25. 灯り

 日藤は真夜中に目を覚ました。水でも飲もうかと布団を出て、六畳間へと向かう。

 暗闇の中、蛍光灯の紐を手探りしていると、聞き慣れた声が聞こえた。

「ねえ」

「何だ、お前も起きてたのか」

 探り当てた紐を引くと、六畳間に白色の明かりが灯った。ちゃぶ台の上のアシュレイは、鳥籠の中で眩しそうに目を細めている。

「ちょうど明かりが欲しかったんだ、ありがとう」

 ほら、私ってこうだから。灯りをつけようにもつけられなくてね。生首は呟く。

「どうにも眠れなくてさ。それに、こう真っ暗い中だから、なんだか不安になってきて」

「生首にも、眠れない夜はあるんだな」

「それくらいあるさ。生きているんだから」


 アシュレイは寂しげに眉を寄せる。そしてふとこんなことをこぼした。

「本当は、暗いところが怖かったんだ」

 湯呑に水を継ぎながら、日藤はそれに耳を傾けた。

「いやな記憶さ。忘れたいのに忘れられないんだ。暗いところ、狭いところは得意じゃない。置き去りにされるのはもっと嫌だ。あの場所を思い出してしまう」

 アシュレイは苦し気に言葉を重ねている。日藤はそっとちゃぶ台のそばに腰を下ろした。

「眠れない夜は、暗闇の中で目を閉じているしかないんだ。この上なく不安な時間だよ。それでも、じっとしているほかないんだ」


 最後まで話を聞くと、日藤は黙って立ち上がった。蛍光灯のスイッチを操作すると、室内はオレンジ色の薄明かりに包まれる。

「暗いところが怖いなら、はじめからそう言えばよかっただろう」

 常夜灯を最大まで明るくつけて、日藤はふたたび腰を下ろした。

「ただでさえお前は、ひとりじゃ何にもできないんだから」

 読みかけの雑誌を広げ、日藤は寝物語に付き合う構えだ。アシュレイは鼻水をすすって、「ありがとう」とかすかに笑った。

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