第13話 ギプスの謎?

 ケータとギプスは、ダンジョンで出会った3人と共に、岩場の多い荒れた風景の階層を歩いて行きます。


 軽く自己紹介をした後、魔物が近寄って来たことに気づき、とりあえず移動することにしたのです。


「それで、ケータ。結局ギプスって何なんだ?」

「えっと……」


 アンドレが、ギプスについて尋ねてきましたが、コミュ障なケータは、上手く言葉が出て来ません。


「こんな魔物、見たことないわね」

「まさかの妖精さん?」

「どう見ても真っ赤な金魚だよな」


 ジェニファー、ルミナ、アンドレが、ギプスを見ながら、それぞれ好き勝手なことを言います。


「ハッハー! ギプスはギプス、魔物でもなければ、妖精でもないですネー! もちろん金魚なんかじゃないですネー!」

「いや、どう見ても金魚だろ?」


 ギプスが元気よく、みんなの言うことを否定すると、アンドレが、軽く突っ込みました。


「アンドレ、金魚はしゃべらないよ?」

「そうだな、それに金魚は空中ではなく、水の中を泳ぐものだぞ」

「いや、そうだけど……」


 しかし、ルミナとジェニファーにも金魚説を否定されて、アンドレは言葉に詰まってしまいました。


「かわいいから妖精さんだと思ったんだけど、違うのかぁ……」

「ふむ、魔物でも妖精でもないのなら、いったいギプスは何なのだ?」

「ハッハー! ギプスはギプスですネー!」


 ルミナとジェニファーが、腕を組んで考えを口にしますが、ギプスは、陽気に自分は自分と主張します。


「せめて、魔物に近いとか、妖精に近い存在だとか、そういうのであれば、分からないでもないのだが……」

「ハッハー! 強いて言うならば、精霊とゴーレムを加えて2つに割ったような感じですネー!」


 ジェニファーが、ふよふよ泳ぐギプスをツンツンしながら呟くと、ギプスは、陽気に、こんな感じと答えました。


「なるほど? いや、精霊は分かる気がするが、ゴーレムって何だ?」

「金魚の謎が深まったな」

「ふふっ、ギプスちゃんって、不思議な存在なんだね」


 ジェニファー、アンドレが、謎が深まったとばかりに頭を捻る中、ルミナが、にっこり微笑んで不思議生物ということで、考えるのをやめたようです。



「それで、ケータは1人のようだが、仲間は? パーティーメンバーと逸れてしまったのか?」


 アンドレが、話題を変えてきました。ケータが1人で現れたのが気になっているのでしょう。ジェニファーとルミナもケータに視線を向けました。


「え、あの、えっと……、ギプスが、その……」

「ハッハー! ケータとギプスは出会った時からずっと2人でダンジョンを旅してるですネー! パーティーメンバーと逸れたわけじゃないですネー!」


 コミュ障のケータがあわあわしていると、ギプスが代わりに答えました。


「ケータとギプスの出会いが気になるわ!」

「ああ、ギプスの謎が解けるかもしれんな!」


 ルミナとジェニファーが、瞳をランランと輝かせました。


「ハッハー! ケータが池に迷い込んできて、ギプスと出会ったですネー!」

「衝撃的な出会い!?」

「ギプスは池に住んでたのか?」

「金魚の住む池……」

「……」


 ギプスの話に、ルミナ、ジェニファー、アンドレが、それぞれに言葉を挟み、ケータは無言でノリノリのギプスを見つめていました。


「そこから、ケータとギプスの大冒険が始まったですネー!」

「大冒険!?」

「池にギプスの仲間はいたのだろうか?」

「迷子と金魚の冒険って……」

「!?」


 ギプスのすっ飛んだ話に、ルミナ、ジェニファー、アンドレが、それぞれに言葉を挟むので、ちょっとうるさい感じになっていたのですが、そこでケータが、突然立ち止まり、右の方へと視線を投げました。


