第30話 会敵
翌朝、全員で最終確認をした後、それぞれの役割を果たすべく動き出しました。
レッドシールドとジャガー警部の部下2名が、ダンジョンを出るために出発しました。現在持ちうる情報をギルドと警察へ伝え、アンガーフレイムのメンバー達の遺品を届けるためです。
残るダイヤモンドブレスとジャガー警部を含めた警察官3名、そしてジェニファー達とケータの4名で、アンガーフレイムを全滅させた魔物(おそらく狂暴化したゴブリンと推定)を探しに向かいます。
まずは、昨日アンガーフレイムの遺体を見つけた場所へ向かうこととし、ジャガー警部とバルモアの間で、歩きながら魔物を見つけた際の対処についてすり合わせが行われました。
基本、ダイヤモンドブレスがパーティーとして戦闘している間は、警察やジェニファー達は彼らに近寄らないということになりました。バルモアから連携の邪魔になると言い切られたので仕方がありません。
ジャガー警部達、警察官3名と、ジェニファー、アンドレ、ルミナ、ケータは、即席パーティーとして行動することとしました。
「ここが、アンガーフレイムの遺体が見つかった場所だ」
「ちっ、派手に暴れた形跡があるな……」
現場に着き、ジャガー警部が短く伝えると、バルモアは、舌打ちをして辺り一帯のようすを見回しました。周囲には、そこかしこに血の跡があり、壮絶な戦いがあったことがわかります。
「で、どっちを探すんだ?」
「こっちへ向かおうと思う」
「根拠は?」
「無いな。俺の感だ」
バルモアの問いにジャガー警部が短く答えると、バルモアは、軽く舌打ちし、パーティーメンバーへ手早く指示を出して歩き出しました。
ダイヤモンドブレスが先行し、即席パーティーは少し離れて斜め後方を追う形で森の中を探索します。
時々現れるゴブリンなどの魔物を倒しながらしばらく進むと、ケータが眉間に皺を寄せました。
「あの変な気配がする」
「どっちだ?」
「あっちの方。まだ、遠いけど……」
ケータの小さな呟きを拾って、ジェニファーが尋ねると、ケータは、右側を指さして答えました。
「ジャガー警部、ケータが、怪しい魔物の気配を見つけたようだ」
「本当か?」
「あの、結構遠い……です、けど……」
ジェニファーが声を上げると、ジャガー警部の確認の言葉が鋭い視線と共にケータに向けられ、コミュ障ケータが言葉少なめにぼそぼそっと答えました。
「向こうの方らしい。どうする?」
「もちろん、行って確かめてみる。おい、スコット、ダイヤモンドブレスの連中に連絡だ」
「了解っす」
ジェニファーが、コミュ障ケータを補足するように怪しい魔物のいる方向を指し示して指示を仰ぐと、ジャガー警部は短くスコットに連絡を命じました。
討伐隊が進路を右方向へ変えてしばらく進むと、ゴブリン3体と遭遇しました。当然とばかりに、ダイヤモンドブレスが倒しに掛かります。
「邪魔だ、クソゴブリン共!!」
「グギャッ!」
先陣を切って、手にした槍で突き刺そうとしたバルモアでしたが、狙ったゴブリンに素早い動きで躱されてしまいました。
「何ぃ!? ゴブリンごときが避けただと!?」
「「「グギッ!」」」
驚くバルモア達に、反撃とばかりに、ゴブリン共が襲い掛かります。
ゴブリンごときと侮って、思わぬ苦戦を強いられるバルモア達ダイヤモンドブレスは、困惑が隠しきれず、ぎこちない動きで翻弄されてしまっています。
一方、即席パーティーメンバーは、ダイヤモンドブレスの戦いのようすを後方から見ていました。
「あのダイヤモンドブレスが、ゴブリン3体に押されてるっす。い、いったい、どうなってるっすか?」
「信じられんが、あの素早い動き、おそらく狂暴化したゴブリンだろうな……」
スコットが、困惑したようすで呟くと、ジャガー警部が、厳しい表情で、考えられる見解を述べました。
「見ろ、あのゴブリン共、目の下に黒い隈があるぞ」
「はっ!? 本当っすね。寝不足ってわけでも無さそうっすけど……」
