20. たぷたぷ
その日はキクコばあさんの誕生日記念で、日藤とアシュレイ、キクコの3人は中華料理店に来ていた。個室の真ん中には大きな二段の回転テーブルが据えられ、アシュレイはその上段に置かれた大皿の上に収まっている。こうしてみると猟奇的な料理のようにも見え、日藤は恐ろしさというよりも可笑しさを感じざるをえなかった。
テーブルをゆっくりと回してやると、アシュレイはご馳走の皿に目移りしながら、どれから食べようかと舌鼓を打っている。楽しそうでなにより。その様子を眺めつつ、日藤は早々に本題に入ることにした。
「ばあさん、一寸相談したいことがあるんだが」
彼は先日の事件について話し始めた。椿の額縁に狂った末、自ら命を絶った男の話。その尋常でない振る舞いと、忌まわしき幕引きについて。
一通り話し終えると、日藤は固く口をつぐんだ。料理に箸もつけず、ただ卓上をじっと見つめている。キクコはしばらく考え込んでいたが、やがて優しい調子で語った。
「そうね、不安に思うのも分かるわ。でも、恐れてばかりでも良くないの。恐怖はまた別の恐怖を呼んでしまうから」
「すぐにでも、腕の良いお祓いを紹介しましょう。だから、そう心配しないで」
日藤はあいまいな表情を浮かべていたが、やがて勧められるままに、盛られた料理を少しずつ食べ始めた。
「日藤くん! この麻婆豆腐もおいしいよ、きみも食べたらどうだい?」
キクコの差し出したレンゲを口に含みながら、はふはふ息をしつつ美味しそうに頬張っている。それを見て、日藤は呆れたように苦笑した。
「そうだな、俺もいただこうか」
食事会は楽しく過ぎ、そろそろお開きとなったところで、アシュレイが言った。
「は~、食った食った。すっかりお腹がたぷたぷになっちゃったよ」
「お前、腹なんて無いだろ。首だけのくせに」
そう軽口をたたき合う二人に、キクコはそっと穏やかなまなざしを向けていた。
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