第22話 教主とレオル(2)

「頼みたいこと………」


レオルは含んで考えながら話した。


「僕は元々反体制派を支援したいと思っていた

わけではありませんでした。

だからって元の政府組織がいいとも思って

いません。

僕はただの庶民で日々の暮らしで精一杯でした。」


レオルはそこまで言って、やっぱり自分の

そのような考えは父の事が陰を落として

いるんだと強く感じた。

自分に力が無いなら政争とは無縁でいるべき

だとどこかで思っている。

今の社会が生き辛くても父には生きていて

ほしかった。

でも………何よりも………


『ラビ…………』


生きていてほしくても、彼らにはそれ以上に

大切な思いがあった。

それなら。


「けれど色々あった中で、やっぱり元の政府組織は復活させるべきではないと、自分自身で考えるようになりました。

反体制派が具体的にどのような理念を

もっているのか、僕はまだ詳しくは知りませんが、庶民に寄り添い、圧政を強いるようなことが

無いのであれば、そちらを支援したいと

思っています。

その為に僕の持っている情報が役に立つのなら

力になりたいと思っています。

ですが自分には反体制派や軍部に伝手はなく、

具体的にどのようにすればいいか助言いただけ

ればとお願いします。」


レオルはそう言って立ち上がり、頭を下げた。

教主は深く頷きながらレオルの話をしっかり

聞き込んだ。


「なるほどよく分かりました。

あなたの気持ちも考えも最もでぜひ力になりたいのですが………残念ながら私どもの方に反体制派と

繋がっている者がいません。

彼らは情報部の人間をとても警戒しています。

今までに色々とあった為、恨んでいる者も少なく

ないかもしれません。

しかしそのような事に拘っている場合では

ないのも確かです。

正面から堂々と話に行くしか手立てはありません。軍部のトップはとても日和見で頼りなさそう

ですが、反体制派をまとめている人物はとても

勇敢で話の解る方だと噂されています。

行けばきっと、あなたの思いは伝わるはずです。」


「………………分かりました。」


「ただ話は伝わりやすく、時には脚色も必要と

なります。上手くやるんですよ。」


教主はそう言っていくつかレオルにアドバイスを

与えた。



そしてレオルは何度も頭を下げ、光の教団の小屋を

後にした。

意を決してしばらく行くと、二人を後ろから

つけて来る者がいた。

やがてつけて来た者は二人の前に回り声を

掛けてきた。

それは小柄な中年男性であった。


「お二人さん、失礼します。今から反体制派の

軍部を訪れようとしていますね?

もしよろしければ私が案内いたします。」


せむしとまではいかないが、かなり前屈みで

卑屈な感じが隠せない怪しい男であった。


「何だいあなたは?見るからに怪しいじゃ

ないか。何を企んでいる?」


ロパが一歩前に出て相手をした。


「私の名前は………かつてはコードネーム:

ビショップといい『梟』に所属していました。

光の教団に潜入し、教主の暗殺を指令された

際にはキラービーと組んで任務にあたっていた

んですが、あの人からはまるで信頼されなかった

ようで、任務途中で捨置かれました。

その後にあんな事があって、一時期は体制派に

というか、一応は情報部は解体されていませんのでそこにいたんですが、まあ色々怪しい気配が

あったので今では色んな情報を掴んではあちこちへ売り歩くしがない情報屋みたいなもんです。」


「え、キラービーと……?」


レオルにとってはラビを知っていた者には

色々と話を聞きたくなってしまう。

しかしロパはそれを遮った。


「今は所属無しの情報屋なんですね、そんな

あなたに信頼できる根拠はありますか?」


ロパはそう言って、ビショップを睨みつけた後に

はっとした。


「あ、お前は…………」


「そう、久しぶりだなロパ。お前がこの名前の

まま平和に暮らしていたなんて、グースという

人は大したもんだな。」


「知り合いだったのか?」


レオルは驚いた。


「ええ、お互い『鴉』があった頃の下っ端諜報員

でした。

昔から食えない奴で掴みどころのない男でしたが

『梟』に所属していたのか。」


「あそこは慢性的に人手不足だったからな。」


ビショップはにやりとしながら呟いた。


「俺を信頼する根拠と言ったが、一応はあの教主、コンドルさんから頼まれたというか、提案された

んだよ。」


「コンドル!?あの人が?まさか?」


「あの人も随分顔付きが変わっただろう?

まあ『鴉』を抜けたのが15年くらい前か……

色々あったみたいだが、今ではすっかり人助けの

宗教家が板についているからな。」


「まあ、そんなにはっきりと顔を合わせた事は

なかったが、雰囲気が全くの別人だ………」


「何だ、グースから聞いていなかったのか。」


「聞いていない。その事をあの人が知っているの

かも分からない。」


「そうか、あんなに息ぴったりだったのに

すっかり仲違いしてしまったみたいだからな。」


ロパは少し困惑していたが、気を取り直した。


「それであの教主からされた提案とは?」


「ああ、いつまでも根無しでフラつかず

しっかり未来を見据えて動けとさ。

その機会が今訪れていると言ってくる訳。

俺はお前達がここに着いた時からずっと探って

いた。さっきの会話も聞いていた。

ワシアからのラジオとあんたらの会話で

イーダとその息子共が死んだこともはっきりした。俺は元の政府や情報部に忠義も恨みもないが

仕事が無くなると困る。

体制派はオック共もクソったれだったが、

残っている奴等も総統や総司令の残りカスみたい

な奴ばっかりだ。

だから俺はあんた等に付こうと思っている。」


「そうか……それなら……」


レオルはそう言ってロパを見た。

ロパはどちらとも言えないという顔をした。


「ただ一つだけ聞きたいことがある。」


ビショップは鈍い光を放つ目で見つめてきた。


「キラービー。あの完璧な暗殺者がなぜ

任務を放棄し裏切ったのか。俺は今でも

分からない。あの教主もそれについては何も

答えない。もし知っているのなら教えてほしい。

俺はどんな情報よりもそれが知りたい。」

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