

二人は道の端と端で対峙した。


オックは手に持っていた狙撃銃を手放し

明るく話し掛けてきたのだった。


「やあ、キラービー、久しぶりだね。

まんまと君に誘い出されて来てみたけれど

君の狙いは何なんだい?

どうしてフォロロをすぐに殺さなかった?

もしかして我々と何か交渉がしたいのかな?」


オックは穏やかに悠然と喋る。

イーダを意識しているのか、それとなく似た

雰囲気を醸し出していた。


「なぜフォロロを殺した?」


ラビは静かに尋ねた。


「おや?まさか怒っているのかい?

あいつは君を殺しに向かったんだよ。

膝を着いたまま立ち上がらなくなっていたが、

君に命乞いでもしていたのかな?

どちらにしろ使い物にならないのならもう

要らない。要らなくなったなら始末して

当然だろう。」


「要らなくなったのか…………」


「なんだい?まさか我々に兄弟の情みたいな

ものがあるとでも思っていたのかな?

君にそんな情緒的な感想があるとは思えない

けどねえ、キラービー、君は誰より冷静で

冷酷で……血も涙も無い暗殺者だったじゃ

ないか。父も総統も君が殺ったんだろう?」


「それを周りに知られたくないがために

私を始末しにここへ来たんだろう?」


「それも考えの一つではあるが、目的は

そうじゃない。その前に確認したいことがある。

『蜂が蜘蛛を倒して、宝石の湖で舞う

朝と昼と夜、1日を統べる者を誰が刺した?

なぜ刺した?答えは湖に眠っている。』

こんな誘い文句を考えたのは誰だい?

君が考えたとは思えないんだけどな。」


オックは訝しがりながら聞いてくる。


「朝は諜報員、昼は工作員、夜は暗殺者

特に決まりはなかったが、この隠語を使っていた

のは少し前の諜報員達だ。

君がそれを知っていたかも怪しい………

となると君は古い元諜報員と繫がっている

ことになるが、まさか君がねえ。

現役の諜報員とも、それどころか誰とも

親しくしていなかった君に何があったのか

大変興味があるんだが…………」


『グースめ、洒落たことをしやがるな。

『鴉』は何時でも一つのことで二つ三つの効果

を狙うな。『梟』よりずっと狡猾な奴らだ。』


ラビはそう振り返ってみてやれやれと思った。


『私には無い発想とやり方だ。やはり奴らとは

永遠に気が合わないだろう。』


ラビは考えることはしてもオックに対しては

何も答えなかった。


「やはり答えてはくれないね、分かっていたよ。

君の口を割らすことは父にもできなかった。

まあこのことは別にいいんだ、しかしわざわざ

我々を呼び出したということは目的があるん

だろう?なぜ今さらこんなことをするのか

理由を教えてほしいな。」


「蜘蛛を差し向けてきたのはお前達だろ。

あんなことをするということはお前達こそ

いよいよ私を始末したかったんじゃないのか?」


するとオックはハハハッと乾いた笑い声を出した。

全く、すぐにイーダを真似ようとする。


『イーダとは別の意味で感に触るやつだな。』


ラビはそう思った。


「そうか、蜘蛛か、ツリースパイダーが失礼

したか。すまなかったね。彼の扱いには

我々も手を焼いていたんだよ。

誤解を与えてしまっていたようだね、

まさか我々が君を始末する為にあんな雑魚を

用意するわけないじゃないか。

彼が勝手にやったんだよ。これは我々の意思では

ない。我々は君と敵対したいわけじゃないんだ。」


イーダも兄弟も死に、一人になったはずなのに

自分のことを我々と言い続ける。

一体彼の後ろに何があるというのか、

自分は組織の代表だと誇示しているのかも

しれないが、大きく見せようとすればするほど

彼自身の人間の小ささが見えてくるようだった。


『思っていたよりずっとつまらない男だな、

だが………中身はつまらないのに、自己評価は

恐ろしく高い。これは相当厄介なことだ。』


ラビは元々どうするか決めていたが、

改めて決意を固めた。

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