21. 飾り

 これは、この世界から果てしなく近く限りなく遠い、何処かの出来事。

 今から遥か昔のようなつい最近のような、いつかのおはなし。


 それはガラスケースの内側にいた。白いスポットライトに四方から照らされて、その外は完全な暗闇であった。

 それはガラスケースの中で、たくさんの視線に晒された。真っ暗な中に無数の目だけが浮かんで、じろじろと見つめてくる。そこには好奇が偏愛が軽蔑が無関心があった。長い間そうした目だけに囲まれて、それの心は乾ききっていた。

 私はモノじゃない。永遠にガラスケースの中で飾られて。こんなのは終身刑と同じだ。早くここから出たい。誰か助けてくれないか。

 叫び出したくても、喉はかちこちに固まって動かない。石膏の身体が、それの自由を許しはしない。

 それは彫像であった。首から上だけの全身を宙に晒して、物言わぬ白い肌はつめたく静謐だ。


 それは心のかぎり願った。私は自由が欲しい。私は命が欲しい。

 私は生きたい。こんな寒い暗闇の中ではなく、温かな陽の光の下で、生きてみたい。


 そんな何千年もの願いの果てに、ついにそれは命を得た。

 ガラクタの山に埋もれながら、それは埃っぽい空気を思い切り吸い込んだ。産声を上げる代わりに、それは自らに名前をつけることにした。命あるものにはみな名前があって然るべき。この世に生を受けたことを祝って、それは自らをこう呼んだ。

 銀の皿のアシュレイ。アシュレイ・シルバーディッシュと。

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