第27話 討伐隊
ジェニファー達と再会したケータとギプスは、ジャガー警部ことコタロウマルの爆笑自己紹介を経て、彼らのパーティーから歓迎を受けました。
特に急ぐつもりのないケータとギプスは、少しの間、ジェニファー達と同行することにし、ジェニファー達からいろいろ話を聞きました。
取りあえずダンジョンを進みながら話を聞くと、ジェニファー達は、転職神殿からダンジョン入口へと帰還した後、すぐにギルドにマダラ模様のゴブリンについて報告したそうです。
しかし、ギルドの方からは、ゴブリンの変異種だろうと、そっけなく扱われてしまい、討伐隊が組まれることはなかったそうです。
仕方がないので、ジェニファー達は、実力をつけ、信頼できる仲間を探して再度マダラ模様のゴブリンに挑もうと考え、各自訓練したり、共にダンジョンへ入って魔物を討伐したりしていたそうです。
「ふっふっふ、私もルミナも筋トレ頑張ったんだぞ」
「ハッハー! 素晴らしいですネー!」
ジェニファーは、ここぞとばかりに、筋トレをアピールしてきて、ギプスはとても嬉しそうです。
「随分と体が柔らかくなったわ」
「ルミナも成長したですネー! 後でみんなで筋トレするですネー!」
ルミナも話に乗ってきて、ギプスが褒めつつ筋トレ宣言すると、ジェニファーとルミナが、もちろんだと張り切っていました。
そして、話は、ジャガー警部達と出会ったときのこととなりました。話によると、しばらく前に、ジャガー警部達がジェニファー達にマダラ模様のゴブリンの話を聞きたいと言ってきたそうです。
ギルドのお偉いさんも交えて話をしたそうですが、警察の掴んだ情報によると、マダラ模様のゴブリンが、とある組織の研究所にて秘密裏に研究されていた実験体かもしれないというのです。
「ハッハー! あれは人為的に改造されたゴブリンだったですネー!」
「うむ、我々警察は、その可能性が高いと考えている」
ギプスの言葉に、ジャガー警部が話に入ってきました。そして、ジャガー警部が、話を引き継ぐ形で、詳しく話しを始めました。
ジャガー警部の話によると、警察が、別件のとある事件に関して、その組織のアジトの1つに立ち入り、書類を押収して内容を分析、精査した結果、なんと、魔物を強化する研究がされていたことが分かったそうです。
そして、その研究の成果として、ゴブリン強化の実験のことが報告書としてまとめられていたというのです。
警察は、事態を重く受け止め、ギルドに情報提供を求めたところでジェニファー達の話が持ち上がり、詳しい話を聞いたというのです。
「さらに、ギルド側の情報として、ジェニファー達から報告があった頃あたりから、転職神殿へ向かったパーティーが、ほとんど帰還していないというのだよ」
ジャガー警部が、眉間に皺を寄せながら、そう言うと、ジェニファーがその通りだとばかりに大きく頷きました。
「ハッハー! マダラゴブリンに殺されたと思ってるですネー!」
「その通りだ。ギルド側も、放っておくわけには行かないと判断したのだろう、我々が討伐調査の話を持ち掛けると、素直に協力を申し出てくれたよ」
その後、ギルドの協力の下、討伐調査の名目で、いくつかのパーティーに打診し、3組のパーティーに討伐を依頼したのだといいます。
討伐隊を組むと聞いて、ジェニファー達が、是非とも参加したいと申し出たのですが、ギルド側からメンバー不足と言われ、それならばと、警部達とパーティーを組んで参加することになったそうです。
「警察としては、マダラゴブリンに接触した者たちに、その時のようすを現場で詳しく聞きたいからな」
「私達もあのゴブリンにはリベンジしたかったところだからな」
ジャガー警部とジェニファーが、同じパーティーを組むメリットをそれぞれの思惑から教えてくれました。
「それでだ、ケータ」
「えっ?」
突然、ジェニファーに名前を呼ばれ、今まで聞いているだけだったケータは、ちょっと驚いた顔をしました。
「このまま我々と同行して、マダラゴブリン討伐に協力してくれないか?」