「魔物がいる。この先にオークが2体」

「「「えっ!?」」」


 ケータの言葉に、ギプスを除く3人が驚きの声を上げました。そして、3人そろってケータの指し示す方へと視線を向けたあと、お互いの顔を見合わせました。


「魔物の気配は感じないな」

「ああ、俺もだ」

「私は、全然わかんないわよ?」


 ジェニファー、アンドレ、ルミナと、揃いも揃って魔物の気配は感じ取れなかったようです。


「ハッハー! ケータの索敵能力は、なかなかのものですネー!」

「なるほど、2人でダンジョンを冒険できるわけはこれか」

「魔物のいないルートばかりを進んできたとでもいうのか?」

「ポーターなのに凄いね!」


 ギプスの言葉に、ジェニファーは謎が一つ解けたと納得し、アンドレはどこか訝し気に呟き、ルミナは瞳を輝かせました。


「それで、どうする?」

「魔力は十分回復した。俺の方はいつでもやれるが?」


 そして、ジェニファーとアンドレが短くやり取りすると、2人はニヤリと口角を上げました。


「決まりだな。そのオーク2体を倒しに行くぞ」

「ポーションが無いんだ。怪我はしないでくれよ」


「魔法で1体、手傷を追わせてくれれば問題ない。魔法を外されたら厳しいがな」

「ふん、オーク相手に外すかよ」


 ジェニファーとアンドレがやる気満々で軽口を叩きあいました。そんな2人をルミナは少し心配そうに見ていますが、魔物を倒しに行くことに異論はないようです。


「ハッハー! 元気がいいですネー! それでは、みんなでトレーニングに行くですネー!」

「トレーニング!?」


 ギプスの言葉に、ジェニファーが、素っ頓狂な声を上げました。


「ふん、トレーニングがごとく、余裕で倒せということだな」

「なるほど、そういうことか。ふふっ、面白い、私の剣捌きを見せてやろう」


 続くアンドレの勝手な解釈を聞いて、ジェニファーは、やる気が増したようです。ギプスのトレーニング発言は、いつもの事なのですが、2人は知る由もありません。



 一行が、ケータの示す方向へ向かうと、やがてジェニファーとアンドレも魔物の気配を感じ取ることができたようです。


 警戒しながらオークを視認できる距離まで近づくと、岩陰に隠れるようにオーク2体のようすを覗き見ます。


「ケータの言った通り、オーク2体だな」

「あの距離で、魔物の種類と数まで分かるとは……」

「ケータ、凄い!」


 ジェニファー、アンドレ、ルミナと、3人の言葉にケータは少し照れた様子で、なぜかギプスは、ふふんとドヤ顔でした。


「アンドレ、行くぞ!」

「おう!」


 頃合いを見て、ジェニファーとアンドレが飛び出すと、2体のオークへと駆け出して行きました。その後ろにピッタリとくっ付いてケータが追いかけます。


「あ、ちょっと、ケータ!?」

「ハッハー! ケータもトレーニングに参加ですネー!」


 岩場の陰で待機するルミナは、ケータが飛び出すのを見て慌てていますが、ギプスはルミナの周りで、陽気にケータを見送りました。


 ジェニファーが、オークと適度な距離を置いて立ち止まり、剣を構えると、その後方でアンドレが、杖を手にブツブツと魔法の詠唱を始めました。ケータは、近くの岩場の陰で気配を消して様子を見ます。


 オークは、ジェニファーとアンドレを獲物と認識したようで、太い棍棒を肩に担いでドスドスと巨体を揺らして近寄ってきました。


「ファイヤーボール!!」


 アンドレが叫ぶと、杖の先からファイヤーボールが飛び出して、前を進むオークに命中しました。


「ブモォォォ!!」


 上半身が焦げ付き、悲鳴を上げるオークへ向かって、ジェニファーが素早く走り込んで行きますが、その隣をケータが追い抜いて行きました。


「何ぃ!?」


 ジェニファーが、飛び出したケータの姿を見て素っ頓狂な声を出しました。その間にもケータは棍棒を手に、手前のファイヤーボールを受けたオークの横をすり抜けると、後ろのオークへと向かいました。


 オークの棍棒攻撃が、ケータを叩き潰しに来ましたが、ケータは、その攻撃を見切って躱すとともに、オークの膝下、いわゆる弁慶の泣き所へと強烈な一撃を叩き込みました。


「ブギャァァ!!」


 オークが痛みに悶え、片足を浮かしたところを狙い、既に背後に回っていたケータは、着地寸前のオークの足を刈り取るように、強烈な一撃を浴びせました。すると、足元を掬われたオークは、いとも簡単に倒れ込んでしまいました。


「うおおおぉぉぉぉ!!!!」

 バキッ!ビキッ!ブキッ!ベキッ!ボキィィッ!!


 ここぞとばかりに、ケータは、雄たけびを上げて、オークの頭を手にした棍棒で滅多打ちにしました。


「ブギィィィィィ!!!」


 哀れなオークは、断末魔の叫びを上げて、ボフっと霧となり、魔石を落として消えてゆきました。


 ケータが、ふうっと息をついて振り返ると、もう1体のオークは既にジェニファー達に倒されていたようで、その姿はありませんでした。


 そして、ジェニファーとアンドレが、信じられないといった顔つきで、ケータをじっと見つめていたのでした。

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