7.マダラ模様のゴブリン討伐
第28話 ゴブリン調査
ジャガー警部が率いるマダラ模様のゴブリン調査隊は、ケータが変な気配を感じたという場所へ向かうことになりました。
ほかに3つのパーティーが、この階層を自由に探索していて、後で落ち合おうということになっているそうです。
「この先に、ゴブリン2体」
「えっ? そんな気配ないっすよ?」
ケータが、ゴブリンを感知したことを告げると、スコットが、ちょっと驚いたようすで首を傾げました。
「ふふっ、ケータの索敵能力は、凄いからな」
「いやいやいや、自分も索敵には、かなり自信があるっすよ。このパーティーの斥候役を任されるほどには、魔物を見つけるのは上手いっすからね」
ジェニファーが、ちょっと自慢げにケータを持ち上げると、斥候役のスコットは、自身の索敵能力の高さを主張しました。
「ふむ、確かに、スコットの索敵能力は、そこら辺の斥候よりは遥かに高い。俺が今回の任務に抜擢したくらいにはな」
「そうっすよ」
ジャガー警部が、顎に手を当て、スコットの能力を認める発言をすると、スコットは当然とばかりに頷きました。
「だが、そのスコットより索敵能力が高いとなると、面白いな」
「いや、ちょっと、警部?」
しかし、すぐにジャガー警部が、にやりと口角を上げて呟くと、スコットが、眉根を寄せて抗議の声を上げました。
「ははははは、確かめてみれば分かることだろ? さっさとゴブリンがいるという方へ行くぞ」
「もう、分かったっすよ」
ジャガー警部に促され、スコットは、口先を尖らせ肩を竦めてみせました。
そして、しばらく進むと、スコットは、まさかと目を見開くことになりました。
「うわっ、魔物の気配っす。おそらく2体……」
「ふふっ、ケータの言った通りだな」
驚くスコットに、ジェニファーが、なぜか勝ち誇ったようすで言いました。
「はははは、スコットよりも索敵能力が高いとはな。たいしたもんだ」
「ぐ、偶然っすよ。それに、魔物はゴブリンじゃないかもしれないっす」
ジャガー警部が上機嫌にケータを褒めると、スコットは、負けを認めたくないのか焦った顔で、偶然とかなんとか言い出しました。
「ようし、さっそく確かめようじゃないか」
「も、もちろんっすよ」
警部がニヤリと口角を上げ、楽しそうに告げると、スコットは、引っ込みがつかなくなったのでしょう、虚勢を張って見せました。
しかし、すぐにゴブリン2体と接触し、ジェニファーとアンドレが剣と魔法で倒してしまいました。
「自分のアイデンティティーがぁぁぁ……」
「ふはははははは」
がっくりと膝を付き、白目を剥いて叫ぶスコットを見て、ジャガー警部が、上機嫌に笑いました。
「警部ぅ、笑い事じゃないっすよぉ……」
「スコット、索敵だけがお前のアイデンティティーじゃないだろう。お前は犯罪者相手に勇敢に立ち向かえるだけの戦闘力があるじゃないか」
スコットが、涙目で訴えると、ジャガー警部は、キリっと真面目な顔で、もっともらしく告げました。
「警部ぅぅぅぅ!!!」
「スコット、君ならやれるさ!」
尊敬のまなざしを向け叫ぶスコットに、ジャガーは、嘘っぽい顔で答えました。
「ハッハー! この三文芝居は、いつまで続くですかー?」
「ギプス、そうっとしてやってくれ……」
傍目に見ていたギプスが、率直に疑問を投げかけると、アンドレが、達観した顔つきでぼそりと告げるのでした。
そんな一幕もありましたが、進路の途中にいたゴブリンやほか魔物を倒しつつ、一行は、ケータが変な感じのする魔物を感じ取った辺りまでやって来ました。
「ハッハー! 確か、この先だったですネー!」
「うん、今は、あの変な感じのする魔物はいなくなったみたい」
ギプスの言葉に、ケータが大きく頷くも、すでに魔物はどこかへ行ってしまったようです。
「うむ、取りあえず魔物がいたという辺りまで行ってみよう」
「そうっすね」
ジャガー警部の一声に、スコットが相槌を打ち、ほかのメンバーも頷きます。
森の中を、警戒しながら、しばらく歩くと、ケータが立ち止まりました。
「たぶん、この辺りにいたと思う」
「よし、周辺に魔物の痕跡がないか調べるぞ」
