第22話 神殿で筋トレ生活
ここ数日の間、ケータは、毎日筋トレに励んでは、メルメと模擬戦を繰り返していました。
「ここ数日だけでも、ケータの身体能力が随分と向上したことが分かるよ。これも筋トレポーターのジョブ特性のおかげだね」
「へっへー」
模擬戦を終えて、メルメに褒められたケータは、嬉しそうにはにかみました。
「ハッハー! ジョブ特性の検証は、順調ですかー?」
「筋トレの効果を比較できるような人間がいないのが少し残念だけど、まぁ、概ね順調だね」
「なぁ、メルメ、どうして身体能力の向上が、筋トレポーターのジョブ特性のおかげだって分かるんだ? ジョブ特性がなくても、筋トレすれば、徐々に身体能力が向上するだろう? 今までだってそうだったし」
検証が概ね順調だというメルメに、ケータが疑問を投げかけました。確かに筋トレポーターのジョブ特性である『筋トレ効果が向上する』については、ジョブチェンジ前後の効果を数値化しているわけでもないため、よく分からないところです。
「ふむ、それはだね、――」
メルメが、何だか難しい説明を始めました。ケータは、一応質問した手前でしょうか、うんうんと頷きながら聞いていますが、ちゃんと理解できているかは定かではありません。
メルメの説明によると、あくまでメルメの体感的なものですが、ケータは、日に日に身体能力の向上度合いが増してきているのが分かるといい、これは、ジョブ練度が徐々に上がってきているためだというのです。
ジョブ特性を得た直後は、その特性の効果は小さく、ジョブの練度を上げることにより、だんだんと効果が大きくなっていくのだそうです。そして、その変化は新しくジョブを得た直後が最も大きく現れるといいます。
例えば、ポーターのジョブ特性であるポーターバッグの場合、ポーターになりたての頃は、バッグの拡張容量も重量軽減効果も少ないのですが、ポーターとして活動しているうちに徐々にバッグの拡張容量が増え、重量軽減効果も増えて行くのです。
つまり、最近のケータは、毎日同じような筋トレをしているのですが、日に日に筋トレの効果が大きくなっているといい、メルメによると、それこそが『筋トレ効果が向上する』という筋トレポーターのジョブ特性が、ジョブ練度向上によって日々強化されている現れだ、と説明してくれました。
「うん、全然分からないや」
「ハッハー! メルメの説明は、分かり難いですネー!」
「むぅ、そうかね?」
結局、ケータは理解が及ばず、ギプスは分かっているみたいですが、メルメの説明が下手だといい、メルメは、そんな2人のようすをみて、少し悲しそうな顔をするのでした。
そんな毎日を送る中、芝生の庭の片隅で食事の支度をしていたケータが、ギプスに話しかけました。
「そろそろ、香草が切れそうだよ。近くの林にでも探しに行きたいな」
「ハッハー! 最近、神殿の中に閉じこもっていましたからネー!」
「おや? 香草類が欲しいのかい?」
なぜか一緒にケータの作った食事を食べるようになっていたメルメが、話に入ってきました。
「うん、メルメは、良い香草が生えてそうな場所を知ってるの?」
「もちろんだとも。食事が終わったら案内しよう」
「本当! 助かるよ」
「なぁに、いつも美味しい食事をご馳走になっているからね」
味付けに使う香草類の補充が出来そうで喜ぶケータに、メルメは、どこか嬉しそうに微笑みます。
「ハッハー! 例のゴブリンがいなくなっているといいですネー!」
「ゴブリン? はて、この辺りにゴブリンなんか出たかな?」
ギプスが、マダラ模様のゴブリンのことを口にすると、メルメが首を傾げました。どうやらメルメは、近くにゴブリンが出るとは思っていなかったようです。
「それがですネー! ——」
ギプスは、マダラ模様のゴブリンに出会い、この転職神殿まで逃げ込んだ時のことをなんだか楽しそうに話して聞かせました。
「ほうほう、それはまた、大変な目にあったね。しかし、そのゴブリンは、そんなに強かったのかい?」
「ハッハー! パワー、スピード、タフネスさ、どれを取ってもゴブリンの上位種かそれ以上だったですネー!」
メルメは、マダラ模様のゴブリンについて興味をもったようで、その強さについて尋ねると、ギプスは、嬉々として答えました。
「それほどか……」
「さらに、めんどくさいことに、筋肉が硬いのに加えて、時間と共に傷が回復していったですネー!」
唸るメルメに、ギプスが更なる情報を与えました。
「なんと、回復持ちとはね。それ、本当にゴブリンだったのかい?」
「ハッハー! 外見は間違いなくゴブリンだったですネー! 黒いマダラ模様が入っていたですけどネー!」
メルメは、とうとうゴブリンと言うことに疑いの言葉を投げましたが、ギプスは、いつもの調子で外見的特徴はゴブリンだったと述べました。するとメルメは、眉間に皺を寄せて、腕を組み、考え込んでしまいました。
ちょうどギプスとメルメとの話が途切れたところで、ケータが、ふと問いかけました。
「なぁ、ギプス、ここでトレーニング頑張ったら、あのマダラゴブリンに勝てるかなぁ」
「ハッハー! もっともっとトレーニングを頑張れば、そのうち勝てるようになるかもですネー!」
ギプスが、少し曖昧に答えましたが、ケータは、いい笑顔を見せて、小さく、そっか、と呟くのでした。
毎度の食事は、ケータのポーターバッグに入っている干し肉とメルメが提供してくれる野菜類とを煮込んで香草と塩で味付けした特製野菜スープと、ジェニファー達が置いて行った乾パンを添えたものでしたが、とにかく野菜が多くてお腹いっぱいになりました。
メルメは、たまには人間の作る温かい料理もいいものだと、毎回、一緒に食べている状況です。
食事を終えると、メルメに案内されて、白壁の神殿通路を通り、緑色の扉を開けると中には緑豊かな畑がありました。
「神殿の中に畑……」
「ハッハー! なんでもありですネー!」
「私の主食は野菜だからね。食べれそうな野菜やハーブ類なんかも生えているから好きに探して採るといいよ」
メルメの許可を得て、ケータとギプスは、野菜畑の隅に生えているハーブや香草を中心に採ってゆきました。畑の奥には低木が生える林もあって、キノコなんかも取れました。
「ハッハー! ケータ! こっち来るですネー! ここにケータが見たことのないハーブがあるですネー!」
「ほんと!?」
「これまで通った階層に無かったハーブですネー! ちょっとピリッと来ますが美味しいですネー!」
「これか? これなのか?」
ケータは、ギプスの下に駆け付けると、ギプスの示した真っ赤なハーブを摘んで、口に放り込みました。
「うっひゃー! ピリッとくる! てか、辛いよ!」
「ハッハー! ピリ辛スープが出来るですネー!」
「ピリ辛スープ!! チャレンジすべき!?」
「ピリ辛トレーニングですネー!」
「何それ!? 何だかヤバそうな予感!」
「ハッハー! 最っ高に素敵なトレーニングですネー!」
そんな調子で騒ぎながらも、楽しそうに香草類を採りまくるケータ達のようすをメルメは微笑ましく見つめるのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます