第7話 最後の会話

「さて、ここからはお前の立ち回りだ。」


ラビはレオルの感情などに微塵も興味がなく

説明に入る。

ラビは全ての感情を置き去りにしている。


「う、うん………」


レオルは苦しいながらも気持ちを切り替えて

話を聞く。


「私が指示する場所で待機し、状況を判断すること。私が息子共を殺っても殺れなくても

ワシアに戻りグースに報告すること……

ワシアまで戻らなくても多分合流することと

なるだろうが。」


「ラビ…………」


「どうした?不安か?大丈夫だ。必ず殺る。

私が殺ると決めたら必ず殺る。それが私だ。」


ラビはとても穏やかにそう言い放った。


「私を信じられるか?」


ラビの表情はとても穏やかで悲壮感とは真反対

だった。

だからレオルは悲壮感を背負いたくなかった。


「信じるよ。ラビ、お前のことは全部、

全部信じるよ。」


「ふん…………」


その返事は嬉しいのか呆れているのか

よく分からなかった。


「グースと合流できたらグースがどう動くか

よく聞き、そして自分がどうしたいかよく

考えろ。グースは中央まで行く気があるかも

しれないし、ワシアに留まり事に参加しない

かもしれない。」


「ロッド理事長は中央に伝手があるだろうか?」


「どうだろうな、少なくとも現役だった情報部

とは繋がりがなさそうだな。

イーダもそこまでは見逃さないだろう。」


「そうか………」


「だが光の教団内部の連中とは知らぬ中では

あるまい。」


「光の教団……?」


「知らないのか?」


「いや、聞いたことはある。太陽王の信仰の一派

だったと思うけど、不思議と国に潰されずに

信徒を増やしていたとか………

ワシアには来たことがなかったから噂だけど。

総統が暗殺されるまでは時々その名を聞いたけど

あの後はどうしているのか余り知らないな。」


「私はあそこがあの後を何とかするかと思って

いたが、そうはならなかった。

あそこもあそこで内部は色々あるのかもしれん。」


「光の教団が?」


「光の教団の教主は元『鴉』で『死神』も

やっていた奴だ。名はコンドルでも

バードイーターでもどちらでもいい。

そいつを頼れとは言わないが、会えるのなら

会うといいだろう。私などよりずっと処世術に

長けている。この状況でどう動くべきか

ヒントが得られるかもしれん………」


しかしラビはこの話をしている時、

嫌そうな表情をしていた。


「どうしたんだ?」


レオルは思わず聞いた。


「奴の実力は確かだ。だが……奴は好かん。

余り思い出したくない。」


そこで何かを思い出したように尋ねてきた。


「レオル、お前の父親は反体制の動きを

している時に何かを標榜していたか?」


「標榜?」


「政府に対する憎しみや恨みで体制に楯突こうと

したのか?それとも何か志しがあったのか……

というところだな。」


「政府に憎しみなんて、そんなのじゃなくて、

そうじゃなくてもっと自由な意思がほしい

恐れて従うんじゃなくて、なんていうか……

もっと心から自分がいいと思うものに従いたい

とかそんなことを言っていたよ。

そんな世の中になればいいなって。

俺達兄弟が大人になった時に笑顔で送り出せる 

社会がどうのこうの……言ってた気がする。

父がそんなことをしていたなんて知らなかったけど、やっぱり何か思いがあったんだと思う。

署長達と何を目指していたかまでは分からない

けど………」


「ふん、やはりな。」


「やはりって?」


「確証はない。だが光の教団の教主も同じような

ことを言っていた。もし、もしも繫がっていたの

だとしたら………君の父親のやろうとしていた

ことは私まで届いたということになる。」


「え…………?」


「可能性の1つだ。だが偶然だろうか?

そしてその思いは再び息子である君に委ねられる

わけだな。」


昨日聞いたときはにわかに実感できなかったが

再び同じことをラビが言う。


『きっとそうなんだ。』


レオルはもう疑わなかった。

そうであっても、そうでなくても、

そう思えばいい。

きっとそうなんだ。


「父さんの思いは、願いは、父さんが死んでも

なおずっと生きていた。繋がっていた……」


レオルはグッと覚悟を決める。


「ラビ、俺はその思いを引き継ぐよ。

お前の覚悟も全部、全部ちゃんと繋げる。」


「ああ、だから私も安心して、

お前に託すことができる。

私も初めてだ、誰かを信用するということは。」


ラビはとても柔らかい表情でレオルを見つめた。


「お前なら大丈夫だ。お前でよかった。」


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