第29話 揺れる討伐部隊

 ジャガー警部の指揮の下、警察による現場調査が終わると、アンガーフレイムのメンバーの遺体を1ヶ所に集め、冥福を祈って遺体を埋めました。


 ダンジョンの中では、放っておいても時期に遺体は消えて無くなるのですが、彼らの気持ちの問題なのでしょう、埋葬する形にしたのです。ちなみに遺品となりそうなものは、既に警官の方で収集したということです。


 その後、ジャガー警部の指示により、マダラ模様のゴブリン討伐隊の集合場所へと移動しました。


 集合場所は、小高い場所にそびえ立つ背の高い大木の下で、既に2つのパーティーメンバー16名が集まっていました。そこへ辿り着いた頃には、随分と薄暗くなっていて、集合場所には焚火が焚かれていました。


 集まった人達が、それぞれ軽く挨拶をする中、ケータは、ジェニファー達と一緒に適当な場所を見つけて腰を下ろしましたが、やはりギプスは珍しいようで、ちらちらと視線が集まりました。


 ジャガー警部がスコットと共に焚火の方へ向かうと、焚火を挟むように置かれた丸太に座っていた人達の一部が席を譲りました。


 ジャガー警部は、譲ってくれた人達へ軽く礼を言い、スコットと共に丸太へ腰を下ろしました。


「ジャガー警部にしては、少し遅かったじゃないか」

「ふん、あとは、アンガーフレイムの奴らだけだな」


 頑丈そうな鎧を着け、真っ赤な大盾を背負った大柄の男と、その隣に座る煌びやかな鎧を着けた戦士風の男が、対面に座るジャガー警部へ視線を向けてそれぞれ声を掛けました。


「アンガーフレイムは、全滅したよ」

「どういうことだ?」


 ジャガー警部が、真剣な眼差しを向けて告げると、煌びやかな鎧を着た男が、眉間に皺を寄せて問いました。


「順を追って話そう。——」


 ジャガー警部は、ケータと出会ったところから話を始め、ケータの情報で、怪しい気配の魔物がいた辺りを調べたこと、そこでアンガーフレイムの遺体を発見したことを話し、遺体の状況から、討伐対象であるマダラ模様のゴブリンである可能性が高いことを順に説明してゆきました。


 ジャガー警部が話し終えるころには、みんな黙り込んでしまい、その場はすっかり静まり返っていました。


「それで? 警部は尻尾を撒いて逃げ帰って来たってところか?」

「ふん、現場の調査と遺体の埋葬をしてたら時間が無くなってな、ひとまず、情報共有の為に戻って来たってところだ」


 煌びやかな鎧を着た男が、憤りをぶつけるかのように、ジャガー警部に嫌味を込めて皮肉を述べてきましたが、警部は、軽く鼻を鳴らして冷静に言葉を返しました。


「それが、日和ってるって言ってんだよ! すぐに、ゴブリン共を追っかけて、ぶっ殺しゃぁ良かっただろうが!」


「落ち着けよ。すでに現場にゴブリン共は、いなかったんだ。それに、アンガーフレイムを全滅させた奴らなら、慎重に行動しなければ、こちらが危ないだろ」


 立ち上がって憤る鎧の男に対し、ジャガー警部は、冷静に、しかし、鋭い視線を向けて淡々と慎重に行動するべきだろうと述べました。


 鎧の男は、大盾を背負った男に宥められると、舌打ちをしてからドカッと丸太に腰を下ろしました。


 そんなやり取りの中、ジェニファーが、ケータとギプスに、ジャガー警部の対面に座る男2人の名前を教えてくれました。


 煌びやかな鎧を着た男が、バルモアという名で、ダイヤモンドブレスというパーティーのリーダーだそうです。そして、真っ赤な大盾を背負った大柄な男が、タツオという名で、レッドシールドというパーティーのリーダーだといいます。