「お、俺が?」
「ああ、ケータの索敵能力を見込んでの依頼だ。報酬は、私達が頂く分を山分けにしよう」
「えっと、でも……」
ケータは、いきなりの展開に戸惑ったようすで、ジャガー警部の方をちらりと見ました。
「ん? 俺らの方は歓迎するぞ。手数は多い方がいいし、聞くところによると、お前達もマダラゴブリンの奴と一戦交えたそうじゃないか。その時のことを教えてもらえるだけでもありがたいってなもんだな」
ジャガー警部は、ケータの視線に答えるように、警察としては歓迎すると笑みを見せました。
「どうする? ギプス」
「ハッハー! ゴブリンは殺せる時に殺してしまうのが鉄則ですネー!」
「そうか。そうだよね。よし、俺も協力するよ」
「ハッハー! みんなでマダラゴブリンを討伐するですネー!」
ケータとギプスが、マダラ模様のゴブリン討伐に協力することを決めると、ジェニファー、アンドレ、ルミナが嬉しそうに笑みを浮かべました。ジャガー警部もよしよしと頷いています。
「このまま転職神殿へ向かうですかー?」
「ああ、それなんだがな、——」
ジャガー警部の話によると、昨日、この辺りから逃げて来た人達に出会って話を聞いたところ、やたらと強いゴブリン共がいたとの証言があったため、念のため、ここら辺のゴブリン共を調べようということになったそうです。
証言からは、黒いマダラ模様があったかどうかは、はっきりと覚えていないそうですが、彼らよりも格上のパーティーが、そのゴブリン達相手に苦戦しているのを遠目に見ていて、ヤバいと思って逃げて来たという話です。
「そう言えば、何だか変な感じがする魔物がいたなぁ」
「何!? それは本当か?」
ケータが、ぼそりと呟いた声を拾って、ジャガー警部が大きな声と体でずいずいっと詰め寄って来たところ、コミュ障ケータは、ひぃっ、と小さく悲鳴を上げてしまいました。
「あ、いや、えと、ゴブリンかどうかは……、その……」
「構わん、どこで見かけた?」
コミュ障ケータが、あわあわしながら、ぼそぼそと自信なさげに話すと、ジャガー警部が小さな情報も見逃すまいと、顔をグイっと近づけ、ちょっと怖いくらいの圧を醸し出して尋ねてきました。なんだか尋問しているようです。
「あわわわ……」
「警部、顔が怖いっすよ。ケータ君を脅してどうするっすか?」
あわあわしているケータを見かねてでしょうか、ジャガー警部の部下であるスコットが、警部に苦言を放ちました。
「むぅ、それほどでもないだろ?」
「いやいや、犯人相手に尋問してる時の顔っすよ。それに、警部のデカい体で、そんなに詰め寄ったら圧が半端ないんすよ」
スコットの苦言に口をとがらせて否定するジャガー警部に、スコットは、やれやれといった様子で、容赦なくダメ出しをしました。
「そ、そうか? その、すまんかったな」
「あ、いえ、だ、だいじょぶ…‥です」
ジャガー警部が、スコットのダメ出しを受けて、眉尻を下げて素直に謝ると、コミュ障ケータが、ちょっと噛んで顔を真っ赤にしてしまいました。
「ほらほら、ケータ君がまだ怯えてるっすよ。警部、笑顔が大事っす。ほら、もっと笑顔を見せて、にっこりと笑顔っすよ」
「お、おう……。こ、こうか?」
スコットが、なんだか調子に乗ったようすで、ジャガー警部に笑顔を強要すると、警部は、ぎこちない笑顔をつくって見せます。
「プっははははは、警部の顔ぉ、引き攣ってるっす! 傑作っすね!!」
「この野郎……」
スコットが吹き出してしまい腹を抱えて笑っているのを見て、弄られていたことに気づいたジャガー警部が、こめかみに青筋を浮かべて拳を握りしめました。
ゴツン!
「あ痛ぁー!」
ジャガー警部が、スコットに拳骨を落とすと、いい音がしてスコットが涙目を浮かべました。そんなようすを目の当たりにして、ケータを含め、みんな思わず笑ってしまうのでした。
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