第9話 蜂と三男(1)

「本当のことだと………?」


フォロロは不可解な気持ちになった。

なぜ褒めてほしい人からは褒められず、

嫌なやつらからばっかりと。


「お前は俺のこと馬鹿だと思っているんだろ?」


「そう思うのはお前に対してだけではない

イーダに従う者は全員愚かだ。

それは私も同じだ。あそこに賢い者など

一人もいなかった。」


「な、なんだと!?」


自分のことを聞いたのに話がふいに広がり

一瞬理解に苦労したが、イーダのことを

貶されたようで腹を立てた。


「お、お父様のことを悪く言ったり、馬鹿に

することは許さない!

大体お前はお父様に気に入られていて

いつも褒められていたのになぜ………!」


そこまで言ってふと本題を思い出してきた。


「お、お前さ、キラービー………、

お前がお父様を殺したのか?

兄さんはあんなことできるのはキラービー以外に

いないと言っていたけど、俺は信じられない

よりによってお父様が一番信頼していたお前が

そんなことをするなんて………」


「犯人が私でなければ、お前は私を殺さないのか?」


「えっ、そ、それは………」


フォロロはまたしても面食らう。


『キラービーめ、お父様を殺しただけでは

あき足らず宣戦布告をしてきた。

何が「蜂が蜘蛛を倒して、宝石の湖で舞う」だ。』

※かつてリゾートで賑わっていた頃のナナ・ハーンの売り文句が宝石の湖だった。


『やっぱりお父様はキラービーに殺られたの?』


『こんなことできるやつあいつ以外にいない。

だが黙っているならそれでよかった。

それを大大的に公表されるとまずい。

奴を片付けるんだ。』


兄・オックとの会話を思い出す。


「お、お前以外に有り得ない、あんなに大切に

されていたのに恩知らずめ!!」


「あれが誰を大切にすると言うのか……

だがまあお察しの通りイーダを殺ったのは私だ。」


面白い答えも聞けそうにないと思ったラビは

淡々と答えた。


「なっ!やっぱり!!な、何でだよ!!

裏切り者の恩知らず!!」


フォロロはそういきり立ち、銃を両手に持ち

撃ちまくってきた。


ラビはそれらを木を盾にして全て回避した。


元々フォロロは銃撃が不得意ではなかったが

敵の動きを読むのが苦手であったため、

いつもエタフェのフォローで当ててきていた。


「くっそ!」


フォロロは銃を捨て、接近しようと試みるが

距離を詰めることができなかった。


『死神の装束は……』


フォロロはラビを目の端で捉える度にそちらへ

向かうが全て透かされてしまった。


『背負いの底に2丁の拳銃、仕込みのナイフが

数本……ブーツにも2本。グローブには針

(釘ほどの太さ)が各6本、蜘蛛と違って余り毒は使わない』


格闘技そのものはフォロロの方が得意としたが

接近での暗殺術では圧倒的にラビに分があった。


『服装は胴体と外套が防弾と防刃使用で

相当近くで力いっぱい当てないとダメージを

与えられない。だが相手の手の動きに注意すれば

こちらにも勝機があるはず!』


フォロロは今までに分かっている情報を元に 

一人でも必ず仕留めようと逡巡した。


しかしフォロロの動きは単調でラビの方向へ

ただ向かうだけであった。

そのフォロロの動きを利用し、背後からラビが

脇腹へ強く蹴りを入れてきた。


「ぐっううっ!」


フォロロは反撃を試みるが直ぐにラビは姿を消す。

ちょうど防弾服の下で骨は無事だったが

結構なダメージを食らった。


「キラービーッッッ!!」


フォロロは隠し持っていた銃で辺りを撃ったが

それは1つも当たらない。

その銃声の中、頭上に上がったラビは

フォロロの上からフォロロの背中に大きな

ダメージを与えつつこめかみを思いっきり

殴りつけた。


「くっそ、ちょこまかと!」


血を流しながらフォロロはナイフを構える。

林の中では分が悪いと彼はやっと理解した。

障害物を上手く利用して戦わなくてはならない。

今まで支持通りに動くばかりであった彼は

上手く戦う相手に対して、上手に対応する

ことができなかった。


しかしそこでふと疑問に思う。


『キラービーなら初激で致命傷を与えられた

のでは?こちらの位置を常に把握している

のなら、そもそも銃で撃ち殺せるのではないか?』


と…………


その時フォロロは今までにないほど冷静になった。


    


これまでも山ほど経験していたことだが、

周りの言葉に流されて、それを感じたり

考えたりすることをしないでいた。


この命を取られかけている緊張の中で

この違和感を見逃すわけにはいかなかった。


かつてないほどの意識の集中の中で周り全てが

スローになっていく。

自分達の動きに合わせて舞う落ち葉でさえ

止まって感じるほどだった。


そしてフォロロはふいに背後に迫るラビの

動きを捉えたのだった。

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