第25話 フォレストウルフ
ケータとギプスは、ルミナからもらった地図を見ながらダンジョン出口を目指して歩みを進めています。
とはいえ、急ぐこともないと、適度に筋トレを行い、適当に魔物を倒し、適度に横道にそれながら、何日もかけて階層を1つずつ渡って行きます。
そして、今、とある階層間をつなぐゲートを抜けると、どこか爽やかな空気の森が広がっていました。
「ほほう、この階層も森が多いみたいだね」
「ハッハー! この階層は、空気が乾いていて気持ちがいいですネー!」
「うん、確かに気持ちがいいね」
「こういう所は、朝晩は冷え込みそうなので注意するですネー!」
そんな感想を話しながら、ケータとギプスは、森の中へと入って行きました。
しばらく歩くと、ケータが何かを感じたようです。
「魔物がいる。3体こっちへ向かってくるかな」
「ハッハー! どうするですかー?」
「う~ん、こっちが風上みたいだから、奇襲は無理そうだなぁ」
「取りあえず、逃げるですかー?」
「いや、相手のようすを見てみようかな」
「了解ですネー!」
方針が決まると、ケータは、辺りを見回して手ごろな木へと手を掛け、猿のように素早く木の上へと登りました。
「ハッハー! 上から覗き見ですネー!」
「そういうこと。いつでも逃げれるように逃走ルートも考えておくよ」
ケータは、ギプスと話しながら手早く周りの木々のようすを確認し、枝伝いに渡って近くの木へ移動して、木の枝に身を隠すように陣取りました。
じっと静かに森のようすを窺っていると、やがて、ウルフが3体走ってきました。そして、ウルフ共は、ケータが初めに登った木の下で立ち止まると、辺りの匂いを嗅いで木の上へと視線を向け、上に何もいないのを確認すると、どこかへ走り去って行きました。
「ウルフだったなぁ……」
「ハッハー! フォレストウルフですネー!」
露骨に嫌な顔をするケータに、ギプスは、いつものテンションで魔物の正確な名前を告げました。
「ウルフ系は、群れてるし、しつこいしで嫌なんだよなぁ……」
「ハッハー! ハスキーウルフから必死で逃げてた頃を思い出すですネー!」
「あの時は、匂いを消すために全身に泥を塗りたくって身を潜めてたよね」
「気配を消す良いトレーニングでしたネー!」
ケータは、ダンジョンのもっと奥深くで、戦っても勝ち目の無いハスキーウルフの群れに見つからないように必死で逃げていた頃を思い出して苦い顔をし、ギプスは、楽しい思い出のように語るのでした。
「でも、まぁ、あのウルフなら勝てそうな気がするな」
「今のケータなら、きっと勝てるですネー!」
「うん、ジョブチェンジしてからも筋トレを続けて来たし、一戦交えてみようかな」
「最悪、木に登れば、奴らも追ってこれないですネー!」
ハスキーウルフよりもずっと弱いとされるフォレストウルフ相手ならばと、ケータは一度戦ってみることにしました。
ケータとギプスは、慎重に歩みを進めながらあーだこーだと作戦を練りました。まずは、はぐれたフォレストウルフを相手にするのが得策だという意見でしたが、そうそう都合よく、1体だけのフォレストウルフがいるのかという疑問もありました。
「あ、いた。1体だけのフォレストウルフ」
「ハッハー! ラッキーですネー!」
幸運にも、すぐに1体だけでいるフォレストウルフを見つけたケータは、少し信じられないと言った顔を見せたものの、すぐに戦いに向かいました。
いつものように、奇襲を掛けるべく風下から近づいて、死角から一気に間合いを詰めるとフォレストウルフの頭めがけて棍棒を叩きつけました。
「ギャン!?」
フォレストウルフは、短く鳴き声を上げると同時に、ボフっと霧となって、魔石を落として消えてゆきました。
「ハッハー! 一撃だったですネー!」
「ふぅ、奇襲が決まって良かったよ」
労うギプスに、ケータは1つ息を吐いてから、にっこり微笑みました。
「これなら2、3体相手でも負けないですネー!」