「狂暴化したゴブリンの特徴ってところか……」
ジェニファーが、通常のゴブリンとの違いを冷静に指摘すると、スコットが、はっとしてとぼけた発言をし、続いてジャガー警部が、普通のゴブリンと見分けるポイントとして納得顔で呟きました。
実際に、ダイヤモンドブレスと互角に戦っている3体のゴブリンは、目の下に真っ黒い隈があり、その動きは普通のゴブリンとは思えないほど機敏でパワーがあるように見えました。
「マダラ模様じゃないんだね」
「ハッハー! あいつは何処へ行ったですかネー!」
「そう言えばそうだな。アンガーフレイムを全滅させたのは、あのゴブリンだと思ってたんだけどな」
「あの気持ち悪いマダラ模様の奴だよね」
のんきに小声で話すケータとギプスの話を拾って、アンドレとルミナが、以前のことを思い出したように話に加わりました。
確かに、目の前に現れた3体のゴブリンには、黒いマダラ模様はありません。以前出会ったマダラ模様のゴブリンがどこに行ったのだろうかと疑問に思うのも不思議ではありません。
「あっ、あの変な感じの魔物がこっちへ向かって来てる」
「えっ!? そこで戦ってるゴブリンじゃなかったの!?」
そこへ、ケータが怪しい魔物の動向を告げると、ルミナが驚いた声を上げました。どうやら、ルミナは、ケータの言ってた変な感じの魔物が目の前で戦っている隈のあるゴブリン共のことだと勘違いしていたようです。
「違うよ。それより、そこのゴブリン3体と同じ感じの魔物が、変な感じの魔物と一緒に、たくさんこっちに向かってるよ」
「「「「「えっ!?」」」」」
更なるケータの言葉に、ルミナはもちろん、ジェニファー達も揃って驚きの声を上げました。
一方、ゴブリン3体と戦っているダイヤモンドブレスは、少し落ち着きを取り戻してきたようです。
「みんな、落ち着け! こいつらをただのゴブリンだと思うな! 改造ゴブリンだと思って慎重に攻撃を当てて行くぞ!」
「お、おう!」
「わ、分かった」
バルモアが、槍をがっちり握りしめ、良く通る声で仲間に冷静になるよう声を掛けると、浮足立っていた前衛の顔が引き締まり、異質なゴブリン共の攻撃に上手く対処し始めました。
「せやぁ!!」
「グギャァ!!」
落ち着きを取り戻したバルモアは、大振りせずに地味な攻撃を数多く繰り出して相手の体勢を崩し、その隙を逃さず鋭い突きで胸を貫くと、異質なゴブリンは断末魔の叫びを上げてボフっと霧となり、魔石を落として消えてゆきました。
「グギャギャ!」
「グギー!!」
異質なゴブリン達は、1体が倒されると、途端に攻撃をやめて、警戒しながら後ずさりました。
「ちっ、逃がすかよぉ!」
「待って、バルモア! 前方から数体、魔物が近付いてくる!」
追撃を掛けようとしたバルモア達前衛に、後衛の仲間が待ったを掛けました。
バルモア達は足を止め、舌打ちをして、異質なゴブリン共が逃げて行った前方の森の奥の方を見つめました。
「気を付けろ!! おそらくアンガーフレイムを全滅させた奴らだ! 大物が1体混じっている!」
「何だと!?」
戦いを見守っていたジャガー警部が、後方から大声で情報を伝えると、バルモアは驚きの声を上げました。
そして、その直後、前方の森の奥から魔物どもの雄たけびが響いてきました。
「ウガァァァァァ!!!」
「「「グギャギャギャギャッ」」」
大きな野太い雄たけびと、ゴブリン共と思われる声に、嫌でも間近に迫っていることを知ら締められました。
「来るぞ! 体制を整えろ!」
「「「「おう!」」」」
緊張感の漂う中、バルモアの指示に、ダイヤモンドブレスのメンバー達が呼応し、迎撃態勢を取ります。
そして、森の中から大きな棍棒を持ったホブゴブリンとゴブリン共が姿を現しました。そのホブゴブリンの全身には、黒いマダラ模様があり、ゴブリン共の目の下には黒い隈がありました。
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