第3話 ラビの考察

ラビは長男・オックの考えが読めないと言う。


「あいつは私が思うより複雑なのかもしれない。」


そう言うと何かを思案していた。


レオルにはイーダの息子達のことはさっぱり

分からない。

ラビから伝え聞いた部分だけでも

禄でもない……それは彼らに罪や責任がある

とは言い難いが、結果的にそういう存在に

なってしまっているということだけが分かった。


「今まであったことを整理していきたいんだけど……」


レオルは今までで分かっていることと状況を

整理し把握したいと思った。


「ラビは『キラービー』として情報機関で

暗殺者だった。そこであの蜘蛛男や『息子達』と

ともにイーダの部下であったが、彼らから

疎まれていた。」


レオルはラビを見たが、薄く頷いたように見えた。

続ける。


「ラビは総統とイーダを同じ日に暗殺した。

総統の暗殺はその日の夜に広まったが

イーダの死は知られていない。

それは息子達が隠したからと思われる……

そのせいで軍部は2つに別れ、今も争っている。」


「そうだ。」


「ラビは総統を暗殺した時、反体制派に付いたり

支援しようとは思わなかったの?」


「思わない。今でも別に思っているわけではない。私はイーダの命令に従うのを止めただけだ。

この国がどうなろうとどうでもよかった。」


『改めてとんでもない話だな……』

レオルは率直にそう思った。

しかし結局のところ、ラビはそういうやつで

それでいてそれができてしまう人物でもあった。



「イーダの息子がいなくなれば情勢は変わるかい?」


「変えたいと思う者が相応の動きをすれば

変わるだろう。

しかしそこは私の知るところでもなく、本来関与

するつもりもないところだ……

そこで決断するのはお前だ。」


「え、俺が!?」


「息子の死を報せに行くのも、その後どの派閥

でどう動くのかもお前が関与すればいい。

お前も私と同じくこの国がどうなるのかずっと

無関心でいるつもりか?

或いはお前の父親はお前にそう望んだのかな?」


「……………………!!」


レオルはハッと胸を打たれた。


「お前の父親を暗殺した死神は明らかにその後

仕事振りが悪くなっていた。そしてその後『鴉』

の反乱が起こっている。

それらは必ずしも繫がっているとは言えないが

………繫がっていないとも言えない。」


「え、そうなのか……?」


レオルは自分の父親はただ無念の内に亡くなった

と思っていた。

そしてそれはとても闇が深く触れてはいけない

ものだった。


『父さんはな、お前達の為なら何だって頑張るさ』

そう優しく笑いかけてくれた父を思い出す。


「現状を変えたいと思うためには動機が必要だ

そうだ。

私にはその動機がない。

だからやりたい奴がやらなければ意味がない。」


レオルはグッと歯を食いしばった。

母をこれ以上悲しませたくなくて大事な事を

見て見ぬふりしてきた。

けれども自分にも『思い』がないわけではない。


向き合えるのなら向き合いたい。


挑めるのなら挑みたい。


だけど、それでも………


「ラビ、やっぱりお前に何かあったら嫌だ。

お前がここで死ぬのだけは絶対嫌だ!」


大義より感情を優先させたい。

自分の感情がこれ程まで譲れないと思えたのは

これが初めてだった。


『だって、ラビはまだこれからじゃないか!』


真っ直ぐにそう思った。


「馬鹿なことを言う奴だな。」


ラビは淡々とそう答えた。

だがラビの言葉はもう冷たくなかった。

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