15. 猫
爽やかに晴れた朝のこと。日藤は空気の入れ替えをするために、廊下の格子戸をがらがらと開けた。
すると庭先の土塀の上に、黒い猫がいた。野良の割には恰幅がよく、鋭い目つきでこちらをじっと睨みつけてくる。
彼はそれをぼんやりと見つめ返していた。すると、
「用心せよ」
荘厳な声色で、猫がそう言った。それだけ言うと、くるりと背を向けて去っていく。その尻尾は二股に分かれている。
それは一瞬の出来事だった。日藤は寝ぼけ眼をこすりながら、まだ夢を見ているのかと思いつつ、室内へと帰っていった。
「ああ、あの猫又のじいさんだろ。こないだ妙に絡んできてさ、顔面猫パンチの痛いのなんの」
こっちが手も足も出ないからって、卑怯だよね! そう不平を漏らす生首に、日藤は口をあんぐりと開けた。
「顔見知りなのか」
「そうだよ。こないだ、近所の空き地で集会したんだってさ」
猫又の集会。日藤は頭痛にうめいた。
「これ以上、妖怪変化の知り合いは作りたくないんだが」
「だぁれが妖怪だってぇ?」
頬をふくらしてむくれる生首をよそ目に、日藤は(ここいらはすでに、人ならざるものたちの巣窟かもしれん)と、ひとり懸念を膨らませていた。
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