第18話 種明かし
「ハッハー! そこでおとなしくしてるといいですネー!」
ケータは、ギプスの口調でそう言うと、マダラ模様のゴブリンに背を向けて、その先にある転職神殿の方へと歩き出しました。
「グギャギーッ!」
マダラ模様のゴブリンは、何度も何度もケータに飛び掛かろうと前に出て、見えない壁に阻まれて悔しそうに地団駄を踏むのでした。
「ハッハー! みんな無事でよかったですネー!」
「ケータ、どうしたの? 話し方が変だよ?」
「ギプスみたいな口調だな」
「……」
ケータが、神殿の入口で合流した仲間達に、ギプスみたいな口調で陽気に話しかけると、ルミナとアンドレが、何が何だか分からないといった顔で戸惑いの言葉を返しましたが、ジェニファーだけは、眉間に皺を寄せたまま黙っていました。
「おっ? そろそろケータが目を覚ますですネー!」
「「「えっ?」」」
ケータが、相変わらずのギプス口調で妙なことを口走るので、ジェニファー達が驚きの声を上げました。
そして、ケータが、神殿入口の壁を背にして座り込むと、ポンッと音がして、ケータの真ん前に突如としてギプスが現れ、同時にケータの両手首、両足首の銀色のリングが消えてしまいました。
「「「なにぃっ!!!」」」
当然、ジェニファー達は、目ん玉が飛び出さんばかりに驚いて、その声が重なりました。
「ハッハー! みんなビックリ顔ですネー!」
「そりゃ、驚くだろ!」
「ちょっと、どうなってるのか説明して!」
「頭痛いな……」
いつもの真っ赤な金魚姿のギプスが、愉快そうにみんなの顔を見て笑うと、ジェニファーとルミナが、抗議するような視線を向けて騒ぎたて、アンドレが額を抑えて呟きました。
「ハッハー! 実はですネー! —— 」
ギプスは、種明かしを始めました。
ケータが、マダラ模様のゴブリンに蹴り飛ばされて、岩に打ち付けられて気絶してしまったため、その後、ギプスが気絶したケータの体を操っていたというのです。
当然、何でそんなことが出来るのかという質問が出ましたが、ケータとギプスの仲だからという何だかよく分からない回答でした。
ちなみに、夜間、ケータが寝ている間に魔物が近寄ってきた時には、ギプスが体を操って逃げていたりするそうです。
「う、うーん……」
「ハッハー! ケータが目を覚ましたですネー!」
ギプスが、ジェニファー達へと概ね説明を終えた頃、ようやくケータが意識を取り戻しました。
「ケータ、無事か?」
「痛いところはない?」
すぐに、ジェニファーとルミナが声を掛けました。
「う~ん、みんな……、って、マダラゴブリンは!?」
少しぼうっとしていたケータですが、突然思い出したように、マダラ模様のゴブリンについて叫ぶと、きょろきょろと辺りを見回しました。
「落ち着け、何とか全員で逃げ切ったぞ」
「そっか、良かったぁ……」
ジェニファーが、ケータの肩を掴んで逃げきったことを伝えると、ケータは、ほっとしたのでしょう、肩の力を抜いて小さく呟きました。
全員無事に転職神殿へ辿り着いたことに安堵したケータ達は、少し休んだ後に、入口の階段を上って転職神殿の中へと入って行きました。
白い石壁で作られた神殿は、空気も清らかに感じられて、どこか神々しい感じがします。ドアは無く、中へ入ると、壁際に頭を丸くした円筒状の白い物体がたくさん並んでいました。
ケータが、中の様子を物珍しそうに見ていると、壁際の白い物体の1つが、石畳をすべるように移動してきました。
「何だ!?」
「ふふっ、ケータ、あれは、転職神殿の案内人だ」
ケータが、突如移動してきた白い物体に驚きの声を上げると、ジェニファーが微笑みながら教えてくれました。
『転職神殿へようこそ。ワタシは、転職神殿の案内人37号です。この転職神殿について分からないことがあれば、何でも聞いてください』
ケータの目の前に来た白い案内人は、抑揚の少ないどこか機械的な感じのする声でそう言いました。
「おおっ、目が光ってる? 何かすごいな……」
