2. 食事

 本日は週二回ある定休日で、アシュレイと日藤はいつものごとく、ちゃぶ台に集まり休憩している。その日のおやつは缶クッキーだった。色も形もさまざまな一口サイズのクッキーが、皿の上に並べられている。

 真鍮のアフタヌーンティースタンドの最下段、銀皿の上に生首は載っていて、甘いお菓子に舌鼓を打っている。これはアシュレイの「アフタヌーンティーを愉しむには、相応のドレスコードと上品なティーセットが不可欠なのさ」というよくわからない主張のためだ。日藤は、いつ皿から転げ落ちても俺は知らんぞ、と思っている。

 古本を片手にめくりながら、日藤はクッキーをつまんでアシュレイに差し出す。アシュレイは口を開けてそれを待っている。ぱくりと口に入れてやると、満足そうにもぐもぐやっている。日藤は、どこかでこんな貯金箱を見たな、と想像する。


 クッキーは咀嚼され、ごくんと飲み込まれ、喉へと滑り落ちていく。しかし、アシュレイには首から下が無い。ならば、飲み込まれた食物はどこへ行くのだろうか。

 日藤はふと思い立って、アシュレイをティースタンドから抱え上げた。「お? どうしたんだい」と訊く声をよそに、抱えた首にまとわりつくレースの付け襟をめくり、その断面を覗き込もうとする。すると、

「やめておいたほうがいい」

生首ははっきりとそう言った。日藤は付け襟を元に戻して尋ねた。

「なぜ」

「私だって見たことはないけれど、なんとなく良くないモノだってのは分かるよ」

「なんとなく、か」

 日藤は釈然としないまま、しかしおとなしくその忠告に従うことにした。何しろしゃべる生首だ。得体が知れないのは確かだし、その性質も、そもそもなぜ生きてしゃべっているのかということも、何もかもが謎だった。

 しかし少なくとも、アシュレイは無害だった。それに、日藤はアシュレイのことを良い話し相手だと感じていた。手放すには惜しい。今すぐに状況を動かす必然性もない。

 ゆえに、彼は黙ってクッキーをかじった。怠惰な昼下がりのことだった。

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