第26話 変な気配
ケータとギプスは、筋トレに励みながらも順調に寄り道?しながらダンジョン出口を目指して、とある階層まで進んできました。
「おっ、ゴブリンだね」
「ハッハー! ゴブリンですネー!」
ケータが、久々にゴブリンを見つけて声を上げると、ギプスもいつもの調子で陽気に答えます。
「どうやら、黒いマダラ模様は入ってないみたいだね」
「そうですネー! 気配からして違いますネー!」
やはり気になるのでしょうか、ケータが、黒いマダラ模様が入っていないことをしっかりと言葉にして確認すると、ギプスが、いつしか出会ったやたらと強いゴブリンとは違うと言い切ります。
「つまりは、撲殺しろということだね」
「イエース! ゴブリンは殺せる時に殺してしまうのが鉄則ですネー!」
そんなふうに軽くやり取りをした後、ケータは、見つけたゴブリン3体へ向けて駆け出しました。
ゴブリンは、不思議なことに、放っておくといつのまにやら増えてしまうので、殺せるならば、見つけたそばから葬り去るのがお約束だと、ケータは、ギプスから教わってきました。
もちろん、自分の力量で殺しきれると判断した時に戦いを挑み、深追いはしないということも教わっています。そして、どんなに弱い魔物でも、群れれば脅威となる事も教えられています。
今のケータの実力ならば、ゴブリン3体など敵ではありません。真正面から戦っても余裕で勝てるでしょう。
しかし、ケータは、いつものように風下から音もなく近づいて奇襲を掛けました。
バコッ! ボコッ! ベコッ!
「ギャッ!」「ギョッ!」「ギェッ!」
あっという間に、ゴブリン3体は、ボフっと霧となり、魔石を落として消えてしまいました。
そんな調子で見つけたゴブリンを片っ端から討伐し、そしてやっぱり筋トレをしながら、今日も今日とて歩みを進めるケータとギプスなのでした。
そんなある日のことです。
「う~ん……」
「どうしたですかー?」
ケータが、眉根を寄せて、とある方向をじぃっと見つめ悩まし気に唸っていると、ギプスが、ふよふよと寄って来て尋ねます。
「なんか変な気配がある……」
「ハッハー! 気になるですネー! 何があるのか確認するですかー?」
変な気配と聞いて、ギプスが、ちょっとワクワクした気配を発して尋ねました。
「いや、なんかもの凄ーく嫌な予感がするから、近づかないでおこう」
「そうですかー。ちょっぴり残念ですネー」
「いや、そんな、残念そうな顔しなくても……」
「ハッハー! 気を取り直して進むですネー!」
ケータの判断に、がっくりと項垂れたギプスでしたが、一瞬にして気持ちを切り替え復活していました。
ケータとギプスは、嫌な予感のする変な気配から離れるように進路を取ると、筋トレとゴブリン狩りに励みながら歩みを進めました。
「おっ、人間達だ」
「ハッハー! また迂回するですネー!」
ケータが、人間の気配を察知したと告げると、ギプスはまた迂回だと言いました。
ケータとギプスは、実質ソロでダンジョンを進んでいるため、怪しまれないように人間達を避けているのです。ポーターの少年がソロでダンジョンへ挑んでいるなんてほぼほぼあり得ないことなので、信じられないと思うのは普通のことなのです。
「いや、この感じ、ジェニファー達かも?」
「ハッハー! 懐かしいですネー! さっそく会いに行くですネー!」
ジェニファー達と聞いて、ギプスが嬉しそうにはしゃぎだしました。
「う~ん、ジェニファー達だと思うけど、以前より気配が薄くて分かり難いかな?」
「ハッハー! ジェニファー達もトレーニング頑張ったですネー!」
「あはは、そうだね。気配を抑えるように頑張ってたもんね」
「もう少し近づいて確認するですネー!」
そんなやり取りをして、ケータとギプスは、ジェニファー達かどうか確認するために動き出しました。
