6. 眠り
日藤が夜の買い出しを終えて帰宅すると、六畳間のちゃぶ台の上で、生首がすやすやと眠っていた。
白い蛍光灯の下、銀の長髪がさらりと揺れる。ふと興味を引かれた彼は、酒やつまみの入ったビニール袋を置いて、鳥籠の前へとそっとしゃがみ込む。
鳥籠の中で眠る生首は、この世のものとは思えぬ美を放っている。実際、この世のものではないのかもしれないが。日藤はもう少し顔を寄せて、観察を試みる。
長いまつ毛はゆったりと伏せられ、均整のとれた顔立ちはギリシャ彫刻のごとく静謐で優美である。耳を近づけると、すうすうという寝息が伝わってくる。その規則的な息遣いのみが、この生首が彫像ではないという事実を示していた。
(こうして黙っていれば、見栄えもするのにな)
日藤はよいしょと立ち上がり、買ってきた酒を冷蔵庫にしまった。缶ビールを片手にぶら下げ、寝室へと引っ込んだ。
真夜中のこと。
鳥籠の中で眠るアシュレイの、その呼吸がひゅう、と乱れた。眉根を寄せて、苦し気に何か呟いている。
「いかないで、…………」
絞り出すように吐かれた言葉は、夜の暗がりに溶けて消えた。
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