第31話 新しく

その日はそのままもう一日反体制派の軍事施設で

それぞれ就寝したが、翌日からはただただ

慌ただしく物事が進んでいった。


将軍は居住を総統府へ移すこととなった。

そして国を代表する首相として暫定的に

将軍を首相と位置付けることにし、

大統領制にするか、議院内閣制などの

議論は持ち越された。

まずは国民主体の共和国として生まれ変わることの

宣言をし、国内の平定が急がれた。


将軍は自分が首相になることをとても嫌がった。

自分に人をまとめる資質がないことは自分で

よく判っていたし、そのような目立つ立場だと

やはりまだ暗殺される恐れがあると怯えていた。


それをライマン中将が根気よく説得した。

残っていた反体制派は将軍を信じて付いてきたと。

(本当は皆ライマン中将を慕っていたのだが

そこはうまく誤魔化された。)

そして一番効果があったのが、スコーピオンが

護衛に付くということだった。

スコーピオンはこの国に残された最後の死神で

あった。任務期間はとても短く実践経験も

余り多くなかったのだが、それもうまく

誤魔化された。

スコーピオンが新首相の護衛につくのには

裏で色々と条件があった。


彼はもうどこにも所属せず誰にも従わないと

決めていた。

※イーダが死んだ後、容疑者からは外れていたが

オックから信頼されていなかったので、オックからの命令でビショップが彼を監視していた。

自由はあるが幽閉状態のようなものだった。


ルシュターとレオルがスコーピオンを説得した。

ほぼルシュター主導であったが、ルシュターは

スコーピオンがレオルの言う事なら従うかもしれ

ないと感じたため、ルシュターは実質2人の

説得をしたことになる。


スコーピオンは事ある毎にレオルを見ていた。


「あんまり似ていないが、似ていなくもないな………」


ラビも感じていたことだが、顔付き、雰囲気共に

レオルはバタフライと似ているところがあった。

キラービーに信頼され形見のようなナイフも

託されたこともあって、スコーピオンは

レオルに対しては割と素直に従う意思が見えた

のである。


スコーピオンの条件はレオルが新体制の派閥に

加わることであった。


レオルは粗方の整理がつけばワシアに帰るつもり

だったのでとても困った。

本音ではナナ・ハーンにラビの墓を作り

その側にいたいと思っていた。


しかし、ライマン中将とルシュターの強い願いで

一旦は新政府組織の立ち上げに関わることとなった。


ワシアでのことはササー巡査長が全て何とか

してくれることとなった。

病気がちな母のことも弟をワシアに配置し、

できる限り他の部分でも配慮するように努めると

言われた。ロッド理事長もこのことに深く

理解を示していると。


レオルはロパにも残って力になってほしいと

頼んだが、一旦ササーと共にワシアに帰るので

その後のことはまだ分からないと言われてしまった。だが、


「ビショップがあなたの力になってくれる

そうです。信頼はできるか怪しいですが

面白い奴です。うまく使って下さい。」


と中々の曲者を代わりに寄越されたのであった。

ホークとヘロンもそこに継い付いする意思を

見せたので、レオルは暫定的に元情報部員達の

仮部署責任者のような形になった。


そしてこの後、これはレオルとルシュターの

考えが一致していた行動に出る。


『光の教団の教主、コンドル(バードイーター)

に新政府組織に入ってもらう。』


これの説得に動いたのであった。



教主は暫く悩んだ後、結果的に承諾してくれた。

しかし相当な迷いがあったようで、

後にレオルと2人で話がしたいとの申し出が

あった。


こうして新体制においてはほとんどライマン中将と

(元)教主が中心となり主なことを決めていった。

※教主は名前をもじってコルドと名乗ることにした

元々の名前は捨ててしまいたいらしい。


大きく国の政治形態が変わっていく中で、レオルと

ルシュターは雑用と人員整理に追われていった。

何が理想的で何が現実的に可能なのかなんて

2人には解るようでさっぱり判らないことだらけ

であった。

誰もが納得する形などないことが何かをしようと

すればするほど判ってくる。

その中でコルドの手腕は圧倒的であった。

通したい意見がある時は予め各陣営や影響力が

あるところに風潮を流すのだ。

元諜報員の使い方もイーダなどよりもずっとずっと

上手かった。

そのままでは衝突が起こりかねない事案や決め事も

有り得ないほどスムーズに進めていくのだった。


ライマン中将はいつも舌を巻いていた。

「あのような人物が市井に眠っていたとは……」

と、しかし略歴を聞き、納得し直すのだった。



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