13. 流行

 今日はキクコばあさんが遊びに来ていた。彼女が裁縫仲間と作ったという多種多様のつけ襟が、ちゃぶ台の上に広げられている。フリルやひだのついたもの、高さや幅のあるもの。日藤は詳しいことは分からなかったが、どれも繊細な作業の必要な品であることは間違いない。

「わぁ、どれも素敵だよ。着けてもらってもいい?」

「いいわよぉ。この大きな襟とか、最近流行りらしいのよ」

 きゃぴきゃぴと繰り広げられる女子会?の様子を、日藤は台所の方から所在なさげに眺めている。


「あら、ともちゃん。何か聞きたいことでもあるのかしら」

「……ばあさんには、いつも隠し事ができないな」

 日藤はちゃぶ台のそばに座り、近頃何度か遭遇した怪事件について打ち明けた。セキレイの皿の女に、壺の底へと消えた老人。

 彼は話しているうちに、あれが本当に起きたことなのか、自分の勘違いや妄想だったのか、次第に不安になってくる。しかしキクコは、

「ああ、たまに聞くのよね。そういう話」

と、何気ない調子で返した。

「あったのか、他にもこういうことが」

「同業者の中でもぽつぽつ聞く例よ。モノに執着するあまり、おかしくなってしまった人のこと。私も長年やってきて、あなたのような経験も何度かしてきたわ」

 キクコばあさんは湯呑みの茶を啜りながら、ゆっくりとした調子で言う。

「まあ、あまり気にしないのが一番ね。あれこれ悩んでもしょうがないじゃないの」

 ほら、病は気からって言うじゃない? そんな言葉に、日藤は(そんなものだろうか)と疑わしげだった。そんな時、

「へぐち」

と音がした。数秒かかって、日藤はそれがアシュレイのくしゃみの音だということに気がついた。

「あらあら、アシュレイさん。風邪ひいちゃった? 丁度よかった、ここに手作りマスクがあるのよ」

 キクコばあさんはファンシーなアップリケのついた布製のマスクをかぶせにかかる。生首は鼻水をすすりながら、神妙にそれを受け入れる。シュールな光景だ、と日藤は今更ながらに思った。

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