ジェニファー達と転職神殿を目指した頃が懐かしく思えます。ギプスに気配がバレバレだと言われ、悔しそうにしていたジェニファー達は、後ほど気配を抑えるトレーニングもすると言っていました。
「やっぱり、ジェニファー達だね。アンドレとルミナの気配もはっきり分かるけど、ほかにも何人か一緒にいるみたいだ」
「ハッハー! ジェニファー達とパーティーを組んでいる仲間みたいですネー!」
ある程度近づいたところで立ち止まったケータとギプスは、先ほどの気配がジェニファー達のものだったと確信し、ちょっと嬉しそうです。
「せっかくだし、ちょっと挨拶していこうか」
「ハッハー! 強くなったケータの姿を見せるですネー!」
ケータとギプスは、そう言って、ジェニファー達の下へと向かいました。しかし、2人が気配を消さずに近付くと、ジェニファー達が、明らかに警戒するようすが窺えました。
「ジェニファー! アンドレー! ルミナー!」
「「「ケータ!?」」」
「ハッハー! 久しぶりですネー!」
「「「ギプス!!」」」
ケータとギプスが堂々と姿を見せて大きな声で呼び掛けると、ジェニファー達は揃ってケータとギプスを名前を呼び、嬉しそうに近寄ってきました。
ジェニファー達のようすに、パーティーメンバーと思われる人達もケータとギプスへの警戒を緩めたようです。
ケータ達が、思わぬ再開に喜んでいると、ジェニファー達のパーティーメンバー達が集まって来て、その中の大柄の男が代表して声を掛けて来ました。
「ジェニファー、どうやら君達の知り合いのようだな。喜んでいるところ悪いが、紹介してくれないか?」
「ああ、そうだな」
大柄の男の言葉に、ジェニファーは、にこやかに返すと、ケータの背中を押し出すようにして、みんなの前に立たせました。
「紹介しよう、転職神殿近くで会った、ケータとギプスだ」
「ふぇ、あ、あの、ケータです?」
「ハッハー! ギプスですネー! よろしくお願いするですネー!」
ジェニファーの紹介に、ケータは、久しぶりのコミュ障を発症し、ギプスは、相変わらず陽気に挨拶をしました。
「俺は、中央警察の警部で、コタロウマルだ。呼びづらいだろうから、愛称のジャガーと呼んでくれ」
続いて、大柄の男が、にっこり笑顔で自己紹介をしつつ、握手をと右手を差し出してきました。
「あ、はい、ジャガーさん。よ、よろしく、です」
「……」
コミュ障ケータが、何とか頑張って握手をしましたが、ジャガー警部ことコタロウマルは笑顔を顔に張り付けたまま無言です。その後ろでは、仲間達が今にも吹き出しそうに笑いを堪えています。
そして、ジャガー警部ことコタロウマルは、今にも引き攣りそうな顔で、ぐりんとギプスの方へ首を向けました。
「コ、コタロウマルだ。ジャガーと呼んでほしい……かな?」
ギプスに名乗るも、なぜか、語尾が自信なさげに疑問形です。
「ハッハー! コタロウマルは、どうやったら愛称がジャガーになるですかー?」
ギプスが陽気に尋ねると、ジャガー警部ことコタロウマルは、パァっと顔が晴れ渡りました。そして、よくぞ聞いてくれたとばかりにサムズアップを決めてこう言い放ちました。
「よくぞ聞いてくれた! ジャガーが格好いいからさ」
「「「「「プっはははははは!!!!」」」」」
途端に、みんな、大爆笑です。
「警部ー! 十八番の自己紹介ギャグが、完全にスルーされてたっすよ!」
「あははは、ありえねー!」
「やべー、腹が痛いー!! くっ、ハハハハ!!!」
ジャガー警部は、すっかり仲間達から揶揄われ、プルプルと震えています。
「てめぇら! 笑ってんじゃねぇぞ、こらぁ!!」
「ブっはははは! 警部が怒ったっすー!」
「待てや、こらー!!」
「ヒー、はははは!」
ジャガー警部と愉快な仲間達は、追いかけっこを始めてしまいました。
そんな愉快な人達を見て、ケータも少し緊張がほぐれたようで、自然と笑みが零れるのでした。
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