「それでだ、明日以降、アンガーフレイムをやったゴブリン共を探し出して、可能ならば討伐しようと思うが、意見を聞かせてくれ」

「ふん、当然だな。必ず見つけ出してぶっ殺してやる」


 ジャガー警部が、明日以降の予定を提示し、意見を募ると、すぐさまバルモアが拳を打ち鳴らしながら同意しましたが、タツオは口元に手を当て少し考えるようすをみせました。


「レッドシールドの意見は、どうなんだ?」


 ジャガー警部は、少し間を置いてから、思考しているタツオに問いました。


「……正直、アンガーフレイムを全滅させたのが本当なら、我々には少し手に余る相手だと思う」

「あん? 何、日和ったこと言ってんだ?」


 タツオが、渋い顔で本音を吐露すると、バルモアが、真横から睨みつけて、ふざけんなとばかりに言い募りました。


「俺達は、ダイヤモンドブレスほど強くて実績のあるパーティーじゃないんだ。ホブゴブリン程度ならばと思い討伐隊に参加したが、アンガーフレイムを全滅させるような魔物が相手なら実力不足だ。正直、パーティーリーダーとして撤退を選択するしかない」

「ちっ、根性なしが……」


 さらに、タツオが自身のパーティーの実力不足を認めた上で、撤退を主張すると、バルモアは、イラついた様子ながらも一言吐き捨てるだけで、視線をジャガー警部へと移しました。


「レッドシールドの意見は分かった。もともと討伐対象の強さが明確でなかったからな。無理はせず、各パーティーの判断で討伐か撤退か判断する契約だ。討伐に参加しなくても問題はない」


 ジャガー警部が、そう言うと、タツオはほっとした表情を見せ、対照的に、バルモアは面白くなさそうな顔を見せました。


「それぞれのパーティー内での話し合いも必要だろう。腹も減ってるだろうから、食事を取りながら話し合ってくれ。後ほど、リーダーの2人に代表して話を聞いて、明日の方針を立てるとしよう」


 ジャガー警部が、そう言うと、バルモアとタツオは、それぞれ了承の意を示し、タツオは、レッドシールドの仲間の下へと向かいました。


 ジャガー警部とスコットも立ち上がり、ケータ達の方へと歩き出し、ダイヤモンドブレスのメンバー達は、焚火の周りに集まりました。


 どうやら、焚火はダイヤモンドブレスがおこしたようで、彼らは、そのまま食事の準備に取り掛かりました。



「さぁ、我々も食事にしよう。スコット達は、野営の準備を頼む」

「「「はい」」」


 ジャガー警部の言葉に、警察の人達は揃って返事をし、野営の準備を始めました。

 パーティーの荷物を一手に引き受けているポーター職のルミナは、ポーターバッグからテントなど野営道具をテキパキと出すと、スコット達が手慣れたようすでテントを運び、適当な場所へ設置し始めます。


 ジェニファー達は、薪集めや簡易な竈作りを手分けして行います。その間にもルミナが折り畳み式の小さな台を設置し、その周辺に水の魔道具や鍋などを置きました。


 それから、ルミナが小さな台の上で食材をテキパキとナイフで加工してゆきます。


「ハッハー! ルミナが食事を作るですネー!」

「えへへ、大したものは作れないけど、暖かいスープがあるだけでもみんな喜んでくれるの」


 ギプスの言葉に、ルミナは、ちょっと照れくさそうに答えました。


「な、なんか手伝う」

「ありがとう。じゃぁ、ケータは、干し肉をお願いね」


 ケータもルミナを手伝いながら、大きな鍋にキノコや干し野菜、干し肉を切り入れました。


 ジェニファー達が火を起こし、簡易的な竈を組み上げ終わると、鍋いっぱいのスープを竈に乗せました。


「ふふふ、実はね、前にケータが作ってくれた牡丹鍋がとても美味しくって、ダンジョンでも温かいものが食べられるんだなって思ったの。それから、ときどきスープを作るようになったのよ」

「ハッハー! 美味しいものは、よい筋肉を作るですネー!」


 ルミナが、鍋を掻き混ぜながら、スープを作るようになったきっかけを述べると、ケータが少し驚いた顔をしましたが、ギプスの一言で、不思議と場が和むのでした。


 そんな中、他のパーティーメンバーから、ギプスの存在について質問があったようですが、ジャガー警部とスコットが適当に答えていたようです。


 ルミナ特性の具沢山スープが出来上がると、みんなで美味しくいただきました。やはり温かなものを食べるとほっこりするようで、アンガーフレイムがやられて落ち込んだ雰囲気の中でも、ほっと一息ついたようでした。



 食事の後、ジャガー警部とリーダー達が集まって、翌日の行動について話し合った結果、調査部隊と報告部隊に分けることにしたようです。

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