「目か? これは目なのか?」
「目に見えるわよ?」
ケータが、案内人37号の上の方に光る2つの光を目だと言って驚くと、アンドレの疑問と、ルミナフォローが入りました。
案内人37号は、真っ白な円筒ボディの上の方に一周黒い帯が入っていて、そこにある2つの丸く光っている部分が目に見えなくもないです。
「ケータ、ギプス、ここまで一緒に来てくれてありがとう」
「ん?」
「ハッハー! どういたしましてですネー!」
ジェニファーが、改まった面持ちで礼を言うと、ケータは、きょとんとし、ギプスが無難に返しました。アンドレとルミナの顔は、少し寂しそうに見えます。
「私達は、ここでジョブチェンジを試みた後、帰還玉でダンジョン入口へ転移するつもりだ」
「そっか、お別れだね……」
ジェニファーが、この後の行動を明らかにすると、ケータは、少し寂しそうに、しかし、にっこりと笑顔を見せて答えました。
「それで、お前達はどうするのだ?」
「えーっと……」
「ハッハー! ケータは、何も考えてないですネー!」
ジェニファーの問いに、ケータが即答できず口籠ると、ギプスが、本当のことを暴露してしまいました。ばらさないでという顔をするケータを見て、ジェニファー達が微笑む中、ギプスが続きとばかりに話し出しました。
「ハッハー! しばらく、ここでトレーニングするですネー! それから、あのゴブリンがどこかへ行ってしまった頃合いを見て、ダンジョンの外を目指すですネー!」
「そうか。うん、それがいいな。あのゴブリンには気を付けた方がいい。私達もダンジョンを出たら、あのゴブリンの事をギルドに報告するつもりだ。おそらく、討伐隊が組まれると思う」
ジェニファーは、ギプスの言葉を聞いて、マダラ模様のゴブリンの脅威に頷き、彼女の考えを話してくれました。
「そうだ、残っている携行食をケータに渡してはどうだ?」
「ああ、そうだな。我々は、ダンジョンを出てから、また買えばいい」
アンドレが思いついたように提案すると、ジェニファーが同意しました。ルミナもうんうんと頷き、さっそくルミナのポーターバッグから携行食をどんどん出し始めました。
「え、いや、それは悪いよ」
「ハッハー! ケータ! ジェニファー達の好意ですネー! こういう時は素直に受け取るですネー!」
ケータは、あたふたしましたが、ギプスが、好意だからというと、ジェニファー達は微笑みながら揃ってうんうんと頷いていました。
「それと、これ、この階層までの地図よ。ダンジョンの外を目指すなら役に立つわ」
ルミナが干し肉とか乾パンなどをこんもりと積み上げた後、ダンジョンの地図を手渡してきました。
「えっ、いいの?」
「うん、私達はギルドでまた買えばいいし、ケータには私の命を救ってもらったんだもん、お礼には足りないけど受け取って欲しいの」
戸惑うケータに、ルミナは、にっこり微笑みながら、自身の気持ちを素直に話してくれました。
結局、ケータは携行食と地図をもらい受け、ケータとギプスには新しく案内人28号が付きました。
「じゃぁな、ケータ、ギプス。討伐隊が組まれたら、私も参加しようと思う。あのゴブリンは何としても倒したいからな」
「あはは、ジェニファー、無理しないでね」
「あー、なんだ……。正直、お前達がいなかったら、ここまで辿り着けたか分からない。ケータ、ギプス、ありがとな。また会おう」
「うん、アンドレも元気でね」
「ケータ、ギプス、ほんとに、本当にありがとう。私も討伐隊には参加したい。荷物持ちだけどね。それでね、すぐには無理だけど、筋トレ頑張って、いつかケータみたいに強くなるわね」
「うん、ルミナも無理はしないでね。それと、地図ありがとう」
「ハッハー! トレーニングは大事ですネー! みんなも筋トレ頑張るですネー!」
ケータとギプスは、ジェニファー達からそれぞれ一言ずつもらい、名残惜しくも彼らとお別れするのでした。
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