「う~ん、どうだろう? ウルフは素早いからなぁ」
「それなら、良いトレーニングになりそうですネー!」
「あはは、ギプスはブレないなぁ」
相変わらず、トレーニング発言を繰り出すギプスに、ケータは苦笑いを浮かべつつもまんざらではないようです。
ケータとギプスは、適度に筋トレを挟みながら歩みを進め、良さそうな獲物を探してゆきます。何度かフォレストウルフを探知するも群れの数が多いために避けて通りました。
ほかに見かける魔物は、大きなカエルの魔物くらいで、こちらは群れていないので見つけ次第倒してゆきました。
「おっ、フォレストウルフ3体発見。ちょうどいい獲物だね」
「ヒャッハー! ようやくトレーニング相手が見つかったですネー!」
「慎重に行くよ」
「頑張るですネー!」
ケータは、ちょっと遠くに見つけたフォレストウルフ3体を倒すべく、いつものように風下から音もなく近づいて行きます。
フォレストウルフ共の進路を予測し、大きな岩の上で待ち伏せしたケータは、奴らが眼下を通るタイミングで、一番後ろのフォレストウルフ目掛けて飛び降り、棍棒を叩きつけにゆきました。
しかし、感が良いのか、フォレストウルフは、ギリギリのところでケータの攻撃を躱したため、ケータは、奴らに囲まれてしまいました。
「外しちゃった」
「ハッハー! 囲まれたですネー!」
ケータとギプスは、のんきなことを言いながらも、フォレストウルフ共の攻撃に備えて、しっかりと身構えています。
「ガウッ!!」
「うりゃっ!」
背後から飛び掛かってきたフォレストウルフに、ケータは、まるで後ろに目があるかのような動きで、振り返りざまにカウンターの棍棒攻撃を食らわせます。
カウンターを頭に受けたフォレストウルフは、ボフっと霧となり、魔石を落として消えてゆきました。
「「ガウガウッ!!」」
「はっ! てぃっ!!」
間髪入れずに左右から襲い掛かってきたフォレストウルフに対しても、ケータは無駄のない動きで攻撃を躱しつつ棍棒を叩きつけて、あっという間にフォレストウルフ共を倒してしまいました。
「ハッハー! 危なげなく倒せたですネー!」
「奇襲は失敗してけど、メルメの動きに比べれば、遅いし単調で読みやすかったよ」
「もう少し数が多くないと、トレーニングにならないですネー!」
「あははは、そうかもね」
そんな感じで、ケータとギプスは、その後も適当な数のフォレストウルフを見つけては、トレーニングと称して戦いながら森を進んで行くのでした。
そんなある日のことです。ケータとギプスは、久しぶりに宝箱を見つけました。
「おっ、宝箱だ!」
「ハッハー! 久しぶりの宝箱ですネー!」
宝箱は、木の根元にポツンと置かれていて、ケータとギプスは、嬉々として宝箱まで駆けて行きました。
「何が出るか楽しみだな」
「罠には気を付けるですネー!」
ギプスの注意喚起に、ケータは、もちろんだとばかりに大きく頷くと、宝箱へと手を翳し、探るように宝箱を凝視します。
「取りあえず、触っただけで発動するタイプの罠は掛かってないな」
そう言って、ケータは、宝箱に手を触れて、再び探るように凝視します。
「はっ!? これは、罠を解除しようとすると、ロックが掛かって絶対開かなくなるタイプでは?」
「ハッハー! それなら、そのまま開けるだけですネー!」
ケータが、少し警戒しつつも宝箱を開けると、中にはブーツがありました。
「おっ、靴だ! やったね!」
「靴が出たのは久しぶりですネー!」
革製のブーツが出て来て、ケータは大喜びです。
さっそくケータは、自作のわらじを脱いでブーツへ履き替えました。
「うほっ、ピッタリだ!」
「ハッハー! 宝箱から出たのですから当然ですネー!」
久しぶりに、まともな靴を履いて、ケータは大喜びで跳ね回るのでした。
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