第23話 若い准尉
反体制派の軍部に辿り着くなり、ビショップが
直ぐに話をつけに動いた。
(国の軍事拠点は総統府の側と首都の南側の
2つあり、反体制派は南側基地を拠点としていた)
確信を持った情報だけに直ぐに対応されるかと
思われたが、反体制派を纏めるライマン中将が
不在の為判断に困っているようだった。
すると一人の若い准尉が現れて話を聞くと
言い、中に通してくれた。
どうもビショップが名指しで彼に要求した
ようだった。
「中将は諍いの平定に隣街まで出向いておられる。私が留守を任されています。
ですが私で判断できる内容ではないので
ここで待って頂いてもよろしいですか?
中将は夜までには戻られる予定ですので。」
いささか堅い口調で申し延べられた手前
その部屋には緊張した状態が続いた
元々基地内はピリピリとした緊張感があった。
「分かりました。詳しい話はその中将殿に
会ってからしようと思います。
でも先に自己紹介などさせてもらっても
かまいませんか?」
レオルは少しでも緊張を和らげようと気を使った。
相手方が堅い空気を持っているのはこちらを
信用していないからだとよく分かっていた。
信用されるかは分からなくとも会話をしなければ
お互い打ち解けることも難しいだろうと考えたのだ。
「私はワシアという………」
と、教主にした自己紹介と同じ内容を伝えた。
「一緒にいるのは同じくワシアから来たロパと
この街で出会ったビショップと言う………」
「元諜報員の情報屋です。ライマン中将とは
面識がありますが、あなたとは初めてになり
ますね。」
とビショップは自分で情報を付け加えた。
「情報屋ですか?中将が情報部の人間と
関わっていたとは思えませんが………」
「事態はずっと混沌としているのですよ。
使えるものは何でも使わないと勝ち抜けません。
お若いからまだその辺のことには鈍いかもしれ
ませんが。」
すると若い准尉はムッとした顔をした。
「ビショップ、余計な事を言うなよ。」
とレオルはビショップを窘めた。
「いえ、決して若いからと侮ったわけでは
ありません。むしろその若さで中将から絶対の
信頼を得ているのですから大したものだと
関心しているくらいです。」
ビショップは褒めたつもりだが、どうも素直に
褒められた気のしない言葉であった。
「それはーーー、まあ、どうも。」
准尉は渋々ながらその言葉を受け取った。
「ところであなた達は昼食を取ったのですか?
かつては首都として賑わったここもこんな状態で
満足に食事を取れるところもありません。
大した物は用意できませんが軍の食事でよければ
召し上がりますか?」
と申し出てもらったので、3人は有り難く
いただくことにした。
ちょうどそんな時間であった。
「ありがとうございます、准尉殿。」
レオルは深くお礼を述べた。
「そんな、気にしないで下さい。
それから、私の名前はルシュターと言います。
准尉殿ではなく名前で呼んで下さい。」
そう言ってルシュターは食事の準備の為
部屋を出て行った。
「警戒……されているだろうか?」
レオルはロパに尋ねた。
「そうですね、でも話せば分かってもらえると
思います。」
ロパは不安なくそう答えた。
そこに唐突にビショップが情報を挟んできた。
「ルシュター。彼は特殊施設出身で、軍では
そこそこ珍しい存在です。
特殊施設出身は情報部からもマークされる為
軍での出世は厳しいのですが、彼はその背景を
物ともせずしっかり信頼されているようですね。」
「特殊施設?それは何か特別な物なのかい?」
レオルはそう尋ねながら
『特殊施設』
それをどこかで聞いたことがある気がした。
「工作部隊を育てる為の施設です。
公に子どもを集めていましたが、内情は絶対秘密
とされてきていました。
情報部の殆どがその施設出身です。
そのロパも私も。
そして彼はキラービーと同期の施設出身者です。」
「えっ!?何だって…………」
レオルは驚いた。
『特殊施設』確かにラビはそう言っていた。
そこで出会った少年の話も。
「彼はキラービーと親しかったのかい!?」
「それは分かりません。ただイーダ総司令の昔の
資料にその当時は重要人物として記載されていた
ので何かあったかもしれません。」
「随分と色んな情報に詳しいな。お前がマーク
していたのか?」
ロパは訝しむようにビショップに尋ねた。
「いいや。俺はそんなにあの総司令や指導部から
信頼されていた訳ではない。だけどあの日以来、
あの男と指導部が姿を見せなくなってから、
俺は多分キラービーがやったと思っていたから
奴等は死んでいると踏んで、情報部のイーダの
部屋の資料を読み込めるだけ読み込んだのさ。
どの情報が今後役立つか分からないからな。
あの兄弟達はそれの重要さをさして解っていなかったからやりやすかったよ。」
「そうか…………」
レオルは本能的にこの男を敵に回したくないなと
感じた。
「キラービーがやったと、情報部や諜報員同士で噂にならなかったのか?」
「あんた等が『鴉』が解体されてからは諜報員同士の繋がりは御法度とされたんだよ。
余計な噂をすれば誰が誰に密告するか分からない
横の繋がりは疑心暗鬼同士だったのさ。
それでもイーダの死を怪しんでいた『梟』のトップが内情を探っている内に消されてな………。
そこで諜報部は事実上の解散状態さ。
まあもう3人くらいしかいなかったけどな。」
「それでイーダの息子共の言う事を信じている
振りをしていたのか。」
「そういう訳さ。オックはイーダより人の嘘を
見抜く力がない。しかも褒めればすぐに信じて
喜ぶからなそれは容易だったさ。」
『嫌な会話だな。』
他人の、ましてや敵方の話なのにレオルは
そう思った。
『そんな中にいてラビは全てを理解し
全てを熟していたんだな。』
と改めて何とも言えない気持ちになったのだった。
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