7. まわる

「今日のお客は若い女性らしい」

 日藤は焼き物や掛け軸の包みをほどき、順番に棚へと並べていく。手に取りやすいよう間隔を置き、見栄えのするように位置や角度を整えている。

 それを作業台の上から見下ろしながら、アシュレイはからかうような笑みを浮かべる。

「ふうん、それでそんなに張り切っちゃってるんだ?」

「馬鹿言うな。念には念を入れてだ」

 決して賑わっているとはいえないこの骨董品店は、普段は近所の年寄りやコレクターがちらほらと訪れる程度である。そこへ若い女性客が来るとなって、無精者の日藤といえど、少しは整理整頓をしようという気になったようだ。

「それにお目当ての品はたった一つだそうで。なんでも、あちこちの骨董屋を探し歩いているそうだ」

「へえ……変わったお嬢さんだねぇ。俄然興味を惹かれてきたよ。どんな人だろう。美人だと良いなぁ」

「調子に乗るのはいいが、仕事の邪魔はすんなよ」

「はーい、分かってまーす」


 すると、玄関のほうからドアベルの音がした。

「おや、例のお客さんかな」

 アシュレイは興味津々に、鳥籠の前面へと身を乗り出し、もとい頭を乗り出して様子を窺おうとする。額に跡をつけんばかりにぐいぐいと。

 それが良くなかった。アシュレイは不意にバランスを崩し、思い切り鳥籠ごと転げ落ちた。作業台からガタンと落っこちて、積まれた段ボールの上でバウンドし、その勢いのまま床の上を転がっていく。

 鳥籠は5回転半して、ちょうど来店した女性客の足元で停止した。

「あー、目が回るぅ……」

 天井に顔を向けて目を白黒させている生首を、来客は訝しげに見下ろしていた。その視線に気づき、アシュレイは明るい声を上げた。

「やあ、はじめまして、レディ!」

「あの、えっと……?」

 白いワンピースにボレロを羽織った女性は、困った様子で日藤の方を見た。日藤は(どうしたものか)と思案して、とりあえずアシュレイを回収しに向かった。

「私は華麗なる蒐集家コレクターにして旅商人、誰もが振り向く絶世の美人たるアシュレイだ。可憐なレディ、今日ここで出会えたことを光栄に思うよ」

 生首は床の上に転がったまま、よく回る口で喋りつづけている。日藤はそんなアシュレイを鳥籠ごと掴み上げ、両腕に抱えた。

「すみません、うちの生首がご迷惑を」

「いえ、とんでもありません。ちょっと驚きましたけど」

すまなそうに会釈しあう二人。日藤の腕の中でアシュレイは「ほら、迷惑じゃないって」とささやきかける。

「ちょっと失礼」

日藤はアシュレイの鳥籠を片手にぶら下げ、バックヤードへと歩いていく。そのまま倉庫にアシュレイをぶち込んでドアを閉める。

「ねえ! ここ埃っぽいんだけど? おーい!」

ドア越しの抗議は聞こえないふりをして、日藤はお客の方へ向き直る。

「それで、お探しの品とは何でしょうか」

女性は戸惑いつつしばし口ごもっていたが、やがて意を決したように言葉を発した。

「ある鳥を、探しているのです」

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