第28話 戦況の裏で(2)

2人は食道へ行き、固いパンとスープを食べた。


「ところでレオル、君はワシアで警官を

しているということだけど………

その職業には満足しているのかな?」


ルシュターは唐突にそう聞いてきた。


「なんでだよ?突然、満足してるさ、

父の後を継ぐじゃないけど、父の事をずっと

尊敬しているし、自分も街の平和を守る為に

尽力するつもりだよ!」


「そうか………」


そう言ってルシュターは残念そうにため息を

ついた。


「なんだよ…………」


ちょっとムッとして答えたレオルだったが、

残念そうにしているルシュターに戸惑った。


「いや、ね、今回の戦闘がほどなく勝利に

終わっても、その後が大変でね…………

中将は将軍をそのままトップに立てるつもり

なんだ。そして優秀な人材でそれを支えると。

あの人は悪い人ではないけれど、勇気がなくて

疑り深くて決断力がない…………

私らだけで支えるのはとても大変なんだ。

でも…………」


そして真剣な目で強く見つめ説得する。


「君が力になってくれたら心強いなと思っている。」


「えっ?はっ?俺が?いや、僕が!?」


「君は少なからずこの大きな渦に関わっている。

全ての事情を知っていて、何より『キラービー』 から全てを託されている。それはあの人から

信頼を得られるだけの人物であるこということの

証明になっているんだ。」


「そ、そうかな……?」


ラビから信頼されて託された。

そう自信をもっているが、彼女のことを思い出すと

余りにも淡々と説明されてばかりで自信が

なくなってくる。


「それに君は情報部の人間とも繫がりがある

ようじゃないか、訳有の光の教団の教主に

助言を求められることもすごいことだと思う。

そんな君を易々と地方都市に帰してしまうのは

余りにも惜しい。」


「ち、力になれることは何でもするよ、

でも軍人になったり、政治的な動きなんて

とても僕には無理だよ。」


「そんなことないさ。まあ、考えておいてほしい。」


そう言ってルシュターは珈琲を淹れてくれた。

特別に苦かった。


「君の父親も警官だったんだ。」


「ああ、ラビにその話をしたら、あいつは

自分に父親がいるのか知らないけれど

多分自分にもオス親がいるんだろうな、なんて

言うんだぜ。」


「はは、あいつなら言いそうだ。」


2人は苦い珈琲を飲みながら少し笑った。


「けれど、俺がラビに私的な話をする切欠が

父の事だったから、それからこんな事になる

なんて、本当に分からないものだ。」


レオルはそう言って感慨深く息をついた。


「父親のことが切欠?」


「ああ、昨日の説明では船長の救出作戦を手伝って

もらい知り合ったと言ったけど、一緒に行動する

ことになった本当の理由は俺の個人的事情から

だったんだ。」


レオルは昨日には詳しくは説明を省いた、

自分の父の話と死神について知りたかったこと、

そしてラビが予想したそこからの繫がりなどに

ついて話をした。


「父達の思いが諜報部に影響を与えたかとか

それでラビが総統達の暗殺に繋がったかなんて

全然本当のところなんて分からないんだけどさ、

でもあいつがそうだと思えと言うなら、

そういうことにしておきたいなって思っている。

でもそれらを負うには余りにも自分は頼りなくて

ちょっと情けないなって思っているけれど。」


レオルはいつでも照れくさいような、情けない

ような、そんな感情を抱えながらも

自分に課した使命のために動いている。


『駄目だな。もっと強い気持ちで堂々としないと』


レオルはそう自分を叱咤した。


「すごいじゃないか。まさに君でなくては

いけなかったんだ。」


ルシュターは大きく感銘を受けていた。


「昨日私は正直君に嫉妬していた。

11567が既に亡くなっていたこともショック

だったし、それを託された人がいたこと、

あいつが信頼した人間がいたことがなんか

悔しくて羨ましかったけれど、そうか、まさに

君でなくてはいけなかったんだ………」


そう言うと苦い珈琲を飲み干し、

とても渋い顔をして「戦況と状況を確認してくる」と言って食道を出て行った。


レオルは1人になり、少しほっとして

ここしばらくの激動の日々を冷静に振り返って

みた。

何を思い返しても、あんなに強くて何でもこなせた

ラビが死んでしまったなんて今でも信じられない。

けれど彼女から得た情報を余さず生かさなくては

ならない。


『ラビ、お前さえいてくれれば………』


そう思い右腕のくつひもを眺める。


『でもお前、こういうこと苦手そうだよな。』


そう思って苦笑いした。



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