23. 白
その神社は住宅地の真ん中にあった。木々に囲まれた細い参道を抜けると、すぐに本堂が見えてくる。
境内に入ると、奥の社務所から巫女装束の女性が出迎えてくれる。白髪にショートヘア、両耳に数十個のピアス。その若い宮司は日藤とアシュレイを頭からつま先までじいっと観察すると、「まあ、入ってよ」と社務所の扉を示した。
「今日はお祓いが一件ですよね。これ、着替えです」
長机の上に、白装束がきれいに畳まれて置いてある。日藤が衝立の向こうで着替えている間、アシュレイと女性はふたりきりになった。
「私のことは、祓わなくていいのかい?」
「変なことを聞くね。あんたは祓われたいの?」
アシュレイは鳥籠の中で、あいまいな笑みを浮かべている。
「んー。あたしの見立てでは、別にこのままでいいかなって」
「しゃべる生首なのに?」
「うん。悪霊ってわけでもなさそうだし」
女性はこともなげにそう言って、席を立った。祈祷の準備に向かうらしい。
「まー、あんたが悪さしたら、そん時は成仏させるわ」
「ああ。その時は頼むよ」
パンクな神職はニヤリと一瞥を向け、それから日藤とともに本堂へと向かっていった。
ひとり残された生首は、今までの出来事を思い返した。ふたりが遭遇したいくつもの怪奇現象。六畳間の湯呑と和菓子。夕暮れ時のチャイム。
それからアシュレイは日藤の身にまとった着物の白さを思った。彼の首元には、先日の襲撃で出来た痣が痛々しく残っていた。
アシュレイは彼の背中を寂しげに見つめていた。誰もいない社務所の暗がりで、人ならざるものはひそかに決心する。
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