ケータの言葉に、ジャガー警部は、すぐに調査を始めることを宣言しました。
パーティーメンバーは、ジャガー警部の指示に従い、あまり離れすぎない程度に散らばると、警部の進む方向へ歩きながら周囲を調べ始めました。
「警部!! こっちっす!!」
「何か見つけたか!」
スコットの呼び声に、ジャガー警部が、大声を上げながら向かいます。ほかのメンバーも集まってきました。
「こ、これは……」
ジャガー警部が、目の前の光景を見て、悲痛な声を漏らしました。そこには、激しい戦いがあったであろう痕跡として、折れた木々とおびただしい血の跡、そして散らばった遺体があったのです。
「アンガーフレイムのメンバーのようっす」
いち早く遺体を調べていたスコットが、眉根を寄せながら、そう言って汚れて曲がったギルドカードをジャガー警部に手渡しました。
金属製のギルドカードには、アンガーフレイムのリーダーの名前が記されていて、ジャガー警部は、確認するとグッとカードを握りしめました。
「これは酷いな……」
「何なんだこれは?」
駆け付けたジェニファーとアンドレが、遺体を見つめながら眉を顰めて呟き、ルミナは青い顔をして口元を押さえました。それもそのはず、遺体は、まるでミイラのように干乾びていたのです。
対して、警察のメンバー5人は、渋い顔をしながらも、淡々と現場の状況を記録をしながら遺体を集め始めていました。
「警察は、何か知っているようだな……」
「ああ……」
ジェニファーが、警官達のようすを見て、ジャガー警部に鋭い視線で問うと、警部は、短く肯定の言葉を返しました。
「もちろん、話して貰えるのだろうな」
「そうだな。俺達も半信半疑だったんだが、例の組織が研究していた魔物の強化で間違いないだろう。その資料に、強化した魔物が、殺した人間の養分を吸い取ってミイラのようにしてしまうと書かれていたんだよ」
ジェニファーに問われて、ジャガー警部は、今でも信じられない、いや、信じたくないといった顔つきで教えてくれました。
話を聞いて、ジェニファー達も、信じられないとばかりに目を見張りました。
「ハッハー! 人間達は、おかしな魔物を作ってしまったようですネー!」
「……そうだな。そして、研究資料にはな、強化したゴブリンは、人間の養分を吸い取って、さらに強くなったって書いてあったぜ」
ギプスの言葉に、ジャガー警部は、人類を代表したかのように自嘲気味に片を竦めて肯定して見せた後、少し怖い顔つきで、さらに恐ろしい魔物の特徴を語りました。
「人間の養分を吸い取るだって?」
「それでミイラのようになっちまってるっていうのか?」
「うえぇぇぇ……」
ジェニファーとアンドレが、嫌悪感を露にしながらも状況を理解しようと遺体を見つめてて呟く傍らで、ルミナが、何を想像したのか明後日の方向を見つめながら気持ち悪い物を見た時のような声を漏らしました。
「あくまで研究資料に書かれていたことだ。しかし、ほかにこの状況を説明できるものはない。今は、そういうゴブリンが実在するという前提で警戒しつつ、調べを進めていくしかないな」
ジャガー警部は、険しい顔をしながらも、今、出来る最善のことを冷静に話しました。
ジェニファー達も、それ以上、何も言わず、何とも言えない顔つきで唇をぎゅっと結んでいました。
「あ、あの、お手伝い……」
「いやぁ、ありがたいっすけど……」
「おう、ここは俺達警察に任せてくれ。警察として、いろいろ調べにゃぁならんからな。お前は、ジェニファー達と魔物の警戒に当たってくれ」
コミュ障ケータが、おどおどしながらもスコットに手伝いを申し出たのですが、スコットが、苦笑いをしながらジャガー警部へ視線を向けると、警部が、警察の仕事だとやんわり断ってきました。
警察としては、状況を的確に記録し、遺体の状況などを詳しく調べておく必要があったのです。ケータのような子供に、現場を掻きまわされたくないという心情もあったのかもしれません。
その後、しばらくの間、ジャガー警部の指揮の下、警察による現場調査が行われたのでした。
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