5. 旅

「ああ、あの旅は最高だった! 色とりどりの植物もそうだし、異国的な街並みに、人々との出会いと語らい。旅とはまこと素晴らしきものだよ」

 エキゾチックな植物たちを前に、アシュレイは遠くのほうを見ながら、滔々と語っている。日藤はふと疑問に思った。

「お前、旅なんて行ったことあるのか」

「……え、どういうこと」

「ほら、お前首から下が無いだろ。どうやって旅行なんてしたのかと。それじゃなきゃ、昔は身体があったりしたのか」

 生首は一瞬言葉を詰まらせ、しかし朗らかに告げた。

「行ったことあるに決まってるじゃないか。私は旅商人なのだよ。当たり前だろう?」

「本当か? また適当言ってるんじゃないだろうな」

「やだなぁ、そんなわけないでしょ。アハハ……」

 上手くはぐらかされたような気がして、日藤は釈然としないまま口をつぐんだ。温室の空気は生ぬるく湿っている。品物が傷まないうちに帰らなければならない。それきり特段変わったこともなく、彼らは帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る